LOGIN侑李は茉白の言葉には構わなかった。「送っていくよ。今日の事はクレームにならないように、二階堂社長のほうには僕から説明しておくから」「……」その言葉を聞いて、茉白の顔色は少し良くなった。車の中で二人は一言もしゃべらなかった。茉白は侑李が運転している間、よく腕を触っているのに気がついた。そして、さっき彼が怪我をしていたようだったことを思い出した。しかし、彼女は口を開こうかためらっていた。あれくらいの小さな傷では死にはしないのだから、もう気にしないでおこうと彼女は思った。茉白はもともと別に良い人の類ではない。薄情なのだ。しかし、茉白が何も言わなくても、侑李は自分で車をドラッグストアの付近で停めた。彼が車を降りて薬を買いに行ったので、茉白は緊張してきた。意外と傷の具合が悪いのだろうか?侑李が戻ってくると、茉白はすぐにそちらのほうへ顔を向けた。「はい、これ」茉白は侑李が買ったのは彼が使うものではなく、彼女のためのウコンエキスドリンクだった。「そんなのいらないから」茉白はその行動に少し心が動かされ、声も少し穏やかになった。怪我用の薬ではなく、お酒を飲んだ彼女を心配してそれを買ったわけだ。「吐き出してはいたけど、少しでもアルコールが体に入っていたら」侑李の言葉に、茉白は思わず自分が汚してしまった彼のシャツに視線が向き、意地を張るのをやめて、小声でお礼をしてそのドリンクを飲んだ。そして彼女は言った。「あなたのシャツは弁償するから。小林さんのほうも、もし必要なら……」「さっき彼女とは婚約を解消したって聞こえただろう?」侑李は話す時は茉白のほうを見らずに、無表情で冷たくそう言い放った。茉白は深く息を吸った。「今日のことは私のせいではないわよ。あの小林って人、腹黒よ。あなたが手に負えないなら、さっさと諦めたほうがいいわ」「僕が誰と合うかに関しては、君に心配してもらわなくていいよ」「……」茉白は、自分がなんで余計な口を出しているのかと自分に思った。二階堂家の近くまで来ると、侑李は車を門の前には停めずに、そのままエンジンを切った。茉白は侑李が自分に何か言うのだろうと分かり、少し緊張した。「どうしてお店で働いているの?」やはり、侑李はストレートに尋ねた。「私があの店で働いているって知
気持ちを抑え、沈黙し、反撃すらできない。侑李は小さい頃から家庭でしっかりと教育を受けていた。誰に対してもきちんと礼をもって接する人で、茉白とは正反対な性格だ。もし茉白だったら、自分のほうに言い分がなくても……喧嘩は必ず勝ってみせる。誰かに不愉快な思いにさせられたら、理由がなくても騒ぎたてる。だから、小さい頃の侑李は周りから揚げ足を取られ、よくいじめられていた。彼らが初めて知り合った時、侑李は彼女の瞳を見て、まるで救世主でも現れたかのように、彼女を崇拝していた。「あのね、偽善者のふりはしないで。私の前で人当たりよい人間でいる必要はないわ」茉白は侑李を押しのけた。さっき少し飲んだ酒のせいで喉の奥が気持ち悪かったが、それを抑え込み、冷ややかに言った。「これは私と小林さんのことよ、あんたに関係ない」結希は目を少し赤くさせた。「侑李さん、彼女は情のかけらもないわ。あなたに偉そうな態度をとって、一生彼女にしっぽを振ってついていく気?」「放してよ!」茉白は二人の間で板挟みになりたくなかった。侑李とのやり取りの中で体が後ろに傾き棚の角にぶつかる寸前、侑李は素早く腕で彼女を庇った。そのせいで、彼の腕が重くそこに当たった。ぶつかった音は大きくなかったが、棚は左右にぐらぐらと揺れた。すると侑李は眉をひそめ、顔色も幾分か青ざめ、明らかに痛そうにしていた。茉白はそこでやっと動きを止めた。無意識に振り向いて彼の腕に怪我がないか確認しようと思った。しかし、その動きをすぐに止めて、この隙に侑李の横を通り過ぎた。「小林さん、私と彼は本当に何もないんです。あなたは」「婚約は解消しましょう」茉白が説明しようとしていた時、侑李の声が後ろから響いた。その言葉に結希はあまりの驚きで目を大きく開き、唇をわなわなと震わせた。彼女は自分の耳を疑った。「侑李さん、さっきなんて?こんな悪評のあるただの養女のために、私との婚約を解消するって?」「彼女とは関係ありません。小林さんの僕に対する信用はゼロでしょう。僕の過去がもしかしたら、あなたを気分悪くさせてしまったのかもしれません。でも、これは僕にはどうすることもできませんよ。それに、僕は今、あなたのことをもっと知りたいと思えなくなりました。今後の事は僕から両家にしっかりと説明しておきます。全て僕の責任です
