Share

第466話

Author: 星柚子
それでもあの男は満足せず、ついには闇金にまで手を出し、自分の欲望を満たそうとした。当然ながら返済などできるはずもなく、債権者たちは何度も家へ押しかけて騒ぎ立てた。

外祖父母はもともと彼に振り回されて体調を崩していた。そんな取り立て騒ぎに耐えられるはずもなく――

間もなく、二人とも病に倒れて亡くなった。

それでも彼は止まらなかった。今度は奈穂の母に、さらに金を要求し続け、ついには――

自分の妹を売り飛ばそうとまでした。

幸い、その後奈穂の母は健司と出会う。二人は真剣に愛し合った。

健司は、あの男を恋人に二度と近づかせたくなかった。そこで多額の金を渡し、こう告げた。

――この金を受け取った時点で、兄妹関係は完全に終わりだ。今後どんなことがあっても、二度と俺たちに関わるな。

男はあっさり受け取った。

その後、健司はさらに人を使ってあの男を脅し、できるだけ遠くへ消え失せ、二度と姿を見せるなと警告した。

本当に怖気づいたのか、金で満足したのかは分からない。だが少なくとも、この何年もの間、彼が水戸家に近づくことはなかった。

奈穂の母が亡くなったときでさえ、姿を見せなかった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第816話

    「私にも詳しいことは分かりません。ただ、すぐ社長に報告しないと……」秘書は二人に軽く会釈すると、そのまま慌ただしく烈生のオフィスに入っていった。逸斗は、音凛の変わった顔色を見て、思わず嘲るように笑う。「お前の起こした問題を、また兄さんが後始末するのか。もし親父に知られたら、激怒するだろうな」――もちろん怒る。音凛は、父がどんな男かよく分かっている。もし今回、自分が完全に成功していたならまだ良かった。だが実際には失敗し、そのうえ正修から秦グループへの報復まで招いてしまった。父が知れば、間違いなく激怒する。ただ叱責されるだけならまだいい。彼女が本当に恐れているのは、怒った隆徳が、自分の持つ権限を取り上げることだった。だが逸斗の前で弱みを見せたくはない。音凛は「自分の心配でもしてなさい」とだけ吐き捨て、そのまま足早に去っていった。……午後、奈穂は久しぶりに会社に顔を出した。手術を受けてからしばらく出社していなかったが、もともと仕事は得意だ。たった半日で、会社の現状をすっかり把握してしまった。いくつか書類を片付けたあと、奈穂はこめかみを軽く揉む。壁の時計を見ると、すでに午後五時半を回っていた。窓の外は徐々に暗くなり始め、夕焼けの光がブラインド越しに差し込んでいる。オフィス全体が、柔らかな金色に染まっていた。正修に【仕事終わった?】とメッセージを送ろうとしたその時――突然、秘書から内線が入る。「社長、受付から連絡がありまして。『秦』という姓の男性がお会いしたいそうです」秦?奈穂の脳裏に、すぐ秦家の兄弟が浮かんだ。だが烈生の性格と立場を考えれば、自ら水戸グループまで来るとは思えない。となると、逸斗だろう。「会わない。帰らせて」奈穂は今、逸斗と顔を合わせる気分ではなかった。少し考えてから、さらに付け加える。「もし帰らないなら、警備員に追い出させて」「承知しました」秘書はそう答えて電話を切った。奈穂は正修にメッセージを送る。だが返信はない。おそらくまだ仕事中なのだろう。なら直接九条グループに行って待とう――そう思い、彼女は荷物をまとめてオフィスを出た。エレベーターで地下駐車場に降りる。だがそこで、思いがけない人物を目にした。逸斗だった。黒いカジ

