LOGIN俺は昼近くの時間で目が覚めた。
そういえば今日は飯田と約束してたのを朧げに思い出し、身支度を整えた。
顔を洗って歯を磨くと飯田からLINEが飛んできた。
「おっす!俺ももう少しで家出るから…駅の近くの喫茶店で待ち合わせなー!」
そんな、端的かつ彼の性格が出ている明るめの文面が目に入る。
ちょっとめんどくさいんだけど、まあでもゲームしかどうせやらないだろうから、たまにはこういう休日もいいのかもしれない。
母親は、今日はいなかった。
仕事が不定休なのできっと今日は出勤なのだろう。
リビングに降りるとフライパンの上にベーコンエッグがあるので、俺はマーガリンを食パンにつけ、粉末のココアをかけてココアパンにしてから、コーヒーと一緒に食事をして家を出ることにした。
☆☆
俺は待ち合わせのコーヒー店についたので惰性で続けてるソーシャルゲームをいじり出す。
さて、今日もデイリーイベントをこなさなければならない。
デイリーイベントはそこまで重要な報酬は無いのだけれど、積み重ねるとキャラが強くなるのを実感するので俺は欠かさずにやっていた。
カフェではカフェラテを購入して待っている。
飯田のやつ、珍しく遅いな…。
朝早くからランニングをしているくらい彼は生活が充実してるので、遅く起きるだなんて彼らしくはなかった。
一体…どうしたというのだろうか。
暫くすると足音が聞こえてきて、筋肉質の体型とセットされたセンターパート、そしてまるでラッパーのようなダボダボの服に包まれた飯田がいた。
「わりい!まったか?」
「おう、15分ほどね。」
「そうかそうか、それならいいんだ!じゃあそろそろ行こっか!」
「りょーかい!遅れた分は奢りで許してやるよ。」
「おいおい、ちゃっかりしてるな…大丈夫だよ、相手の時間を無駄にさせるのは失礼だからな。」
このように飯田はただの助べではあるのだがこういう所はキッチリとしてるからこそ、やつは人間関係の中心にいられるのだと思う。
彼はどこまでも人情家だった。
俺達は駅から15分ほど歩くと、古着屋さんに辿り着くことができた。
それにしても通学以外で外出は実に久しぶりであった。
「この服いいだろ。」
「いや、独特過ぎて俺には無理だ!」
「んだよぉ!全く…お前はもっと色んなものに触れた方がいいぞ!価値というのは見るからこそ磨かれるんだ!」
「お前が磨かれてるのはAV女優を見る目が1番育ってそうだけどな。」
確かに、と飯田はあははと笑う。
何故か飯田はすけべとかムッツリといわれると褒め言葉のように喜ぶのだ。
本当にどうかしてると思う。
「お前まさか遅刻したのって…AVの見すぎじゃないだろうな。」
「あー…まあ、うん…。」
飯田は少し目をそらす。
おい、図星かよ。
「なんか、いい作品でも見つかったのか?」
「そうだな!なんというか、ちょっと最新作よりも一昔前のやつを漁ってたんだ。」
何たる性への執着心なのだろう。
最新作だけじゃなく、少し前のジャンルまで手を出すとは流石である。
きっと彼は後の世界にもその変態さを輝かせるであろう。
「それでさー、特にこの作品の女優さんが良くってな!」
飯田がネットをいじり出して、女優さんを見せる。
「人前でそんなものみせるなって!なんなんだよ全く…。」
「お前ってほんと性欲ないよな〜、そっちの生き方の方が不健全だと思うぜ。」
飯田に画面を無理やり見せられて、いやいや画面を見つめる。
なになに…10年前に一世を風靡した伝説のAV女優、橘遥香…。黒髪とカリスマ性のある演技で一気に人気絶頂へ。
そこに写ってた女性は黒髪な清楚な雰囲気をしていて、それでいてどこか綺麗さもあってAV女優なんてとてもやってなさそうな雰囲気がした。
というか、この人芸名だと思うけど遥香って名前なんだな。
「お前、俺の母ちゃんと同じ名前だから好きなんじゃねえの?」
「まあ、それもあるかもしれないな!あの人美人だし…!」
「やめろ、自分の母親とAV女優を重ねられる俺の気持ちにもなってくれ。」
それにしても、確かに俺の母親と似ている。
耳に2つのホクロがあり、胸の間にもホクロがあるが俺の母親とは胸の大きさが違っていた。