しかし、萌絵は事あるごとに、何かしら茉白の粗探しをし、彼女につっかかっていた。まだ数カ月しか経っていないのに、茉白は萌絵のせいで何度もクレームを受けてしまっていた。「もちろんいいですけど、このお酒を飲み干した後に、さらに私を困らせないと保証できます?」茉白は冷たい眼差しで、はっきりとそう言った。まるで屈辱に耐える準備をしているかのようだった。結希はまさに茉白のそんな様子を見たかった。茉白が不愉快になるほどに、痛快になった。彼女は茉白の携帯を取ると、カメラを起動して自分に向けて録画し始めた。「今日は二階堂さんのサービスにはとても満足です。今日、私の誕生日に彼女が一緒にお酒を飲んでくれましたから、彼女のことを高く評価します」結希はそう言い終わると、携帯を軽く上に持ち上げた。茉白がお酒を飲む前に、携帯を近くのテーブルの上に置いた。「……」茉白はテーブルの上にある開栓済みの酒のボトルを見て、それを手にとった。「早くして、私疲れているの。五分以内で全部飲まないと、さっきの話は白紙よ」結希は時間を見て、淡々と言った。茉白は眉をひそめて、唇を噛みしめた。そして上を向き、お酒を一気に口の中に流し込もうとした。「お前たち、一体何をしているんだ!」次の瞬間、少しだけ飲んだ酒のボトルを突然奪われた。ボトルは横に飛んでいってしまった。「侑李さん!」結希はとても驚いていた。この時、侑李が突然大股で中に入ってきた。彼の後ろについていた数人の使用人は、気まずそうにしていた。結希は侑李の後ろにいる使用人を睨みつけ、顔を赤くさせた。「あんた達、何やってるのよ?人が来たのなら早く知らせなさい」「違うのです……西園寺様が無理やり!」使用人は戦々恐々としながら結希に答えた。侑李はさっき帰る時に、車の中に結希へのプレゼントが落ちていることに気づき、引き返してきたのだ。しかし、彼が使用人に玄関まで案内された時、彼女たちが結希を呼んでくる前に使用人がブランドの酒を持って部屋に入っていく姿が見えた。彼はその時、誰かがこそこそと結希が不機嫌で、その酒を人形を届けにきた人に飲ませようとしているという話が聞こえた。侑李はどうも嫌な予感がした。傍にいた人が中に入る前に、彼は勝手に入っていった。すると彼は中に入ってすぐに結希の話し声が聞
「小林様……」「私はうじうじと回りくどいことをするのは好きじゃないの。二階堂さんと侑李の過去なんて気にするつもりはない。だけど、今日はとっても不愉快だった」結希は茉白の言葉を遮り、上からの態度を見せた。「もし彼を巡って争うというなら、それは必要ありません。私と彼には何もないからです。ただのあなたの誤解です」茉白は無表情でそう言った。結希は笑った。「私はまだ何も言ってないけど。二階堂さん、それってつまり、心にやましいことがあるからじゃないの?」茉白は呆れかえった。「あなたは一体どうしたいんです?」「今日、あなたは私の誕生日パーティーでわざと彼の前に現れたのでしょ。それなのに私にそんなことを聞くわけ?」結希はゆっくりと茉白の後ろに歩いていった。「あなたは二階堂家の令嬢だし、私もあなたにどうこうすることはない。だけど、私はあなたの顧客でもあるわよね。私に付き合ってちょっとお酒を飲むくらい、構わないでしょ?」彼女がそう言い終わると、執事が酒を持ってやって来た。それはかなり度数の強い酒だった。茉白はそれを見ると、顔を青くさせた。「このお酒を全部飲んでちょうだい。それから、今後は二度と侑李の前に現れないで。そうすればサインしてあげる。じゃないと、これは受け取りを拒否して、クレームもつけるからね」その言葉の意味を茉白はすぐに理解した。結希はすでに、萌絵とかなり関りを持っているのだ。茉白はあと一度クレームを受けると、店をクビになる。もし、クビになれば、萌絵と父親からの要求を満たすことができなくなる。そうなれば、母親の遺産を手にするチャンスはなくなってしまう。茉白の母親と萌絵の父親はとても気が合う親友同士の付き合いだった。当時、茉白の母親が重病を患った際、萌絵の父親が自ら茉白の世話を買って出た。しかし、茉白は小さい頃から手のかかる子で、厄介だった。二階堂家に引き取られてからは頻繁にトラブルを起こしていた。ある時、彼女は危ない連中を家まで引き付けて、二階堂家は危うく命を落とすところだった。それでも、萌絵の父親は茉白を命懸けで守った。茉白の母親はそのことを深く感謝していたが、後悔もしていた。茉白の父親は昔、悪事や不正行為の経歴を持っていた。彼はそれにより自分の命を落とすことになってしまったのだ。だから
