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last update Last Updated: 2025-07-08 11:26:07

「お前達は仲良しで良かったよ。兄弟のように育ったからかな。なにかあれば、二人で支え合って生きてくんだぞ」

蜜柑を口に含みながら、俺達はおじいちゃんの言葉に頷いた。すっかり静まり返った客間だったけど、おばあちゃんがやってきたことでまた賑わいを取り戻す。

「鈴君、夜ご飯は食べた? まだお寿司がいっぱい残ってるよ。私達はもう食べられないから食べちゃってちょうだい」

「あ、ありがとうございます」

蜜柑の直後に、マグロの握りを頂いた。これは……すごい。なんて言うか、未知の味だ。でもここに来てからお酒しか飲んでないからありがたかった。

「和巳、帰ってこられて良かったな」

「やっとあっちの生活に慣れてきたところだったんだけど……でも、うん。良かったよ」

……そのあとは、四人で昔話に花を咲かせた。和巳さんの留学先での話が多かったけど、驚くことばかりで本当に楽しかった。

それに俺達がまだ小さかった頃のことを、おじいちゃん達は懐かしそうに教えてくれた。

「和巳は小さな時ほんとにヤンチャでな。当時流行ってた人形の首をもぎ取るような子だったんだよ」

「怖」

和巳さんはそんな事してないと隣で言ってるけど……おじいちゃんがそんな嘘をつくわけないから、多分事実だろう。

時間も忘れて、あっという間に夜更けになってしまった。

「二人とも、今日はゆっくり休んでね。お布団はもう敷いてあるから」

「ありがと、おばあちゃん。おやすみなさい」

「おやすみ」

俺と和巳さんは二階の空き部屋に向かった。おばあちゃん達ももう寝るみたいだから、静かに戸を開ける。窓から見える景色は、山のシルエットだけだ。でも近くにある川のせせらぎが心地いい。

「鈴、大丈夫か?」

「はい。でも和巳さんまで変なことに巻き込んじゃって……本当にごめんなさい」

「いいんだよ。お前の家で世話になる口実ができて、俺はしばらく実家に帰らずに済んだ。だからお前に感謝してるし、むしろ利用してごめんな」

予想外だったけど、確かに今回の事で俺達はお互いに最悪の事態を免れた。

俺は和巳さんのおかげで実家に連れ戻されずに済み、和巳さんは俺と住むことで実家に帰らずに済んだんだ。

「あそこで空気読んで黙ってたのは、さすが俺の鈴! やっぱりお前はできる子だよ!」

「うわっ! ちょっと、和巳さん……!」

途端に強い力で抱きしめられ、呼吸困難に陥る。何とか離してもらい、
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