Home / 恋愛 / 優しさを君の、傍に置く / 優しさを君の、傍に置く《4》

Share

優しさを君の、傍に置く《4》

Author: 砂原雑音
last update Last Updated: 2025-08-21 11:00:25

-----------------------------------------

-------------------------------

【神崎真琴】

ぞわ、という感覚が、気持ちいい時とそうでない時がある。

その時、殊更嫌悪感を抱いてしまうのは、陽介さんに対してじゃなく行為にたいして、だ。

それを、ことあるたびに口にするのは、余計に言い訳めいて、言えなくなった。

けれどあまりに何度もそういう事があれば、いい加減に嫌われてしまうんじゃないかと怖くて、一人不安をため込む。

初めての夜、あんなにも大事に大事に抱いてくれたのに、それからもずっと触れる時はまるで宝物みたいにそれはそれは優しくしてくれるのに。

どうして、いつまでも

こんな突発的な衝動に襲われるんだ。

そんな苛立ちが蓄積した不安をも刺激して爆発した。

「もう無理だ! 別れる!」

いつもみたいに振り払っただけでなく、暴れた足が陽介さんの股間に当たって揚げ句ベッドから蹴りおとしてしまった時だった。

陽介さんを、足蹴にして蹴落とすなんて。

やらかしてしまってから、その光景に愕然とする。

彼は、少し痛そうに顔を歪めながらも大丈夫だとおどけて笑ってみせた。

だけど。

僕が癇癪を起こして「別れる」と言った途端、すごくすごく、怖い顔をした。

「何言ってんすか」

「も……同じことの繰り返しだ、無理だ」

「んなことないっすよ、こんなん偶にじゃないすか。こんくらい、俺は全然大丈夫だって……」

「そんなわけない! いい加減貴方だって嫌でしょう?!」

「俺は嫌だなんて一度も言ってない!」

Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 優しさを君の、傍に置く   番外編:君とバレンタイン《3》

    注文したものと違うことに気がついたんだろう、 不思議そうに顔をあげた彼に他の客には聞こえないよう小さな声で告げた。「僕から、です」薄い琥珀色の液体に、ミントの葉を浮かべたそれを、陽介さんは一度、二度と口に運ぶ。そして、はっと何かに気づいて顔を上げた。「…………チョコレート?」「ば……バレンタインですから」さらりと、告げた。けれど内側は心臓がバクバクだった。良かった。気づいてもらえなければ、チョコレートグラスホッパーにギムレット、モーツァルトの午後、と思い付く限りのチョコレートカクテルを並べてやろうと思っていたのだが。僕が彼に作ったのは、チョコレートモヒートだった。百貨店で途方に暮れた僕の目に止まったのが、チョコレートリキュールが豊富に並んだ棚で。僕はそこから、何種類かのリキュールを手に取った。これなら、さりげなく渡せるかもしれない。それに何より、他のチョコレートよりも自分らしいと思ったのだ。「嬉しいです、こんなチョコレート初めてだ」きらきらと目を輝かせて、何度も味わうようにグラスを傾ける。彼の言葉や表情は、いつも感情が溢れていてわかりやすい。照れくさくてつい目を逸らしてしまう僕とは、本当に正反対だ。「甘ったるくはないでしょう? もっとも、色々あるので甘いのも作れますけど」こん、こんこん。とリキュールの小さな瓶を三つ並べる。ブラック、ホワイト、クリームの三種類。「陽介さんの名前でキープしときますね。それとも持って帰られます?

  • 優しさを君の、傍に置く   番外編:君とバレンタイン《2》

    どうする。いっそのこと、今までのスタンスを崩さないままでもいいのではないだろうか。陽介さんが一言も欲しいと言わなかった、ということは彼にとってもそれほど重要視されているイベントではないのかもしれない。いや……しかし。陽介さんは、貰うのだ。誰かからは、貰うのだ。それでも僕は、あげなくてもいいのか?自問自答すれば、やはりこのままスルー、という選択肢はなく。渡す渡さないはまた後から考えることにして、まずチョコレートを手に入れるべく平日昼間、僕は珍しく一人で外に出た。バレンタインフェアというものを百貨店でしているのを、テレビのニュースで見たからだ。人の多い場所は苦手だが、平日ならそれほどでもないだろうという僕の見解は、甘かった。バレンタインが目前に迫っているせいかもしれない。赤やピンクのハートがあちこちに飛ぶ、如何にもバレンタインという装飾がされたイベント会場は、たくさんの女性客で賑やかなものだった。……この中に、混じれと言うのか。どこから見ても男にしか見えない僕が。やはり目立つのか、こうして立っているだけでもちらちらと視線が飛んで来るのがわかる。会場の入り口付近からそれ以上足を踏み入れることはせず、まずはパンフレットに目を落としてみた。たくさんの洋菓子メーカーが、バレンタイン商品のみをこのイベントに出品しているらしい。めぼしいものをパンフレットで見つけて、後は地図でそこまで真っすぐ行ってすぐに脱出すればいい。そう考えたのだが、商品も金額も多種多様でどれにすればいいのやら。結局決めかねて、もう一度会場の方へ目を移す。何度見ても気後れする状況に、それこそ途中で貧血を起こしそうだと、ごくりと一つ、喉を鳴らした。*****そうして迎えた、バレンタイン。「慎さん、これ!バレンタインチョコ」「ありがとうございます」馴染みのOLさんに、帰り際に小さな箱を差し出され笑顔で受けとる。「佑さんもよかったら」「ついで感満載だなおい」「やだー、そんなことないよ」ありがとうございます、と御礼を言って、カウンターの外からは見えない紙袋の中に入れる。大きめの紙袋だったが、もうすでに溢れんばかりになっている。バレンタインは明日の日曜だが、土曜の夜から既に女性客がひっきりなしだ。これはもしかしたら、新記録かもしれないな。と、既に個数もわ

