ログイン天根蓮という少年は、徹底して真面目だった。
それは、連絡先を交換した翌日から届き始めた食事報告を見れば、すぐに分かった。
『朝食。白ご飯。ゆで卵三個。小松菜と豆腐の味噌汁』
『昼食。サラダチキン三つ。水』 『夕食。鶏むね肉を茹でた。ブロッコリー。バナナ。プロテイン』写真は毎回、きちんと撮られていて、量もだいたい確認できる。
送る時間も遅すぎない。そういう意味では、報告としてはかなり優秀だった。
ただし、内容を除いて。
「……何なの、これ。この人、なんで戻ってるの......?」
自分の部屋の机に向かいながら、椿はスマートフォンの画面を見つめていた。
送られてくる写真は、どれも色が少ない。
食材は悪くない。むしろ、一つひとつだけ見れば、運動部の高校生が選ぼうとする努力は見える。鶏むね肉も、卵も、ブロッコリーも、バナナも、プロテインも、目的を持って選んでいるのは分かる。
分かるからこそ、余計に厄介だった。
本人は真面目にやっている。 真面目にやって、これなのだ。『昼食。サラダチキン三つ。水』
その一文を見た時、椿はしばらく画面を見たまま動けなかった。
サラダチキン三つ。
三つ。
昼食として、サラダチキンを三つ。 それを平然と写真に撮り、何の疑問もなく送ってくる。タンパク質を取ろうとしているのは分かる。
脂質を抑えたいのも分かる。けれど、食事とはそういうものではない。
少なくとも、サッカー部であれだけ動いた高校一年生が、昼にサラダチキンを三つ並べて水で流し込むような生活を続けていいはずがなかった。
「……これじゃ、食事じゃなくて補給作業じゃない」
椿は椅子の背もたれに身体を預け、天井を見上げた。
連絡先を交換した時、自分は確かに言った。
作らない。
基本はあなたが作る。 私は見て、気づいたことを言うだけ。その線引きは必要だった。隣に住んでいるからといって、同じ高校だからといって、ましてや相手がドイツ帰りの有望選手だからといって、毎日ご飯を作るような関係になるつもりはなかった。
けれど、送られてくる写真は日に日に椿の中の何かを削っていった。
茹ですぎて硬そうな鶏むね肉。
冷凍のまま解凍しただけに見えるブロッコリー。 皿の上に直に置かれたバナナ。 ゆで卵三個とトーストだけの朝食。 サラダチキン三つの昼食。栄養素を数字で拾おうとしているのに、食事としての形がまるで見えていない。
それは、管理栄養士を目指す椿にとって、見過ごすにはあまりにも気持ちが悪かった。
今は午後八時を少し回った頃。
まだ夕食の報告は届いていない。送られてきていないということは、これから作るのだろう。
そう思った瞬間、椿の頭の中に、白い皿の上で乾いていく鶏むね肉の映像が浮かんだ。
「……もう、無理」
椿は立ち上がった。
机の横に掛けていた薄手の上着を取り、髪を雑にまとめる。鏡の前で一度だけ自分の格好を確認し、すぐにやめた。気にしている場合ではない。
相手は隣。問題は夕食だ。
椿はスマートフォンを机に伏せ、財布も持たずに玄関へ向かった。
◇
四〇一号室のインターホンを押すと、少し間を置いて足音が近づいてきた。
開いた扉から顔を出した蓮は、部屋着に近い黒のTシャツ姿だった。髪は少し湿っていて、おそらく練習後にシャワーを浴びたばかりなのだろう。目元には疲れが残っていたが、椿を見るとすぐに背筋を伸ばした。
「橘さん?」
「今日の夕飯」
「え?」
「まだ送ってないわよね。何を食べるつもりだったの?」
蓮は少し考えてから、素直に答えた。
「これから作るところだった」
「見せて」
「……え、今?」
