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第8話

Author: アキ
「でも……」佳奈はまだ迷っているふりをした。「これをあなたがやったって知ったら……彼女がまた騒ぎ出すんじゃ……」

「安心しろ。絶対に気づかせない。終わったら跡形もなく処理する。これからは、もう誰にも君を傷つけさせない」

晶の心臓が、完全に砕け散った。千万もの破片になって、引き裂かれた。

痛い。言葉にならないほど痛い。

薬品で焼かれるより、骨を折られるより、どんな肉体の傷よりも――何千倍も、何万倍も痛い。

最も愛した男。七年間、同じベッドで眠ってきた夫。その男が、他の女のために――自分にこんな仕打ちを?

次の瞬間、麻袋の口がきつく縛られ、何か重いものが押し込まれた。ずしりと体の上にのしかかってくる。

石だ。

「んんっ……!」晶は狂ったようにもがき、叫ぼうとする。けれど喉から出るのは、くぐもった嗚咽だけだった。

麻袋が乱暴に持ち上げられた。大きな水音――直後、彼女の体は氷のように冷たい川の中へ投げ込まれた。

冷たい水が四方八方から押し寄せる。布越しに口と鼻を塞ぎ、肺の奥まで流れ込んでくる。

息ができない。凍てつく冷たさ。そして、底なしの絶望。

晶は袋の中で必死にもがく。けれど手足は縛られ、石の重みに引きずられ、体は為す術もなく水底へと沈んでいく。

もう駄目だ、溺れ死ぬ――そう思った瞬間、麻袋が勢いよく水面へ引き上げられた。

激しくむせ返りながら、冷たい空気を貪るように吸い込む。

だが数秒と経たないうちに、また容赦なく水中へ沈められた。

引き上げられては、沈められる。また引き上げられては、また沈められる。

まるで猫が鼠をもてあそぶような、残酷な拷問。

水面に出るたびに得られるわずかな呼吸は、次に来るさらに深い絶望と恐怖を連れてくるだけだった。

氷のような川の水が、無数の針となって皮膚を刺す。骨を貫く。心臓を抉る。

死の淵に立つ恐怖と、極限の苦痛の中で、無数の記憶が、堰を切ったように溢れ出した――

十六歳の春。桜の木の下で、顔を真っ赤にしながら差し出されたラブレター。不器用な筆跡。けれど、滾るような想い。

十八歳の冬。留学に旅立つ空港の搭乗口。きつく抱きしめられた。顎が髪に触れる。少し震える、けれど揺るぎない声。「晶、待っててくれ。帰ってきたら、絶対に君を嫁にする」

二十二歳。初めて彼女のために作ろうとした料理。焦げて真っ黒になったパスタ。二人で顔を見合わせ、腹を抱えて笑い転げた夜。

二十五歳。結婚式の誓いの日。ベールをめくった彼の瞳に、きらりと光った涙。

あんなにも美しく、あんなにも真摯で、一生続くと信じて疑わなかった愛と約束――全部、嘘だったのだ。

いや、かつては本物だったのかもしれない。けれどいつしか、すべて他の女に捧げられてしまった。

そして自分は、馬鹿みたいに過去の幻影にしがみつき、いつまでも手を離せずにいただけ。

挙げ句の果てに、ゴミのように石と一緒に袋に詰められ、川に投げ込まれ、何度も何度も溺れさせられた。ただ、他の女の溜飲を下げるための見せしめとして。

「……っ」

再び水面へ引き上げられた時、晶はついに限界を迎えた。川の水に混じった鮮血を、勢いよく吐き出す。

意識が完全に遠のく直前――岸の上から、旬の冷え切った声が聞こえた。

「もう十分だ。あとは適当なところに放り出しておけ」

麻袋が岸へと引きずり上げられ、乱暴に口を開けられた。

冷たい空気が肺に流れ込む。晶は水から揚げられた瀕死の魚のように、凍てつく川岸に縮こまり、激しく咳き込み、嘔吐し、全身を震わせた。秋風に吹かれる枯れ葉のように。

どれほどの時間、そこに横たわっていたか分からない。微かな朝の光が瞼を刺すまで、意識は霞んでいた。

最後の気力を振り絞り、泥だらけのスマホの電源を入れた。

画面が光り、未読のメッセージが二件表示された。

一件目は、旬から。

【晶、前にも言っただろう。俺と佳奈はもう何の関係もないと。家庭に戻ると決めた以上、君を裏切るようなことは二度としない。だから、もう佳奈を傷つけるな。

彼女は今回、顔に傷が残るかもしれなくて、精神的にかなり参っている。数日そばにいて気持ちを落ち着かせたら、すぐ君のところに戻るから】

二件目は、依頼していた弁護士から。

【結城さん、離婚手続きはすべて完了いたしました。正式な書類一式を宅配便でご自宅にお送りしましたので、ご確認ください。今後のご多幸をお祈り申し上げます】

二つの相反するメッセージを見つめながら、晶はふいに笑い出した。

笑うほどに、さらに多くの血を咳き出す。笑うほどに、涙が止まらなくなる。

指を動かし、旬の番号を――一秒の躊躇もなく、ブロックした。

そして、満身創痍の体を支え、よろめきながら立ち上がった。

一歩進むごとに、刃の上を歩くような痛み。冷え切った体が軋み、体中の傷を冷たい風が撫でるたび、骨の髄まで痛みが走る。

それでも歯を食いしばり、一歩、また一歩と、足を引きずって進んだ。

冷え切った、がらんとした屋敷に戻ると――リビングのローテーブルの上に、宅配の厚い封筒が置かれていた。

封を切ると、中には、弁護士から送られてきた重々しい二通の離婚届受理証明書が入っていた。

晶は自分の分を手に取り、開いた。

同封されていた書類のコピーには、結婚したあの頃の自分の署名と、たった今押されたばかりの無機質な受理印があった。

旬の分には、手を触れなかった。

それを、ローテーブルの一番目立つ場所に、そっと置いた。

そして、踵を返す。とうに準備を終えていたスーツケースの持ち手を握る。

七年間暮らし、七年間愛し、七年間傷つき続けたこの場所を――最後に一度だけ、見渡した。

未練は、ない。

振り返ることも、もう二度とない。

晶はドアを開け、外へ踏み出した。
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