  • 優しさを君の、傍に置く   番外編:君とバレンタイン

    【バレンタインの認識が変わるとき】朝食のコーヒーを飲みながら、軽い頭痛を緩和しようと眉間を指で押さえた。大体、僕はいつも血液が足りない。貧血からくる頭痛は月に2、3度やってくる。病院から出る鉄剤は、飲むと気分が悪くなるし、どうすりゃいいんだと自分の身体ながら腹立たしい時がある。だったらちゃんと飯を食え。全くその通りなのだが。朝は、あんまり食べる気がしないし、それでコーヒーだけで済ませると昼はすきっ腹になりすぎて食べる気がしない。昼食を逃すと、流石に何か食べないといけない気がしておやつを食べる。そしたら晩御飯が入らない。……つまり、いいかげんな食生活が原因であることはわかってるんだが、いまいち食に興味が沸かない僕は、正さなければいけないという意識も薄い。「ほら、ちゃんと食えよ」「……うっ」どん、と目の前に佑さんお手製の朝食が置かれた。トーストにベーコン、スクランブルエッグにカットバナナ。朝からフルセット過ぎんだよ。とりあえずトーストを手に取って噛り付く。パンの耳付近をちみちみ齧りながら、バターの香りを漂わせる卵を睨んだ。「……朝からこんなに食えない」「俺だって毎朝来てやれるわけじゃねんだから。作ってやった時くらい食え」「せめて半分」「……しょーがねーやつだな」ようやく折れてくれた佑さんが、フォークと小皿を持ってきて卵を半分とベーコンを一枚浚っていく。こうしてたまに佑さんが朝食を作りに来るのに加えて、土日は陽介さんが焼き立てパンを買って来てくれたり無理やり食事に連れてったりするので、これでも以前よりは随分食べるようになった。プラス、レバーだとか鉄分が豊富に含まれた食べ物を摂ればよいんだろうが僕はレバーは食べられない。あれだけは絶対無理だ。「お、そういやもうすぐバレンタインだな」佑さんがベーコンを咀嚼しながら、カウンター上の卓上カレンダーに手を伸ばし、続けて言った。「お前、今年はどうすんの?」「どうするって……頑張って食べるしかないだろ」毎年のことながら、積み上げてタワーを作りたくなるくらいのチョコレートの量を思い出すと溜息が漏れた。どう見たって本命だろうっていう高級チョコから可愛らしい義理チョコまで、毎年山ほどチョコレートがやってくる。一番多くもらったのは、五十個くらいだったと思う。数を気にするわけでも

  • 優しさを君の、傍に置く   番外編SS《あの時彼は:5》

    「そやったら、お重もう一段持って帰りよ!」「は?いや、いいよもう充分。二段も入ってるし」「だって、陽介さん身体大きいしたくさん食べるやろ。すぐやから」おせちのお重が追加されるのを断ろうと、お母さんと押し問答する真琴さんの横顔を見ながら、自分で吐いた言葉に俺自身が苛まれていた。『身動き出来ない状態で、弄くり回してやろうか』真琴さんではなくあの男に向けて言った言葉だ。だけど、真琴さんと準えて言ったことに間違いはなく、俺の言葉が真琴さんを傷付けてしまったような気がして、酷い罪悪感に胸の奥が軋んだ音をさせる。どこをどう触られたかなんて、聞いてない。だけど、俺が言ったようなことをされたかもしれないのだ、あの男に。漸く玄関の外に出て、念のために周囲を見渡してあの男がいないことを目視で確認する。「陽介さん?」「あ、それ、持ちます」おせちの入った紙袋を真琴さんの手から受け取って、そのまま手をつないで歩きだす。「佑さんと喧嘩でもしたんですか?」「なんでですか?」「いえ、なんか。なんとなく?」「なんもないですよ、仲良しです」「仲良し、と言われたらそれはそれで違和感あるんですけど」「俺は離婚してるはずの佑さんがなんの違和感もなくあの場にいるのが不思議でしたけど」「言ったじゃないですか、別れてからのが良い関係みたいだって。その内よりを戻すんじゃないかなあ。今日もちゃんとお父さんしてて機嫌良さそうだったのに」佑さんがいつもと違っていたことを、不思議がっている様子で、そこから話を逸らしたくて彼女の手を持ち上げた。細い手首、指。壊れ物みたいに繊細で、その手で必死に暴れたのだろうか。……なんで、俺じゃなかったんだろう。思っても仕方ないことを、胸の内で呟いて、労わるようにその手に唇をくっつけた。あの男にどこまで触られたのだろうか、と考え始めれば冷静でいられない自分がいて、必死で脳内を切り替える。手にキスをしたまま、彼女の顔を覗き込むと、またほんのり頬を染めて困惑した表情で俺を見ていた。「……な、なんですか、急に」「へへ、今日何回も顔真っ赤にして可愛かった」「あれは貴方が恥ずかしいこというからっ」「いいっすか?」「こ、ここで? でも、人が」「暗いし誰も居ないっすよ」「そんな暗くないじゃないですか」唇にキス、の合図に戸惑う彼女に「ち