だが、そこまで判明した時点で俺は飯田の画面を閉じる。
「あ、ちょっと!こっからがいいのに!」
「はいはい、公然でのAV視聴はやめましょうね。」
俺はこれといって性欲が本当にない。
多分中2の時に大勢の前で告白されたことか、中3の時に好きになった人が急遽親友と付き合うことになったか…原因は考えればいくらでも想像が着くのだが、どちらにせよ俺は女に対して興味が一切無くなっていた。
「そういえば…古着は?目的のやつはなかったのか?」
「あー、それが目星つけてたやつ…売れちゃってたんだ。あれ結構価値あったビンテージ物だったのに。」
「ビンテージ?」
「まあ、あれだ!年季ってことだよ!ジーンズとかも染め直したり、色あせたりすることで価値が上がったりするんだよ!」
「そういうものでお金って動くんだな…。なかなか深いな。」
飯田はとにかく好奇心の方向性が変わりやすい。
恐らく話がAVに変わったのも目的が無くなったからだろうと容易に想像ができた。
俺達は帰りに予定があるのでマックに寄ってから帰り道を目指すことにした。
「いやー、まあでも普段陽キャな奴らと絡むのもいいけどお前さんは本音で喋れるから楽だよ。」
「不思議なことを言うね、君も。」
飯田が急にそんなことを言い出す。
陽キャで友達が多いのにそんなことあるのだろうか?
「なんというか、あれだよ。俺って面白いだろ?」
「自分で言う?それ。」
「まあでもあれだよ、みんな面白いことを言って、スケベで!着飾る俺が好きなんだよ。」
「それお前の全部じゃね?」
「違うんだよ、お前は何も無くても理解できなくてもフラットに話を聞いてくれるから好きなんだよ。」
「ホモはいつも告白が大胆だなぁ〜。」
「友達としてな!?」
飯田がツッコミを入れる。でも確かにこいつと一緒に居るのは退屈しない。俺らの関係は理解者というものなのかもしれないな。
そんなこんなで俺達は駅の前に着く。
とはいえ、こいつとは最寄りも同じだから普通だったら帰り道も一緒である。
「じゃあ、俺はこの後カラオケに行かなきゃ行けないから…また連絡するわ。すまんな、最後まで一緒にいれなくて。」
「いや、いいよ。カラオケのメンツ俺あんまり馴染めないからさ。」
「そうか、まあでも友達欲しくなったらいつでも頼れよ!」
「ありがとう、それじゃあ俺は行くわ。」
俺達は帰路で分かれる。
とはいえ、また明後日に学校があるからその際にも顔を合わせるので別れはあっさりだった。
「さて、俺はまたひと狩り行くとしますか。」
俺は、PASMOにお金をチャージして改札をくぐり地下へと消えていった。
時刻は既に20時を超えていて、夜が更ける。蝉だけじゃなくて、鈴虫のような虫の声が聞こえてきて、ほんのりと涼しい夜風が仕事で温まった私たちの体をゆっくりと冷ましていった。まるで、少しづつ夏の終わりを示唆するかのように。「いや〜本当に楽しかったですね!」「そうね、最高の日だった。」正直、挑戦するのは怖かったし、朝なんかは眠気が強すぎて最高のスタートダッシュを切れたかと言うと嘘になる。それなのに、頑張って自分がやると決めたことを小さくやり切ったことに対する満足感は他のものに変え難い喜びがあった。まるで他の人に従うのではなく、自分で歩んだ先に道ができたかのように。「ことねさんの夢が少しずつ叶って良かったです!これからも沢山頼ってくださいね!」その言葉に少し固まってしまう。私は、与えられてばかりである。相談に乗って貰ったり、ご飯誘ってくれたり、サウナに一緒に行ったり、お店の計画を立ててくれたりと、事実を並べるだけでも沢山のことをしてくれた。彼女と接し始めたのは夏のはじまりだった。そんな夏も、もう少しで終わろうとしている。それなのに、私は彼女に与えられたものがあったのかと自問自答するが、何も思い浮かばない。「ねえ、舞衣ちゃんは……夢はあるの?」ふと、そう聞いてしまった。彼女はまだ17歳、これからたくさんのものに触れてくるかけがえのない大切な年頃とである。もし、夢があるのならこちらも助けてあげたい。舞衣ちゃんは少し考えると楽しそうに夢を語ってくれた。