「今」
椿が言い切ると、蓮は一度だけ瞬きをしてから、扉を大きく開けた。
キッチンへ向かう。
作業台の上には、すでに計量された食材が並んでいた。鶏むね肉。
冷凍ブロッコリー。 オートミール。 プロテインのシェイカー。それぞれが、タッパーや皿の中にきちんと分けられている。量も雑ではない。むしろ、本人なりにかなり正確に測っているのが分かる。
分かるからこそ、椿は余計に頭を抱えたくなった。
「……あなた、これを夕飯にするつもりだったの?」
「ああ。鶏むね肉二百グラム、ブロッコリー、オートミール。タンパク質と炭水化物は足りるはずだ」
「そもそも、なんでまた鶏肉とブロッコリーなのよ。何もわかってないじゃない」
「一応、昨日より炭水化物は増やしたぞ」
「そういう問題じゃないわよ......」
椿は作業台の上に並んだ食材を見下ろし、深く息を吐いた。
「足りないとか以前に、食事として死んでる」
蓮は眉を寄せた。
「死んでる?」
椿は作業台の前に立ち、鶏むね肉を見下ろした。
「昼もサラダチキン三つだったでしょう」
「ああ」
「ああ、じゃないのよ。三つって何? どういう判断で三つになったの?」
「一つだと足りない。二つでも足りない気がした。三つならタンパク質量としては十分だった」
「〜〜っ!」
椿は言葉にならない声を喉の奥で噛み殺した。
悪気がない。
それどころか、本人は本気で考えている。必要な栄養素を取ろうとしている。練習に耐える身体を作ろうとしている。プロになるために、できることをしようとしている。
だから、余計に腹が立つ。
「いい? 数値だけ合わせればいいわけじゃないの。食べ続けられること、消化できること、身体が受け取れること、明日も同じように動けること。全部含めて食事なの」
「消化はできると思う」
「そういう意味じゃないのよ」
そう言いながら、椿は袖を捲った。
蓮が少しだけ目を開く。「橘さん?」
「もういいわ。私が作る」
「いや、作らなくていい。評価だけで」
「評価する以前の問題なの。今ここで止めないと、あなたはまた鶏肉をただ茹でて、ブロッコリーを添えて、オートミールを流し込んで終わるでしょう」
「……その予定だった」
「ほら!もう見てらんないのよ!」
椿はキッチンへ入り、冷蔵庫を開けた。
以前より中身は増えている。最低限ではあるが、使えるものはある。
「調味料は?」
「そこの棚」
「醤油、みりん、砂糖、味噌……あるじゃない。どうして使わないの」
「塩分が増えすぎるかと思った」
「使いすぎなければいいの。味を全部抜くことが正解じゃないわ」
椿は鶏むね肉をまな板に置き、包丁を取った。
蓮はキッチンの入口で立ち止まり、何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。
「じゃあ、今日から少し負荷を上げていこうか」 立った状態で揺れが出ないのを見て、賢崇は短く言った。 蓮はマットの中央に立ち、足幅を整える。骨盤と肋骨の位置を揃えたまま呼吸を通すと、腹部の奥に圧が残り、体の内側だけで支えが立ち上がる。「そのまま、片脚に乗ってみようか」 蓮は重心を右へ移し、左足をわずかに浮かせる。支点が片側に寄るが骨盤は傾かず、呼吸の流れも崩れない。吐き終わりでも圧は抜けないまま残る。 数呼吸維持するが、揺れない。 賢崇が一歩近づく。「少しだけ押してみるよ」 肩口に指が触れる。押すほどの力ではないが、外へ逃げる方向が一瞬だけ生まれる。蓮の体がわずかに揺れる。 だが、崩れない。 呼吸を止めず、圧を残したまま支点を戻す。