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第5話

作者: 花畑のベイベー
「金だけはしっかり欲しがるくせに、自分は悪くないって顔までしたがるとか、さすがに厚かましすぎない?」

その一言をきっかけに、その場は一瞬で騒然となった。

その場にいた全員が軽蔑の目で俺を見て、罵声まで次々に浴びせてきた。

俺は綾乃を見たが、彼女は相変わらず何とも思っていないような顔をしていた。

むしろ、蒼が自分の気持ちを代わりに言ってくれたとでも言いたげに、妙に被害者ぶった顔までしていた。

俺は口元を引きつらせ、ひどくばかばかしい笑みを浮かべた。

何か言おうとしたそのとき、綾乃のほうがあっさり俺の腕をつかみ、わざと寛大なふりをして仲裁役を演じ始めた。

「もういいでしょ、もういい。終わったことは終わったことなんだし、私だってそんなはした金、別に惜しくないわ。

これからお金が欲しいなら、変に遠回しなことをしないで、堂々と私に言えばいいのよ。

いちいちこんなに言い訳を並べる必要なんてないでしょ」

綾乃が口を開いた途端、オフィスの空気はさらに険悪になり、誰も彼もが俺を恩知らずだと決めつけた。

「そうだよなあ、社長くらい金があるなら、欲しいなら最初から言えばいいだけだろ」

「母親をダシにして金をせびるなんて、人として終わってるよ」

「藤ヶ谷がこんなやつだったなんてな。前は節約家だと思ってたし、よく食べ物も分けてやってたのに」

「こういうやつこそ社長に捨てられて、東都で生きていけなくなればいいんだ」

前までは俺と親しくしていた同僚たちまで、ここぞとばかりに俺を叩いてきた。

それに綾乃のやってきたことを思い返すと、もう何もかも、ひどくくだらなく思えてきた。

どうせもう去るのだ。

たとえ今ここで給与の振込履歴を突きつけたところで、綾乃と蒼はまた都合のいい理屈を並べて、みんなに俺を叩かせるだけだろう。

俺は黙って給与の履歴をポケットにしまい込んだ。

そして顔を上げ、綾乃に向かって薄く笑ってみせた。

「俺たち、七年付き合ってたんだよな。だったら一度ちゃんと数えてみろよ。俺がいったい、君の金をいくら使ったのか。

もし俺のために一円でも使った金があるっていうなら、言ってみろ。言えないなら、今度は君が俺に返すべき金を返せ。

それができないなら、君もこの会社も、訴えられる覚悟くらいしておけ」

口では、金の絡まない恋愛だと何度も言っていたくせに、実際には、最初から最後まで金まみれだった。

しかも周囲には羽振りのいい東都のお嬢様と見られているその女が、実際には、俺が母さんの命をつなぐために貯めていた金を使い込んでいた。

綾乃はしばらく必死に思い返していたが、そのうち目の奥にわずかな動揺が走った。

当然だ。俺にどこで金を使ったのかなんて、思い当たるはずがない。

避妊具の代金ですら俺ときっちり割り勘にするような人間だ。

金持ちほどケチなんじゃない。単に俺には、一銭の価値すら感じていなかっただけなんだろう。

たぶん彼女はまだ何か言い訳を続けたかったのだろう。だが俺は、もう聞く気すらなかった。

背を向けて立ち去ろうとしたその瞬間、蒼がいきなり俺を突き飛ばした。

不意を突かれて体勢を崩し、俺はそのまま床に倒れ込んだ。

「悠斗さん、そうやって話逸らすのやめなよ。綾乃さんがあんたに借りなんて作るわけないじゃん。

そんな見え透いた嘘までついて、警察を呼ばれても平気なわけ?

もしあんたが捕まったら、病院にいるお母さんのこと、もうどうにもできなくなるんじゃないのか?

これ以上みっともないこと言う前に、綾乃さんにちゃんと謝ったほうがいいよ」

蒼は、まだ俺を脅せると思っていた。

だが今の俺には、もう失うものなんて何もなかった。

そのとき、ちょうど通りかかった上司が、綾乃の姿を見つけて人だかりの中へ入ってきた。

手には一枚の申請書を持っていた。

「社長、藤ヶ谷くんのお母様が亡くなられて、もう数日になります。社員向けの弔慰金ですが、まだご承認をいただいておりません。

それから、藤ヶ谷くんから出ていた4万円の給与前借り申請ですが、社長のご指示どおり、こちらで取り下げ処理をしております。

ただ……お気の毒でした。聞いたところでは、藤ヶ谷くんのお母様、あと4万円あれば手術費用が揃ったそうで……」

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最新章節

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