「私の夢は、辛い人を支えて行けるような看護師になる事です!」「看護師!想定外だったからびっくりしたわ。でもどうして?」「私が、沢山の嫌なことに打ちのめされてる時にある看護師さんに支えられてくれたんです。死にたくなっても背中を押してくれて、だからこそ私も看護師になってそんな人になりたいなって思ったんです!」……なんたる与える精神。まるで患者を愛するナイチンゲールが現世にいるようだった。彼女は生まれとってのGiver、人に尽くすことに喜びを感じる子だったのだ。全く、歳下とは思えないほどの成熟した精神に脱帽せざるを得なかった。「私に負けない、最高の夢ね。」「はい!あ、でもことねさんも私にたくさんのものをくれましたよ。」その言葉に私は混乱してしまう。そんなこと、ひとつも無いとおもっ
……オープンまであと5分を切っていた。私は舞衣ちゃんに背中を押され、緊張よりも絶対成功させたいという気持ちが強くなってきた。大丈夫、きっと上手くいく。上手くいかなくても、私は1歩を踏んだんだ。それだけでも100点、お客さんが来たら200点、喜んで貰えたら300点だ。そのスタンスにしよう。3....2.....1....。ピピッ!私の不定期のお店はスタートをした。店の前には誰もいない。「……お客さんいないわね。」「仕方ないですよ!告知も以前に比べたら少ないですし。」「そうね、始まったばかりだもの。気長に行きましょう。」「はい!」世の中は広告料というものに多大なお金をかけている。それをするだけでお客さんに知ってもらえるかが大きく左右されてしまう。あの大きなメイド喫茶も莫大な広告でお客さんを回収し、リピーターを作っていった。私の力の小ささを思い知るのだが、まあ予測の範囲だった。「ひとまず、掃除からはじめま______」「すみません!2人……行けますか?」突然、男性の声が聞こえた。「あ……。」振り向くと、小説家の笛吹さやかと同居人の高校生……飯田蓮くんが店の前に立っていた。「蓮くん!久しぶりじゃない!どうしたの?」「昨日、舞衣からお店スタートするからってきいて来ちゃいましたよ!」とても嬉しい。最初の客が知り合いというのもどこか温かみを感じる。「じゃあ、案内するわね。」「ええ!」「酒~!とりあえずウォッカとウイスキーを持ってこーい!」「笛吹さんはちょ~っと黙っててください!!」チリリン。「ご主人様の……ご帰宅です!」「おかえりなさいませ!ご主人様!」そう……この感覚だ。ここ数日失われてた感覚が蘇り、私に勇気と気力を与えてくれている。「蓮くん。今日は来てくれてありがとうね。これ……メニューよ。」「え、なんか……メイド喫茶なのに料理が本格的にパスタとかピザもあって……クオリティ高いっすね!?」「ワインなんかもある!トスカーナ?ってやつの白ワイン欲しい!」結局、私たちのメニューもあるのだけれど尾崎さんが店のメニューも使っていいと言ってくれたのだ。「じゃあ……オムライスとボンゴレ・ビアンコ、ピザはクアトロフォルマッジあたりでお願いします。」「あと、白ワインも!」「承知しました!お作りしますのでお待ちく
私がメイドをやめて2週間が経ちそうだった。今日は、レンタルキッチンを使って私のお店が出されることになる。私は、メイド喫茶としてメニューをある程度簡易的なまでにオペレーション化した。SNSも「神宮寺ことね」というアカウントを作り、オープンを告知まではした。フォロワーは徐々に伸びて、3日で100人になったが……やはり広告としては弱いものになって言った。そんな準備が弱い中、当日を迎えることになった。朝、夏の暑さがこの時間だけ引いていて、小鳥のさえずりとともに程よい涼しさを感じる。ピンポーン……インターホンが鳴り響いた。誰が鳴らしたかは事前にわかっていた。「ことねさーん!おはようございます!」「(ガチャ)……おはよう。」私はうねる様な低い声で挨拶をする。「こ……ことねさん……!?体調不良ですか?」「なんか……ずっとドキドキしてて……寝れなかった。」「いや、遠足前の小学生ですか。」そうか、これがその楽しみという概念なのか。