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第4話

Author: ももさんぽ
この冷たい雨の夜に、誰にも知られないまま死んでいくのかもしれない。

そう思った時、遠くから慌ただしい足音が近づいてきた。

私は力を振り絞って目を開けた。清掃員の制服を着た年配の女性が、傘を差してこちらへ走ってくる。

私の血まみれの顔を見るなり、女性はぎょっと目を見開き、荒れてはいるけれど温かい手で、すぐに私を抱き起こしてくれた。「ちょっと、あんた大丈夫?ひどい血じゃないの!」

その人は私の体を支えながら、近くにある清掃員用の小さな休憩所まで連れていってくれた。きれいなタオルで顔を拭き、湯気の立つ白湯を一杯、私の手に握らせてくれる。

温かいものが喉を通って、身体の奥へゆっくり広がっていった。凍りついていた指先に、ようやく感覚が戻ってきた。

見ず知らずの私にここまでしてくれるその人を見ていると、こらえていた涙が一気にあふれ出した。

「ありがとうございます……」

かすれた声でそう言うのが精いっぱいだった。

女性は大きくため息をついた。「まったく、ひどいことをする人がいるもんだね。誰にこんなことされたの?」

促されるまま、私は襲われて持ち物を奪われたことを、ところどころ濁しながら話した。

聞き終えると、女性は本気で腹を立て、それからロッカーを開けて、まだ温かい肉まんを取り出した。

「ほら、食べなさい。そんな顔色じゃ、何も食べてないんでしょう」

私はその肉まんを両手で包み込んだ。

直哉のもとを離れてから口にした食べ物の中で、それは一番温かかった。

夢中で食べ終えると、ようやく自分がまだ生きているのだと実感した。

佐藤――清掃員のその女性は、私が少し落ち着いたのを見届けると、帰り支度を始めた。

私は忙しく動く背中を見つめ、思い切って声をかけた。「あの……ここって、人手は足りていますか?私、何でもします。汚い仕事でも、きつい仕事でも平気です」

佐藤は私をじっと見て、困ったようにため息をついた。

「ここはただの休憩所だからね。私が人を雇えるわけじゃないんだよ。ただ、担当区域の公衆トイレの清掃なら、臨時で一人足りてないって聞いてる。給料は安いし、楽な仕事じゃない。若いあんたにはきついと思うよ……」

私はすぐに首を横に振った。「できます。お願いします。聞くだけでもいいので、紹介してもらえませんか。私、本当に仕事が必要なんです」

必死だった私の顔を見て、佐藤はしばらく黙っていた。

そして最後には、現場責任者に会わせてくれることになった。

現場責任者は、愛想のない中年の男性だった。佐藤の説明を聞きながら、私を上から下まで何度も眺め、眉間に深いしわを寄せた。

それでも、人手が足りないのは本当だった。こんな雨続きの寒い時期に、進んでやりたがる人など多くない。

彼は仕事内容と、日当4000円について簡単に説明し、翌日から試しに来るようにと言った。

私は何度も頭を下げて佐藤を見送った。その夜は、清掃員休憩所の隅でどうにか眠らせてもらった。

粗末な場所ではあったけれど、少なくとも屋根があった。冷たい雨と骨にしみる風をしのげるだけで、十分だった。

翌日から、私は古い団地のそばにある公衆トイレを担当することになった。

中にこもった臭いは、最初のうちは息をするだけで吐き気がした。それでも私は歯を食いしばり、床のタイルや便器を何度もこすった。

この数日で身にまとわりついた不運も屈辱も、汚れと一緒に洗い流してしまいたかった。

仕事はきつかった。

それでも、一日の終わりには4000円の現金を受け取ることができた。

私はそのお金を一枚ずつ丁寧に伸ばし、ビニール袋に入れて、肌身離さず持ち歩いた。

それは私の希望だった。

もう一度立ち上がるための、最初の足がかりだった。

そうして私は、この街の片隅で、誰にも気づかれないように新しい生活を始めた。

直哉の世界から、私はもう完全に姿を消したのだと思っていた。

けれど彼の影響は、思いもよらない形で、また私に及んできた。

その日、仕事を終えて帰る途中、家電量販店の前を通りかかった。店先のテレビでは、話題のトーク番組が流れていた。

画面の中で、莉子はきれいに化粧をし、カメラの前で涙を流していた。

司会者が気遣うようにティッシュを差し出すと、莉子は声を詰まらせながら言った。

「本当に、花音が心配なんです。彼女は私のいちばん大切な友人です。あれから……久我社長に離婚を切り出してから、まるで別人みたいになってしまって。カードも使わなくなって、誰とも連絡を取ろうとしないんです。

久我社長も彼女を必死に捜していて、仕事どころではなく、すっかり痩せてしまって……怖いんです。彼女が思い詰めて、取り返しのつかないことをしてしまうんじゃないかって。

昔の花音は、こんな人じゃありませんでした。私たちは皆、彼女が精神的にかなり追い詰められているんじゃないかと心配しています……」

言葉だけを聞けば、そこには友情と心配しかないように思えた。

けれどその一つ一つが、私をまともな判断のできない女に仕立て上げ、直哉を、妻を思って憔悴する一途な夫に見せていた。

通りかかった人たちが、次々に足を止めた。テレビに映る莉子と直哉の写真を見ながら、私を責め、直哉に同情する言葉を口にしていた。

「あの奥さん、本当におかしいんじゃない?あんな旦那さんを捨てるなんて」

「メンタルやられてるんだろうね。早く見つけて、病院に連れていったほうがいいよ」

冷たい言葉が、針のように耳に刺さった。

私は人垣の外に立ち、画面の中で涙に濡れる、かつての親友の顔を見つめていた。

ポケットの中には、くしゃくしゃになった数万円の紙幣がある。

私はそれを強く握りしめた。

彼らに完全に壊される前に、どうしても手に入れなければならないものがあった。

時間が過ぎ、食費を切り詰め、倒れそうになりながら働き続けて、私はようやく15万円を貯めた。

大企業の社長を相手に離婚を争うには、あまりにも心細い金額だった。

それでも、最低限の法律相談料を払うには、どうにか足りるはずだった。

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