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第2話

Author: 水城澪
「ただし、次の任務世界へ進めば、この世界は即座に崩壊します!」

朝陽の巧妙な欺きは、システムすら騙し通していた。

全身が裂けるように痛み、声を出そうとした瞬間、私は激痛に呑まれて意識を失った。

目を覚ました時には、もう午後になっていた。

ホテルに朝陽と息子の姿はなく、電話をかけても繋がらない。

代わりに届いたのは、携帯の通知だった。

――離婚裁判。

私が欠席したため「夫婦関係破綻」と見なされ、離婚が認められたという判決だった。

乾いた笑いがこぼれた。

私は新しい航空券を買い、彼らの家へ戻った。

リビングでは、朝陽と息子、そして明月が三人で仲睦まじくゲームをしていた。まるで本物の家族のように。

ドアが開く音に気づき、三人が一斉にこちらを振り返る。

その瞬間、明月の瞳に一瞬の狼狽が走った。

「水無瀬さん。朝陽に離婚したって聞いたから、私は……」

「安心して。あなたに文句を言いに来たわけじゃない。荷物をまとめに来ただけ」

階段を上がろうとしたが、足は鉛のように重く、どうしても進めない。

仕方なく、私は背後の朝陽に助けを求めた。

「朝陽、手を貸してくれない?」

その瞬間、明月の瞳に涙が浮かんだ。

薄い肩を震わせ、泣き出しそうに彼を見上げる姿は、いかにも儚げだった。

朝陽の目に、露骨な苛立ちが宿る。

「水無瀬理央(みなせ りお)、離婚はお前が同意したことだろう。何も要らないって言ったじゃないか。

「今さらそんな芝居をして、誰に見せたいんだ?

「どうせ裏切るなら、息子を連れて帰るべきじゃなかった!」

彼は怒りに任せてドアを乱暴に閉め、出ていった。

残された息子も真似をして、小さな声で私を罵る。

「ママは嘘つき!ママは嫌い!出て行け!」

小さな腕で私を押し飛ばし、足が痺れた私は床に崩れ落ちた。

それでも彼は小さな靴で何度も蹴りつけてくる。金属の装飾が脛に食い込み、鋭い痛みが走った。

その靴を買ってやったのは、この私だったのに。

息子がようやく疲れた頃、明月がわざとらしく手を取り、優しく制した。

「水無瀬さん。あなたが朝陽と一緒にいたのは、ただ任務を果たすためだったのでしょう?子どもまで作ったのも、好感度を上げるため。

でも私は違う。本気で朝陽を愛してる。だからどうか、私たちを結ばせてください」

ただの任務だった?

最初は確かにそうだった。だが、この三年間の朝陽の細やかな優しさまで、すべてが任務だったのか。

子どもだって、本来は私が望んだのではない。

手を握って懇願したのは朝陽だった。

――理央……お前はこの世界の人じゃないのはわかってる。だからこそ子どもを作ろう。子どもがいれば、お前は俺を置いていかないだろう?

なのに今、関係を断ち切ろうと必死なのは彼の方だ。

私は明月に向かって静かに告げた。

「攻略任務は失敗した。システムに、最初からやり直せと言われたの」

明月の顔色がさっと変わり、その場に戻ってきた朝陽の目には、嫌悪の色が濃く宿る。

「もうやめろ!理央。お前のシステムだのなんだのっていう口実で、俺と明月を引き裂いてきただけじゃないか!

最初から全部、お前の茶番だったんだろ!

荷物をまとめて出て行け。俺と明月の邪魔をするな!」

「そうだ!ママは嘘つき!僕はおばさんがいい!優しくて、やさしいママがいい!」

息子まで一緒に叫んだ。

私は家を追い出された。

数年分の思い出ごと。

持ち出せたのは、着替え数枚と、一鉢の蓮だけだった。

それは、私と朝陽が婚姻届を出した日の帰り道に拾ったものだ。

花屋のゴミ箱に打ち捨てられていたその鉢を、私はしばらく見つめていた。

すると潔癖症のはずの朝陽が、自ら車を降りてそれを拾い上げてくれたのだ。

そして彼は、その花に名前を与えた——「蓮華(れんげ)」

泥の中からも清らかに咲き誇り、永遠の愛と決して離れない絆を象徴する花。

朝陽はその想いを込めて、そう名づけてくれたのだった。

私は、彼が少しは私に情を寄せてくれているのだと信じていた。

だが結局、この花も私と同じ。

明月の存在に押し出され、家から追いやられた。

倒れた鉢からはじき出された蓮華を拾おうとしゃがみ込むと、砕けた陶片が指先を裂き、鮮やかな血がにじんだ。
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