親に虐待され続けたから希望を抱くって概念がなかったので楽しみによる緊張も初めての経験だった。「でも……やる気は……ある……。」「説得力無いですよ~!ほら、顔洗ってください!」わたしは身体の気だるさを振り絞り、水シャワーを浴びて全身に気合を入れる。以前、舞衣ちゃんと水風呂に入ってからは実は習慣化していたりした。20分後に本来の私に戻る。メイクも準備してある、見慣れた「メイド人間」の私だった。「ごめん、かなり待たせたわ」「大丈夫です!調子も戻ってきたみたいですし……今日は頑張りましょ!」私たちは都内の某キッチンを借りることになったので、身支度を済ませてその場所へ向かうことにした。☆☆夏の炎天下がピークを迎える前に電車に揺られながら私たちはそのキッチンにたどり着くことになった。厨房とバーカウンターがある、綺麗なお店だった。「ここ……?」「はい!どうやら……今日は定休日みたいで定期的にこうやってレンタルサービスやってるみたいですよ。」「面白いわね、農業の二毛作みたいだわ。米が育たない冬に麦を植える感じ……。」「あはは!ことねさん……相変わらず面白いこと言いますね!」そんな雑談をしていると、一人白衣の男が中からでてきた。「こんにちは……予約していた佐倉さん?」「は、はい!佐倉です!」「オーナー
私がメイドを辞めるまでは、そう長く感じることはなかった。辞めるまでの記憶はほとんどない、とにかく忙しかったことだけが体が覚えてくれた。嬉しいこともあった。有給を取って会いに来てくれた人もいた。だけど——それでも、私はその場所を終わらせた。わたしは、結局のところ愛されていた。そんな……夢のような日々が終わった、終わらせてしまった。チュンチュン……朝は、不思議と小鳥のさえずりと朝日の陽光が目に入りパッと目を覚ましてしまう。今の私は……何者でもない人間だ。フォロワー1万人の人気メイド、ことねはものの数週間でこんなに人生が変わってしまうのかと驚いてしまう。まるで、さっきまでディズニーランドで夢のような体験をしてきたのに、数分歩くと見慣れた都会の喧騒に戻る絶望感に近いものを感じる。ちなみに私はメイド喫茶を辞めたあとは酷く体調を崩した。きっと、身体のエネルギーが行先を見失ったのと……大丈夫に見えて無理をしていたのかもしれない。クーラーなんて大層なものは無いので扇風機で誤魔化すのだが……どうにも苦しい。わたしはスマホを見る気力さえも失われていた。舞衣ちゃん、そしてさやかからはLINEの通知は来ているのだが、2日以上返していない。それだけ、私の心は疲弊して誰にも頼れないと言う状況になっていた。このまま誰にも気づかれず、消えていくんだろうか。すると、ピンポーンというインターホンの音が聞こえた。わたしはここ数日で気がついた。働いてる間はセールスとかの勧誘が家に来ていたことに。ちょっと出るのが怖くさえ感じる。わたしは、恐る恐る耳を立てた。「ことねさーん!舞衣です!」どうやら、違ったみたいだ。メイド喫茶のメイドで今でも連絡をとったり会ったりするのは舞衣ちゃんだけだった。「……こんにちは。」「ちょ!?ことねさん!まだパジャマじゃないですか!それに……顔色悪い?」「メイド喫茶を辞めてから、体調が優れないの。」「無理してたのかもしれないですね。スーパーで何か買ってきますよ。」「あ……あの……!」「はい?」「タバコ……セブンスター。」「それは未成年なので無理です。風邪薬買ってきますね!」体調悪いせいでタバコを買う元気はなかったのだが、頼る人がいると吸いたくなるもの。そして、体調を崩した私は未成年にタバコの購入をお願いしようとして