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第815話

    「別に深い意味なんてないわ。ただ褒めてるだけ」音凛のその言い方には、どこか皮肉めいた響きが混じっていた。だが烈生がさらに問い詰める前に、彼女はすでにハイヒールを鳴らしながら、振り返りもせず去っていく。烈生はずっとその背中を見つめていた。彼女の姿がオフィスから完全に消えたあとも、なお扉を見つめ続け、眉を深く寄せる。音凛が意味もなくあんなことを言うはずがない。彼女は一体、自分の知らない何を知っているのか。「だからみんな、お兄さんに夢中になるのかしら」――あの「みんな」とは、一体誰のことだ?音凛のほうは、そんなふうに烈生に疑念を植え付けたことなど、まるで気にしていなかった。オフィスを出た彼女は、電話をかけようとして――ふと、近くから足音が聞こえた。何気なく振り返った瞬間、その顔が一気に冷え込む。現れたのは逸斗だった。しかも、その表情は先ほどの烈生と同じくらい険しい。「誰の許可で来たの?」逸斗が口を開く前に、音凛が先に言い放つ。「ここは秦グループ本社よ。あんたみたいなのが来ていい場所じゃないでしょ」だが逸斗は、そんな挑発など意にも介さなかった。彼は彼女を睨みつけ、徐々に目つきを鋭くしていく。「水戸さんが川岸市で襲われかけた件……お前が裏で糸を引いてたんじゃないのか?」音凛は呆れを通り越して、笑いそうになった。一人ならまだしも、二人揃って奈穂のことで自分を問い詰めに来るなんて。――何様のつもり?ほんと、暇なのね。「あなたみたいな婚外子に、私を問い詰める資格なんてないわ」そう言い捨て、彼女は立ち去ろうとする。だが逸斗は離そうとせず、勢いよく彼女の手首を掴んだ。「待て。まだ話は終わってない!」触れられた瞬間、音凛の中に強烈な嫌悪感が込み上げる。次の瞬間には、考えるより早く平手が飛んでいた。「触らないで!」乾いた音が廊下に響く。逸斗は顔を打たれ、頭を横に弾かれた。頬がじんじんと痺れる。彼は舌先で頬の内側を押し、怒りのあまり、かえって笑ってしまったように、ゆっくり顔を戻した。その目には冷え切った殺気が宿っている。「……女を殴らない主義でよかったな」音凛は乱暴に手を振り払い、冷笑した。「その度胸、あんたにあるの?所詮は婚外子なんだから、せいぜい尻尾巻いて大人しくしてな

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第814話

    烈生がその件を知っていること自体、音凛にとっては意外でも何でもなかった。彼が奈穂を特別気にかけていることくらい、音凛も分かっている。あれほど大きな騒ぎになったのだから、耳に入らないはずがない。「へえ、そうなの?怖いわね」音凛は顔色一つ変えずに言った。「だから前から言ってたじゃない。水戸奈穂をお兄さんのものにできる方法を考えろって。もし彼女がお兄さんのそばにいたら、そんな目には遭わなかったかもしれないのに」「音凛!」烈生が鋭く怒鳴る。それに対し、音凛の表情も徐々に冷えていった。「今回の川岸市行き、私はちゃんと仕事をまとめてきたし、そのついでに九条グループのプロジェクトにも打撃を与えた。お父さんだって知れば褒めてくれるはずよ。それなのに何?昔はお兄さんだって九条グループのプロジェクトに散々嫌がらせしてたじゃない。どうして私だけ駄目なの?」「俺が気にしているのはそこじゃない」烈生は冷ややかに彼女を見据えた。「ああ、水戸奈穂のことね」音凛は髪を耳にかき上げる。「あの夜の殺し屋襲撃は私が仕組んだって疑ってるんでしょ?お兄さん、証拠はあるの?それに今はもう黒幕まで逮捕されたんでしょう?どうして私を疑うの?」そう言ったあと、彼女はふいに笑みを浮かべた。「百歩譲って、本当に私がやったとして、それでお兄さんは私をどうするつもり?水戸奈穂のために、妹を切り捨てる?」烈生の声は重く沈む。「音凛、警告しておく。そんなことは二度とするな。九条正修をどう潰そうが俺は構わない。だが、もう一度でも水戸さんに手を出したら……その時は本当に兄妹の情なんて捨てる」確かに、あの夜の襲撃と音凛を直接結びつける証拠はまだない。だが彼は、ほとんど確信していた。――あの件に、音凛が無関係なはずがない。自分の妹なのだ。音凛がどんな人間か、よく分かっている。音凛はなお笑みを浮かべていた。だが、その指先は強く握り込まれていた。「お兄さんが水戸奈穂を好きなのは知ってたけど……まさかここまでとはね。妹まで脅せるなんて」烈生が口を開く前に、彼女はさらに侮蔑を込めて続ける。「でも、お兄さん。ここで私を脅したところで何になるの?水戸奈穂は、お兄さんがこんなことしてるって知ってるの?お兄さんのこういう必死さに感動でもしてくれると思う?そんな無駄な脅しを私にする