「……今の、外に逃げかけたね」「はい」「でも戻した。力で固めてない」 蓮は何も言わず、そのまま維持する。 賢崇は反対側に回り、今度は背中側に指を当てる。わずかに強く後方へずらす。体が一瞬だけ遅れるが、呼吸を合わせるとすぐに戻る。骨盤は落ちず、支点も崩れない。「いいね。戻れるようになってる」 蓮はゆっくりと足を戻し、もう一度同じ姿勢に入る。今度は最初から揺れが小さく、外へ逃げる前に内側で収まる。 賢崇は腕を組む。「支えるだけじゃなくて、戻せてる。ここからが使える状態だね」 蓮は短く頷く。 壁際では椿がノートに視線を落とし、ペンを走らせている。視線を上げるのは、揺れが出て戻るその瞬間だけで、記録のタイミングに無駄がない。「反対もやってみようか」 蓮は続いて左脚に乗る。わずかに揺れが出るが、呼吸を合わせるとすぐに収まる。 賢崇は間を置き、同じように肩へ触れる。今度は内側へ崩す。膝がわずかに内へ入るが、そのまま戻る。足裏で踏ん張るのではなく、骨盤の位置だけで修正が入る。「……左右差はまだあるね。でも問題ない範囲だ」 蓮は姿勢を戻し、呼吸を整える。
「じゃあ、今日から少し負荷を上げていこうか」 立った状態で揺れが出ないのを見て、賢崇は短く言った。 蓮はマットの中央に立ち、足幅を整える。骨盤と肋骨の位置を揃えたまま呼吸を通すと、腹部の奥に圧が残り、体の内側だけで支えが立ち上がる。「そのまま、片脚に乗ってみようか」 蓮は重心を右へ移し、左足をわずかに浮かせる。支点が片側に寄るが骨盤は傾かず、呼吸の流れも崩れない。吐き終わりでも圧は抜けないまま残る。 数呼吸維持するが、揺れない。 賢崇が一歩近づく。「少しだけ押してみるよ」 肩口に指が触れる。押すほどの力ではないが、外へ逃げる方向が一瞬だけ生まれる。蓮の体がわずかに揺れる。 だが、崩れない。 呼吸を止めず、圧を残したまま支点を戻す。「……今の、外に逃げかけたね」「はい」「でも戻した。力で固めてない」 蓮は何も言わず、そのまま維持する。 賢崇は反対側に回り、今度は背中側に指を当てる。わずかに強く後方へずらす。体が一瞬だけ遅れるが、呼吸を合わせるとすぐに戻る。骨盤は落ちず、支点も崩れない。「いいね。戻れるようになってる」 蓮はゆっくりと足を戻し、もう一度同じ姿勢に入る。今度は最初から揺れが小さく、外へ逃げる前に内側で収まる。 賢崇は腕を組む。「支えるだけじゃなくて、戻せてる。ここからが使える状態だね」 蓮は短く頷く。 壁際では椿がノートに視線を落とし、ペンを走らせている。視線を上げるのは、揺れが出て戻るその瞬間だけで、記録のタイミングに無駄がない。「反対もやってみようか」 蓮は続いて左脚に乗る。わずかに揺れが出るが、呼吸を合わせるとすぐに収まる。 賢崇は間を置き、同じように肩へ触れる。今度は内側へ崩す。膝がわずかに内へ入るが、そのまま戻る。足裏で踏ん張るのではなく、骨盤の位置だけで修正が入る。「……左右差はまだあるね。でも問題ない範囲だ」 蓮は姿勢を戻し、呼吸を整える。
トレーニングを始めて三日目の朝、橘家に隣接されたトレーニングルームで、蓮は足裏を合わせて膝を外へ落とす。骨盤を立てたまま呼吸を通すと、初日と前回に途中で触れていた引っかかりが手前で消え、そのまま関節が一段奥で収まって角度が揃う。 吐くたびに膝がわずかに沈む。だが、落ちる先はぶれない。 蓮は数呼吸そのまま保ち、ゆっくり戻してからもう一度同じ体勢に入る。今度は探る間がなく、最初から止まる位置が決まっている。 正面に立つ賢崇は何も言わず、膝の高さと骨盤の角度、それに呼吸の流れだけを追っていた。