ある日のメイド喫茶の一日。私はお遊戯会(ダンス発表)が私中心に流れた。何度うたった曲、何百回踊ったか分からないダンス。完全に体の中の一部として動き出していて、無意識にテーブルを確認する。ことねのイメージカラーは、落ち着きのあるブルー。私のファンは私が踊る時に必ず青いペンライトを持っていく。この時は、ここにいる全員が青を掲げていた。踊りに激しさが増し、血脈が更に強さを増す。フィニッシュの時に、私を中心にポーズが象られ歓喜の声が響き渡った。「ことねちゃーん!君だけが推しだー!」「お前が1番!お前が1番!」ああ……こうして見ると私の普段の頑張りは無駄では無いと安堵してしまう。しかし、私には大切な発表がもうひとつあった。「みんなー!今日はお遊戯会に参加してくれてありがとうー!」すると、ぱちぱちと拍手が拡がる。今日も私は完璧だった。完璧にメイド喫茶のメイドを演じていた。私は……言わねばならない。ポーカーフェイスの中に大きく心臓が握られるような感覚があり、胃酸が逆流しそうだった。「突然ですが、大切なお知らせがあります。」ザワザワ……私は、盛り上がりがすごいのでちゃんと通るように少し無言になる……周りの焦燥から傾聴に変わるタイミングがある。1...2...3...4...5...ここだ!すこし、ざわつきが収まるタイミングで声を振り絞った。「私、メイド長ことねは……今月いっぱいで、メイドを卒業します!!」「「「えええええええーーーーー!?」」」辺りが驚愕の一色だった。さっきまで私のダンスに喜んでいた人達が絶望に近い表情だった。「なんでだよーーー!」「やめないでー!!ことねー!」私の辞めるのをショックで騒ぐ人、ポカンとする人、恐らくXを打ってる人がいる。私は、本当は辞めるべきではないのかもしれない。ここは本当に居心地がいい。しかし、その居心地に依存して私は変わるのを怠っていた。決断とは、決めるのも大事だけど断るという気持ちも大事だ。「10年……お勤めさせて頂きました。このような場に来てくれるご主人様、お嬢様が大好きでした。可愛い料理も好きだったし、何よりこの空間がすきでした。私の力だけではありません、皆さんが居たからこその結果です。」まだ、その発言の時もざわつきがある。一度、スピーチを止める。こういった発
チリリーン!「ご主人様のおかえりです!」「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」今日もたくさんのご主人様(お客様)が来店される。精一杯の仕事をしよう。そして、ご主人様たちに喜んでもらおう。そんな、わたしの「メイド人間」としての一日が始まる。既に長蛇の列が並んでいた。「ことねさん!今日もお願いします!」「舞衣ちゃん、今日も期待してるわよ。頑張って。」仕事中は友人の私たちも上司と部下だ。会話は驚くほどドライになる。しかし、それもまた仕事に集中していることを指していて心地が良かった。とにかく、毎日小さく努力してみよう。それだけだった。そんな時、私はある声に耳を傾けてしまった。「ええー!ゆきちゃん、埼玉の子なんだ!」「そーなんですー!」「え、今度飲みとかどう?俺奢るよー。てか、その後カラオケでも行こーぜ!」「えー、最高!」「じゃあ、これLINEのIDね!」「ありがとうございます!今度の水曜とか空いてるんでぜひ。」……明らかにメイド喫茶というより、合コンのような会話である。そして、ホスト風の客からメモを貰った新人メイドのゆきちゃんはポケットに差し込んでいた。これは、明らかな規則違反である。そこそこ名前のあるメイド喫茶なのでイメージダウンにも繋がる行為だ。そういった指導は……ウケているのだろうか?「ゆきちゃん、ちょっといい?」「はい?」私は人目のつかない所で静かに指導をする様にしている。それは、基本的に仕事スタイルには寛容だが、メイドさんのプライドを傷つけないなどの工夫があった。「あの…さっきの会話を聞いてしまったんだけど、お客さんと個人的に会ってたりしてないよね?他のお客さんも少しひいてたわ。」「えー、ダメなんですか?カッコよかったじゃないですか。」「ダメよ、規則でも決まってる。最初のオリエンテーションで話す内容だったんだけど…分かりずらかったかな?」時折、理解が浅い子がいたりする。きっと指導不足なのだから我々の責任だ、分かっていないのなら教えるべきなのかもしれない。「あ、ダルいです。聞いてたけど半分寝てました。」「え?」「てか、ゆきさん今日は全然チェキ(写真撮影オプション)獲得できてないですよね。もしかして、若くてあなたより人気のある私に嫉妬してるんですか?」「いえ、そういうことじゃないの。そういう