「今日僕が二階堂社の店でパーティーをしたのは、あなたの希望があったからです。まさか彼女があそこにいるとは知らなかったんですよ。もし、気に食わないとか、婚約を解消したいとか思うのであれば、あなたの考えを尊重します」本来、結希は侑李相手に理屈を並べて話したかったが、彼のほうが理路整然と冷たい言葉を吐くので、怒りをただ呑み込むしかなかった。婚約しているとはいえ、二人はそこまで仲を深めてはいないからだ。侑李も、別に結婚相手が結希でなければならないわけでもない。侑李も自分の態度を示したので、結希は帰りの道の途中ずっと考えていた。そして、車を降りるまでに自分に言い聞かせた。「侑李さん、私はあなたのことがとっても好きなの。あなたとはゆっくり仲を深めて一緒に歩いていけたらと思ってる。だけど、さっき言ったことは必ず守ってほしい。私の信頼を裏切るようなことはしないで」結希は上からものを言うようだったが、実際、彼女は侑李が彼女のために一歩譲ってくれることを期待していた。彼女の期待通り、侑李はその言葉を受け入れ、結希の言う通りにすると言った。そして、穏やかな表情になった。「ええ、もちろん。誕生日、おめでとうございます」「ありがとう」結希は微かに笑い、彼をハグしようとした。侑李はそれにぎこちなく応えたが、二人の体が少し触れたかと思うとすぐに離してしまった。侑李の車を見送ると、結希から柔らかな表情は瞬時に消えてしまった。彼女は後ろに向きを変え、自宅の庭に入った。執事と使用人がすぐに出迎えて、カバンを持った。「頼んでいた物は届いている?」「はい、あちらはお嬢様の要求通り、受け取りを待っています」結希は冷たく鼻で笑い、すぐにリビングへと入っていった。部屋のキラキラと輝くジャンデリアが非常に目立っていて、部屋の豪華さが増していた。茉白は店員の制服を身に着け、窓の傍に立っていた。彼女の隣には、二つ、彼女の背丈と同じくらいの巨大な人形があった。それは特別にオーダーされた限定版で、色は自由に変えることができる。国内でも数百体だけに限られ、二つだと四千万もする。結希は急遽店内で注文し、茉白に届けさせたのだ。二階堂グループの規定に、このような値段の高い商品は、顧客自ら受け取らないといけないとある。茉白がその配送を任されたので、
「小林さん、実は、ちょっと言ってもいいかどうか分からないんですけど、あの……」少しして、萌絵は結希のほうを見た。結希は個室に戻ってから、表情がすでに変わっていた。彼女は侑李の隣に座ると、彼がぼうっと携帯を見つめているのを見た。結希が戻ってきたのに気づくと、形だけの笑いを見せ結希はどうも面白くなかった。「今日はここでお開きにしましょ。私もう帰りたいわ」結希のその一言にみんな驚いた。パーティーは始まったばかりだというのに、もう終わろうと言うのか?「どうしたんですか?」侑李は状況が飲み込めずに尋ねた。「どこか具合でも悪い?それとも何かったんですか?」「そうね、私あまりお酒は強くないから、少し頭が痛くって」結希は笑顔を作り、淡々とした口調で言った。彼女の隣にいた親友がその言葉を聞いて驚いた。「ちょっと、結希、あなたもうちょっとお酒は……」しかし、その言葉が終わる前に、結希が警告するような眼差しで彼女を見た。侑李も何か感じ取ったようだ。彼はそれ以上何も尋ねることなく、そのまま立ち上がってジャケットを手にとった。「行きましょう。送っていきます」結希は頷くと、親友とその場にいた人たちに挨拶した。「私たち先に帰るね、あなた達は引き続き楽しんで」侑李はすでに費用を支払っているから、みんながその場に残ってパーティーを楽しんで問題はない。結希がもう帰るというので、みんなは彼女を引き留めることはなかった。しかし、侑李の友人たちは少し心配だった。さっき、侑李と茉白があからさまに関係がありそうだったのを見て、結希が何かおかしいことに気づいたのだろうか?店を出る時、個室から出口まで茉白の姿はなかった。侑李はやはり、どうして今日彼女がここでスタッフをしていたのか知りたかった。しかし、そんな事を彼が尋ねるべきではない。帰りの途中、結希が侑李に尋ねた。「さっきの店長さん、二階堂家の次女の茉白さんだったのね?」侑李は結希がそのことを知っているとは思ってもおらず、交差点にさしかかったところで、急ブレーキを踏んだ。「君がどうしてそれを?」侑李は顔色ひとつ変えずに、淡泊な様子だった。「あの、萌絵さんが教えてくれたの」「彼女はあなたに何か他に言っていましたか?」結希は下を向いた。「えっと、以前あなたが茉白さんのこ







