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第4話

Author: 太い子狐
「朝海お姉さんのほうがいい!朝海お姉さん、大好き!」

陽太は小鳥のように甲高い声で叫び、真千子に抱き上げられ、褒められてはしゃいでいた。

その三世代の仲睦まじい光景を見ていると、瑠衣は、胃のあたりが胃酸が逆流するように疼いた。

命がけで産み、何よりも大切に育ててきた我が子が、彼女にこれほど露骨な嫌悪を示すなんて――信じられない思いだった。

「もう、お兄さん。つんぼと何話してるの?お義姉さん、あんたと踊るの待ってるんだから」

逸斗の妹――白鳥莉緒(はくちょう りお)が急に画面に割り込み、瑠衣に手話で軽く挨拶すると、急いで通話を切った。

画面が暗くなると同時に、部屋中が静寂に包まれた。

瑠衣はもう堪えられず、ゴミ箱を抱えて嘔吐した。

生理的な涙が、込み上げる酸っぱい味とともに、抑えきれずにこぼれ落ちる。

どうやら彼女の見えないところで、白鳥家も逸斗も、とっくに朝海を「認めて」いたのだ。

どうしてこの男が「愛してる」と言いながら、同時に朝海を白鳥家に連れて行けるのか。

瑠衣はソファに凭れ、吐ききって、ようやく体から力が抜けた。

ソファの上で、スマホが明滅しながら震えていた。

画面ロックを外すと、逸斗から泣きつくようなスタンプが何枚も、そして莉緒の謝罪動画まで届いていた。

【瑠衣、莉緒をもう叱ったよ。義姉さんにちゃんと謝るって。怒らないでくれ。あれはただの大雑把な性格なんだ。俺が後で帰るよ……愛してる】

瑠衣はそのまま画面を閉じ、返信しなかった。

もう、逸斗の「帰り」を待つ気力すら残っていない。

ベッドに丸まり、瑠衣はパソコンを抱えて日常業務を処理した。

あと三日でここを離れる。会社の仕事もきちんと引き継がなくては。

最後のメールを送り出すと、空になった受信箱に一通の匿名メールが増えていた。

何気なく添付を開くと、精巧なネックレスの画像が現れた。

それはブランドの限定品のネックレス――「裏切らぬ」。

謎の買い手が高値で落札し、「妻に贈る」と言ったと噂された品だ。

皆はその「謎の買い手」こそ逸斗だと騒ぎ立てていた。

彼は妻を溺愛する男として有名だからだ。

惜しい、半分だけ正しかった。

買ったのは逸斗で、贈られた相手は、彼の妻ではなかった。

傷つくことに慣れすぎて、もう痛みすら感じないようだった。瑠衣は無表情で指を滑らせた。

画面には、真千子が朝海の手首に宝石のブレスレットを嵌めている姿があった。

それは瑠衣がどれだけ願っても与えられなかった、白鳥家の家宝で、次の奥様にだけ許される「証」だった。

莉緒は笑いながら、芸術展のチケットを朝海に渡し、逸斗と行くよう勧めていた。

その芸術展は毎年一度、恋人たちが思い出を刻む場所だ。

逸斗は瑠衣と何度も「一緒に行こう」と約束したが、理由をつけては延ばし続けていた。

今彼は朝海の肩を抱き、莉緒の手からチケットを受け取り、耳元で囁いている。

「……あの服を着てくれるなら、ついて行ってやるよ」

朝海の顔が瞬く間に紅潮し、甘えるように逸斗を睨んだ。

莉緒は手を叩いて笑う。「お兄さん、お義姉さんの方が、あのつんぼよりずっと面白いでしょ?この人なら、お母さんも文句言わないし」

逸斗の声は氷のように冷たかった。「瑠衣をそんなふうに呼ぶな。瑠衣こそがお前の義姉だ。朝海を連れてきたのは、瑠衣の体調が悪かったからだ」

そして、低く続けた。「……まあ、たまに『味変』するのも、新鮮ではあるけどな」

誰も、瑠衣が「聞こえている」とは思わなかったから、映像の音声を消していなかった。

瑠衣の指が震えた。

逸斗の愛は確かにあった。ただしその愛は、他人の目の前では、簡単に崩れ落ちるほど脆かった。

メールの最後に、真っ赤な文字が、皮肉のように滲んでいた。

【宴会は終わったよ、つんぼさん。さて、彼は家に帰ると思う?それとも、私を選ぶと思う?】

半月前なら、瑠衣は取り乱して逸斗に電話していたはずだ。

だが今は、こんなくだらない遊びにすら心が動かない。

――十二時の鐘が鳴った。

逸斗は結局、遅くに帰ってきた。

真っ暗な別荘の前に立つと、理由のない不安に胸がざわついた。

これまでは、どれほど遅く帰っても、寝室には必ず小さな灯りが灯っていた。

別荘全体を柔らかく照らし、温かい帰宅を迎えてくれた。

今夜の別荘は、まるで闇が大きな口を開けているようで、底の見えない深淵のようだった。

「パパ、どうしたの?」眠そうに目をこすりながら、陽太が尋ねた。

逸斗は我に返り、「大丈夫だよ。ママはもう寝てる。静かに入ろう。起こさないようにな」と優しく答えた。

「どうせママは聞こえないんでしょう……朝海お姉さんと違って」

陽太はぼそりと呟いたが、逸斗は気づかないほど焦っていた。

そっと寝室のドアを押し開けると、眠っている背中だけが見えた。

「瑠衣……起きてるか?」

声を抑え、忍ぶように近づき、そっと枕元に小さな箱を置いた。

背後でベッドがわずかに沈む気配。

瑠衣はその瞬間、ゆっくりと目を開けた。

逸斗は優しく彼女を抱き寄せた。

肩に、頬に、柔らかく、名残惜しむようにキスが落ちていく。

「瑠衣……愛してる。本当に、君なしじゃ生きられないんだ」

彼の囁きは純粋で深く、一言一句が真実のように響いた。

瑠衣の涙はこめかみを伝い、枕に吸い込まれていく。

枕元の箱には――ネックレスの「裏切らぬ」。

朝海に贈られた物と、まったく同じ。

しかし、本物は一つしかない。もう一方は偽物だった。

――逸斗、あなたが「裏切らない相手」は、いったい誰なの。
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