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男の口説き方《3》

Aвтор: 砂原雑音
last update Последнее обновление: 2025-03-06 17:00:19

目が覚めて慎さんの顔を見て、改めて好きだと気づいてからずっと俺はハイテンションで、考えてみればもうちょいやりようがあった。

とか多少の反省もしつつ、一目ぼれなんだからしょうがねえ。

ひとめぼれ……ふためぼれ?

そんなわけで開き直った俺は、慎さんの冷たい仕打ちにも全くめげずご機嫌で掃除機をかけている。

近づくチャンスが得られるなら、掃除でもなんでもしますとも。

どうやら佑さんを味方に付けとくことが、慎さん攻略の最短距離だと思われる。

少し古い、小型のその掃除機はがーがーとうるさくて、何やら慎さんと佑さんが話している気配はしても声までは届かなかった。

いかにも迷惑そうにしながらも慎さんも遠慮がなく、掃除機の次は拭き掃除を命じられる。

いえっさー。

元々惰眠を貪るだけになる予定のつまらない土曜日だ。

喜んでやらせてもらいます。

拭き掃除なら音に邪魔されずに二人の会話にも混ざれるしな。

と、思ったら。

どうやら、昨夜の俺の恥ずかしい勘違いをネタにされていたらしい。

佑さんが、腹を抱えてゲラゲラ笑った。

「だって仕方ないじゃないっすか。浩平から慎さんにご執心のゲイの男がいるって聞いたからてっきり」

さすがにちょっと拗ね乍ら、カウンターの隅を拭いていると、その内側で洗いあがったグラスを丁寧に磨いて棚に戻していた慎さんが眉根を寄せた。

「あー、なるほどな」

佑さんが納得したというように、しきりに頷く。

ちなみに俺と慎さんを働かせておいて、この人はソファで煙草を吸っていた。

「やっぱいるんですか、そういう奴」

もしかしたら、昨日の男のしつこい勧誘が客の誰かにそう勘違いされたのか、とも思ったが。

どうやら、そうではな
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