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第813話

    「秦音凛?」奈穂は眉をひそめた。「そういえば、川岸市のホテルで彼女に会ったのよね。じゃあ今回の件って……彼女が関係してるの?」「まだ断定はできない」正修は奈穂の髪を指先で弄りながら答える。現時点では、音凛とあの夜の殺し屋襲撃を直接結びつける証拠はない。そもそも九条家と秦家は昔から不仲だ。秦家の人が九条グループのプロジェクトに妨害を入れること自体、今さら珍しい話でもない。だが、タイミングがあまりにも出来すぎていた。だからこそ、この件はまだ調べ続ける必要がある。そして同時に、音凛への警戒も強めなければならない。それに、音凛がどんな理由で九条グループ支社のプロジェクトを妨害したにせよ、この件の落とし前は必ずつけさせるつもりだった。奈穂は小さくあくびをし、そのまま正修の胸にもたれかかる。彼がそばにいるせいだろうか。こんな物騒な話をしていても、不思議と心は落ち着いていた。「もう少し寝るか?」正修が柔らかい声で尋ねる。「ん……いや、ダメダメ」奈穂は慌てて体を起こした。「お昼を食べたいし、そのあと会社にも行かなきゃ」そう言ってから、彼女は恨めしそうに正修を見る。「全部あなたのせいなんだから」「どうして俺のせいになるんだ?」正修は思わず笑った。「今朝、先に積極的だったのは君のほうじゃなかったか?」「わ、私は……!」奈穂の頬がほんのり赤く染まる。だがすぐに開き直ったように胸を張った。「だって最初にキスして誘惑してきたのはあなたでしょ!私の意志が弱かったせいで、まんまと罠にはまったの!」「君の意志が弱くて助かった」正修は指先で彼女の頬を軽く撫でる。「ふん、次は絶対引っかからないから」「別にいい」正修は笑みを崩さない。「次は俺の意志が弱くなればいいだけだ」奈穂もつられて笑ってしまう。「ナルシストだね。まるで私があなたを誘惑するみたいな言い方」正修は何も言わず、ただ彼女の唇に軽く口づけた。――彼女は知らない。彼女は何もしなくても、十分すぎるほど自分を振り回していることを。二人が甘い空気に包まれているその頃、飛行機を降りたばかりの音凛のもとに、突然烈生から電話がかかってきた。「今どこだ?」烈生の声はどこか冷え切っている。「今ちょうど川岸市から戻ったところ。どうしたの?お兄さんが私に用なんて珍しいわね」

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第812話

    自分がここまで必死になってきたのは、すべて烈生のそばに行くためだった。今さら諦めるわけにはいかない。それに、今の自分には、もう後戻りする道など残されていない気がしていた。……朝、奈穂が目を覚ますと、隣に正修の姿はなかった。もう会社に行ったのだと思っていた。だが、体を起こして伸びをした瞬間、浴室のドアが開き、正修が出てくる。「まだ行ってなかったの?」奈穂は意外そうに目を瞬かせた。正修はベッドに歩み寄り、彼女の額にかかる髪をそっと撫でる。「行くつもりだったんだが、さっき電話が入ってな。君を起こしたくなくて、浴室で電話に出てた」そこで奈穂は、彼がすでにきっちり身支度を整えていることに気づいた。端正なスーツ姿。どこか禁欲的で知的な雰囲気をまとっている。それに比べて、自分は今、何も身につけていない。何度も肌を重ねてきたはずなのに、なぜか今さら急に恥ずかしくなった。そんな様子を悟られたくなくて、彼女は無意識に布団の中に少し潜り込む。「こ、こほん……じゃあ今から会社?」正修は彼女を見つめる。その眼差しが、ゆっくり熱を帯びていった。「……急に、行きたくなくなった」奈穂が反応する前に、彼はそのまま唇を重ねてくる。強い独占欲を感じさせるキスだった。奈穂は息を呑み、瞬く間に体の力が抜けていく。気づけば両腕は自然と彼の首に回り、その突然の口づけに応えていた。乱れた呼吸と激しい鼓動だけが、静かな部屋に響く。奈穂はすっかり力が抜けて、手も半ば本能のまま動いていた。ようやくキスが終わり我に返ると、正修のシャツのボタンがいくつも外れていることに気づく。しかも、それを外したのは自分だった。正修は掠れた声で笑う。「どうやら今、奈穂は俺と同じことを考えてるみたいだな」「……っ」奈穂は頬が熱くなるのを感じ、唇を噛んだ。そして誤魔化すように彼を睨む。「うるさい!」言うなり、彼のネクタイを掴み、そのままベッドに引き倒した。結局その日、二人は午前中いっぱい寝室から出なかった。カーテンも閉じられたまま。奈穂はまるで夢見心地のまま、ずっと意識がふわふわしていた。ようやく時間を確認しようと思い、スマホを手に取る。表示された時刻を見て、彼女は思わず声を上げた。「もう十二時過ぎてる!」「ん…