「……いいね。そのまま、もう一回入ってみようか」 蓮は短く頷き、同じ位置まで膝を落とす。吐き終わりでさらに数ミリ沈んでも、そこで形が崩れない。 賢崇が横へ回る。前回は膝の外へ手を添えて止まりやすい位置を探っていたが、今日は触れる前に動きが収まっていた。「……押さなくても入るね」 蓮は視線を落とし、自分の膝の位置を見る。「昨日より深くなってますかね?」「うん。しかも無理がない」 賢崇は軽く膝の外に手を置き、逃げる方向だけ塞ぐ。蓮はそのまま呼吸を続け、関節の奥に残っていた抵抗を探るようにわずかに沈むが、初日にあった詰まりは戻ってこない。「可動域が広がってきているだけじゃないね。止まる位置も揃ってる」 蓮は姿勢を戻し、そのまま股関節から折るように前へ倒れる。背中のラインを崩さずに角度を保つと、腿の内側に入る張りが途中で散らず、前より深いところで均一に伸びる。 賢崇が視線を向けると、壁際からフォームローラーが転がってくる。賢崇が示した位置に内ももを当て、蓮は体重を預ける。鈍い圧が一点に入るが、前回のように逃げるような硬さは続かず、数呼吸で奥の抵抗がほどけた。「そこ、抜けるの早いな」 蓮は返事をせず、角度だけを微調整する。圧が抜ける位置を探る動きに迷いがなく、乗せ直したあとも同じところへ戻る。 壁際では、椿がノートに視線を落としたままペンを走らせている。途中で一度だけ手を止め、蓮の膝の落ちる位置と呼吸の長さを見てから、また記録
翌朝、橘家に隣接されたトレーニングルームに3つの影があった。 畳に敷いたマットの上で、蓮は脚を伸ばし、片膝を抱え込むように引き寄せると、骨盤が後ろへ倒れない位置で止める。呼吸を整え、吐くたびに腿の付け根に残る抵抗がわずかにほどけていくのを確かめる。足先の角度と重心の位置を崩さないまま保つと、動かさなくても関節の収まりだけで姿勢が安定する。 正面から視線が落ちる。「そのまま、少しキープしてみて」 膝を抱えた位置で静止し、腹部に軽く力を残して背中のラインを崩さないまま、吸って吐く流れに合わせて関節の奥を探る。足首は自然に可動域を保ったまま余計な緊張がなく、支えようとしなくても角度が揃う。「……足首、よく動くね」「ボール触る中で、使ってました」「うん、いいと思う」 視線が膝を越えて上がる。「ただ——」 横に回り、膝の外側に手が添えられる。そのまま外へ誘導され、開きかけた角度が途中で止まり、関節の奥で引っかかる感覚だけが残る。「ここ、少し止まりやすいかな」 蓮は視線を落とし、止まった位置を確かめる。「……股関節、ですか」「うん。足首に対して、少しだけ可動域が足りない」 反対側も同じように押される。左右とも、似た位置で止まる。「大きく崩れてるわけじゃないけど、このままだと上で詰まりやすいかな。踏み込みも切り返しも、下で吸収してる分だけ、上の動きが出し切れない」 脚を解いて軽く動かす。ターンのときに感じていたわずかな引っかかりと、今の位置が重なる。「ターンのときに、引っかかる感じはあります」「だろうね。そのままでもプレーは成立するけど、しなやかさを出すなら股関節も動かしておきたい」 蓮は短く頷く。「そのまま、両脚開いてみて」 足裏を合わせ、膝を外へ落とす。骨盤を立てた位置を保ちながら姿勢を整えると、背後から軽く押される。「呼吸、止めないで」 吐く。力を抜く。わずかに沈む。だが途中で止まり、それ
