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第0772話

Auteur: 十一
時也はずっと付き添っていた。

楽しかったのは本当だし、嬉しかったのも本当だが、やはり夜更けになって、眠気が襲ってくる。

凛は家に着くとすぐにシャワーを浴び、髪を乾かして寝ようとしたところで、ドアを叩く音が聞こえる。

「誰ですか?」

「僕だ」陽一は言った。

凛は慌てて濡れた髪をタオルで包み、ドアへ駆け寄る。「先生!?」

彼だと分かり、少し驚く顔をする。

陽一がこんな遅くに彼女を訪ねてくることは滅多にない。

彼は、夜中に女性のドアを叩くのは、非常に失礼な行為だと思っているはずだ。

だから……

今回の訪問は、何か緊急の用事があるのだろうか?

ドアが開き、パジャマ姿で髪をタオルに包んだ凛を見て、陽一の目に後悔の色が浮かぶ――

「すまない、休むところを邪魔してしまったようだ」

「先生――」凛は彼を呼び止め、笑って言った。「邪魔ではありません。どうぞ入ってください」

男は一瞬沈黙する。

結局中に入り、慣れた手つきでスリッパに履き替える。

ただ……

彼がいつも履くスリッパの横に、新しいスリッパがもう一足ある。

彼の目が一瞬暗くなってしまう。

聞くまでもなく、時也のものだと分かる。

「先生、ちょっと待っててください。髪を乾かしてもいいですか?10分ほどで終わりますから」

「うん。まずは髪を乾かしなさい、風邪をひかないように」

凛は最初浴室で乾かそうと思ったが、シャワーを浴びたばかりで、壁中が水滴でびしょびしょだ。

普段はリビングで乾かしているが、今日は寝室に行こう。

プラグを抜き、寝室へ向かおうとする時。

急に陽一に呼び止められた――

「君はリビングにいて、僕はベランダの鉢植えを見てくる」

そう言うと、陽一は立ち上がり、ベランダへ向かっていく。

凛は胸が温かくなる。男の後ろ姿を見つめて、突然言い表せない柔らかな感情が、胸に広がっていくのを感じる。

まるで……包み込まれ、甘やかされ、常に気にかけられているような気持ちだ。

そしてこの感覚は、以前父の慎吾からしか感じたことがない。

「先生、左側の鉢植えは一週間水をやっていないんです。水やりをお願いしてもいいですか?」

「わかった」

10分後――

凛はドライヤーを片付け、バルコニーへ歩み寄った。「先生?もう終わりました?」

陽一は立ち上がった。「終わったよ」

彼は水を
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