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第811話

    すべての証拠は、その男を指していた。逮捕された当初、男は犯行を頑なに否認していた。だが、ほどなくして耐えきれなくなり、自白した。彼の供述によれば、当時彼は健司に必死で見逃してほしいと懇願した。しかし健司は応じず、そのせいで逆恨みするようになった。出所後はずっと、健司への復讐を企てていたという。そして、奈穂は健司が最も大切にしている一人娘。だから彼女を狙ったのだ、と。警察はすでに男を拘留している。一見すると、事件は解決したように見えた。だが警察も、正修も、奈穂も、誰もが違和感を抱いていた。あまりにも順調すぎる。どの手がかりも簡単に見つかり、しかもそのすべてが、不自然なほど露骨に男を指していた。まるで誰かが意図的に、その男を彼らの前に差し出し、「こいつこそ真犯人だ」と全員に思わせようとしているかのようだった。疑念はあった。だが誰一人、それを口にはしない。まるで本当に犯人が確定し、この事件への関心を失ったかのように振る舞っていた。……深夜。若菜のもとに、音凛から電話がかかってくる。「全部片付いたわ。用意していた身代わりも逮捕された。もう心配する必要はない」もちろん、音凛が親切心から若菜を安心させようとしているわけではない。ただ、若菜がずっと怯え続け、どこかでボロを出すのを警戒していただけだ。「本当に?それならよかった……」若菜は安堵の息を漏らした。「もうこれ以上、捜査は続かないですよね?」「黒幕まで捕まってるのに、何を調べる必要があるの?」音凛はやや苛立った声で言う。「もう少し肝を据えなさいよ」若菜は目の前のパソコン画面に視線を向けた。そこでは、いくつものファイルが転送中になっている。若菜は心の中で冷笑する。――自分が臆病なら、こんなことできるわけがない。だが、そんな本音を音凛に明かすつもりはない。だから反論せず、静かに尋ねた。「次の計画はありますか?」「あの人」から指示されていた仕事は、もうすぐ終わる。つまり、これからは自由に動ける時間が増えるということだ。もし音凛が今後も奈穂を陥れるつもりなら、若菜としては喜んで協力する気だった。「次があるならまた連絡するわ。でも川岸市の件が起きたばかりだし、九条正修も水戸奈穂も今はかなり警戒してるはず。少し待ちましょう

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第358話

    彩香は、すっかり怯えきっていた。福太郎が「警察を呼ぶ」と言い出した瞬間、顔色がさらに青ざめた。こんな若さで、北斗と一緒に警察沙汰になるなんて、絶対にごめんだ。彼女は意を決して、北斗の腕にそっと手を伸ばす。声は震え、どこまでも柔らかく。「社長……あ、あの……もう帰りましょう。どこへでも、私、お供しますから……」北斗はその手を振り払わなかった。ただ、福太郎を睨みつけたまま動かない。福太郎も一歩も引かず、真正面から視線を返した。周囲の空気は凍りつき、誰一人として息をするのもためらっていた。しばらくして――北斗はもう一度だけ二階の方へ目を向け、鼻で短く笑った。「……チッ」

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第296話

    水紀は、朗臣が自分の言いつけたことをやり遂げられなかったのだと分かっていた。だが、あの男の性格からして、たとえ失敗していたとしても、たとえ彼の身が危うい状況にあったとしても、必ず何とかして自分に連絡を取ろうとするはずだ。それなのに、今は自分からは一切連絡が取れず、向こうからも音沙汰がない。考えられる可能性は一つしかなかった。朗臣は、本当に自分に連絡できない状況に陥っているのだ。まさか、死んだ?……いや、監獄に入った可能性もある。水紀は知っている。朗臣の会社には、違法行為が少なからずあった。いずれにせよ、朗臣はもう頼りにならない。こんな状態で、今さらA国へ行って何になると

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第206話

    奈穂は機を見て、正修の腰をきゅっとつねってから言った。「別に大したことじゃないの。今日は北斗が秦烈生に取り入ろうとしているのを見てね。秦家に近づこうとしてるなら、秦逸斗とも何か繋がりがあるかもしれないって思って。それで、さっき少し警告しに行っただけ」彼女は、先ほど逸斗と交わしたやり取りを大まかに話した。ナイフを使ったことも、隠さずに。その話を聞くうちに、正修の胸中では感情が次第に渦巻いていった。彼女が話し終えても、しばらく彼は言葉を発しなかった。「どうして、何も言わないの?」奈穂は彼の服を軽く引っ張った。次の瞬間、正修は突然、力強く彼女を抱きしめた。そのハグには、言葉に

  • 偽りの婚姻から脱出、御曹司は私に惚れ   第208話

    「逸斗を殺そうとした黒幕が誰なのか、必ず調べさせる」烈生は低い声で言った。たとえ今は異国の地に身を置いていようとも、秦家の人間は、好き勝手に傷つけられるような存在ではない。音凛の表情がわずかに揺れたが、烈生は俯いたままメッセージを打っており、その変化に気づかなかった。彼が次々と何通も送信するのを見ているうちに、音凛の胸のざわめきは募るばかり。――兄の手腕を、自分がよく知っている。おそらくそう時間を置かずに、真相に辿り着いてしまうだろう。逸斗の暗殺を指示したのは、他でもない、自分なのだ。本当はさきほど、逸斗を気遣う素振りを見せようとも思った。だが考えてみれば、自分と逸

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status