部屋に荷物を置いて扉を閉めると、蓮はジャージに着替え、そのまま部屋を出た。 廊下に出て、リビングへと向かう。 リビングでは既に椿と橘母が調理を始めていた。「……もういいの?」「ああ、着替えるだけだったから」 それだけ聞いた椿は、皿への盛り付けを再開する。 橘母がある程度進めていたらしく、準備はほとんど終わっていた。「橘さん、なんか手伝うことは……」「大丈夫よ」 「あら、お客さんなんだからゆっくりしてて頂戴」 「お気遣いありがとう。二人に任せてもらって大丈夫だよ」 三人が揃って反応し、顔を見合わせる。 橘母が愉快そうに告げる。「ここ、みんな橘だからややこしいのよね。名前で呼んで頂戴?」「わかりました。えっと……」「そういえば、自己紹介がまだだったわね。 椿の母、橘 梓です。娘がいつもお世話になっています」「梓さん、改めてお世話になります。賢崇さんも、よろしくお願いします」「ええ、こちらこそよ」 「トレーニング外では、実家だと思って過ごしてもらっていいからね」「ありがとうございます。 椿、やっぱりなんか手伝おうか?」「なっ……あなた躊躇いってもんがないの…?」「なにが?」「名前を呼ぶことに関してよ。あっさり呼び方変えちゃって」「別に、そんな気にすることじゃないだろう?」「これだから海外帰りは…… はぁ。とりあえず準備は大丈夫だから座ってていいわよ」「そうか、わかった」 蓮は大人しく席に着いた。 ぶつぶつと頬を赤らめながら文句をこぼす椿の隣で、梓が頬に手を当てながらため息をつく。「この子ったら、名前呼びくらいでこんな動揺しちゃって」「うるさい、慣れないもんはしょうがないでしょ」 梓は「先が思いやられるわぁ」と言いながら、がよそった皿を手際よく食卓へ運ぶ。「さぁ、冷めないう
終業式の後、校門を出たところで蓮は一度だけ足を止め、グラウンドから断続的に響いてくるボールの音と掛け声に短く視線を向けた。 ボールの音が、一定の間隔で響いている。もう、部活は始まっているらしい。 しばらくそのまま見てから、何も言わずに視線を外し、そのまま歩き出した。 自宅に戻ると玄関には既にスーツケースが置かれていた。 リビングの扉の向こうからは、「遅い」と椿の声が飛んでくる。「準備は?」「終わってる」 短く返してそのまま自室に入り、あらかじめ用意していた服に着替え、シューズとノートをバッグに詰めて口を閉じる。 余計な確認はせず、そのままリビングに戻った。「行くわよ」「ああ」 二人はそのまま家を出た。キャリーケースの車輪が路面を擦る乾いた音だけを背後に引きながら、駅までの道を並んで歩く。 会話らしい会話は交わさないまま改札を抜けて電車に乗り込み、空いた席に並んで腰を下ろすと、流れていく景色の中で見慣れた街並みが少しずつ切り替わっていくのを黙って眺めた。「ここからどれくらいかかるんだ?」「2回乗り換えして、3時間半くらいね」「そこそこ遠いな」「まあね」 それ以上は続かず、電車の揺れと車内アナウンスだけが時間の経過を知らせた。 やがて降車駅に着くと二人は無言のまま立ち上がって改札を抜けた。 肌に当たる空気の温度と乾きが明らかに変わったのを感じながら、人通りの少ない駅前を抜けて住宅街へ入ると、舗装の状態や建物の配置を横目に見ながら奥へ進んでいく。 やがて椿が足を止めた先には、住居とそれに連なる別棟が同じ敷地内で機能を分けるように並んでおり、外観に派手さはないものの動線の整理された造りが一目で分かる。「ここよ」 そう言うと椿は、鍵を使って扉を開ける。 いつものマンションとは、違う鍵。「ただいま」 すぐに奥から足音が近づき、「おかえり」と明るい声が返ると女性が姿を見せ、椿の後ろに立つ蓮を一度で見