  • 優しさを君の、傍に置く   番外編SS《あの時彼は:4》

    首を絞めようとしたわけじゃない。ただ頭に血が上って、指先に力は入る。手のひらが咽喉仏に当たったのか、男が顔を歪ませて咳き込んで「陽介!」と、鋭い声にはっと我に返った。首から手を離し、すぐに胸倉を掴みなおして引きずりながら階段を下り、門の外まで連れ出すと道端に放り出す。「てめえ!」「騒ぐなよ、周りにバレて本当に困るのはどっちだ」知られたくないって真琴さんの心理に乗っかって胡坐かきやがって。喉を押さえ黙り込む男を、頭の天辺から足まで視線を巡らせた。脳が沸騰しそうな怒りを無理矢理抑え込んだせいで、荒くなった自分の息遣いを聞く。ここまでクズな男を、初めて見た気がする。この男に真琴さんが何をされたのか、事細かに聞いたわけじゃない。ただ『誰もいないところで無理矢理抑えつけられて身体を触られた』と簡潔な事実を説明されただけに過ぎない。俺にはわかんねえ。力づくで抑えられたら恐怖でしかないのは誰にだってわかりそうなもので、なのになんで幼馴染に向かってその力を鼓舞しようとしたのか。黙々と見下ろす視線が異様だったのか、男が少し青ざめた顔色で口元をにやつかせる。「……悪かったよ、ほんとに。だけどほら……ガキの頃の出来心っつうか、俺もあの頃は落ち着きなかったしさ。結局未遂なんだし、せめてちゃんと謝罪くらいさせてくれよ」未遂未遂、謝罪謝罪……いちいち怒りを助長する言葉しか吐かない男に、治まらない憤りの出口を求めて、握りしめた拳が震えた。「結婚式にどうせ顔合わせるだろ、その時に気まずいのも周囲から変に思われるし」「結局、それが理由なんだろうが」「

  • 優しさを君の、傍に置く   番外編SS《あの時彼は:3》

    【本編:貴女が涙を呑んだ理由:陽介VS篤】慎さんの実家で、帰りがけに玄関で彼女を待っていたときだった。 外の階段を上がってくる足音がしたかと思うと、扉が開く。「陽介? もう帰んのか」「あれ、どっか行ってたんすか」姿が見えなかったから、てっきり酔いつぶれてどこかで寝てるのかと思っていた佑さんがコンビニの袋をぶら下げて入ってきた。「煙草買いに行ってた。ちょっと待てよ、真琴は?」「今台所に呼ばれてって」その佑さんの後ろに、知らない若い男が立っていて目が合い会釈する。 おいおいおい。 どう見ても社会人って年齢だよな? 初対面の相手に眉を顰めるってどうなんだよ。 如何にも「お前誰だ」って視線を向けてんじゃねーよ。 男の態度に呆れていれば、佑さんがぽんと俺の肩を叩いて「こいつ、真琴の彼氏」と簡単な紹介をしてから今度は俺に向かって言った。「隣の、真琴の幼馴染の篤。二月に結婚するやつ」感情を水面に例えるなら、この時の俺の水面は意外にもさざ波一つ立たない、静かに置かれたコップの水のようなものだった。「今そこで会ったんだよ、久々に真琴に会いたいっつーから」「へえ……」と、一言漏れただけで、その男から目を離すことはできず身体ごと向き直って凝視する。 ただ、これ以上先に進ませるわけにはいかないと、それだけを咄嗟に思いついて男の前をふさぐ形で立っていた。「陽介?」「真琴さん、呼ぶ必要ないっすよ」「は?」男が、一層眉を顰める。 訝しむ佑さんの声に振り向かず、男を見下ろしたまま言った。「俺が追い

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status