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第6話

مؤلف: 三水
「部屋の契約書?」

煌の声は低く、冷えきっていた。冬美を探るような響きがあった。

「煌……」

そばにいた凛が、ふいに力を抜くように煌の胸へもたれかかった。細い手で煌の上着の胸元を掴み、苦しげに眉を寄せた。

「頭がくらくらするの。病院の消毒液の匂いで、気分が悪くなっちゃって……早く帰ろう?ついでに冬美さんも送ってあげて。ひとりで帰るのは大変でしょう?」

凛の言葉は、あまりにも絶妙なタイミングで煌の追及を遮った。

同時に、冬美が口を開く隙も塞いでしまった。

煌の意識は、すぐに腕の中の凛へ向いた。具合の悪そうな顔を見るなり、怪しげな「契約書」のことなど頭から抜け落ちたようだった。

「分かった。すぐ帰ろう」

声には心配が滲んでいた。

煌は有無を言わせず、凛を半ば抱えるようにして出口へ向かった。

その途中で、冬美を一瞥した。

「ついてこい」

逆らうことのできない口調だった。

冬美は手の中の契約書を強く握りしめた。

二人の背中を見つめ、結局、黙って後を追うしかなかった。

後部座席に座った冬美からは、前の席で凛を細やかに気遣う煌の姿がよく見えた。

煌はクッションの位置を丁寧に直し、冷えた凛の手を自分の手のひらで包んで息を吹きかけた。さらに、エアコンは寒くないかと、低い声で何度も尋ねていた。

その細やかな気遣いは、かつて冬美に向けられたことなど一度もないものだった。

昔の煌も、冬美を甘やかしてはくれた。

けれどそれは、もっと独占欲が強く、気まぐれで、身勝手な愛情だった。機嫌がよければ空の星さえ取ってきそうなほど尽くすのに、少し不機嫌になれば平気で冬美を放っておいた。

凛に向けるような、壊れやすい宝物を手の中で守るような慎重さは、冬美に向けられたことは一度もなかった。

冬美は黙って視線を外し、窓の外を流れていく街の景色を見た。

それでいい。

煌を繋ぎ止め、もう命を危険に晒す遊びへ戻らせない人がいるのだから。

迅も……これで安心できるはずだ。

自分の任務も、別の形で果たされたことになる。

その時、助手席からどこか様子のおかしい凛の声が漏れた。

「ん……煌……暑い……」

凛の声は妙に甘く、熱を帯びていた。何度も自分の襟元を引き、頬には不自然な赤みが差していた。

煌は異変に気づき、凛の体を支えた。

「凛?どうした?」

「分からない……ただ、すごく暑くて、苦しいの……胸の奥がむずむずして……」

凛の瞳は次第に潤み、うつろになっていった。呼吸も荒く、縋るように煌の胸へ身を寄せた。

煌の顔が一気に険しくなった。

すぐに車を路肩へ寄せた。

煌は凛の顔を両手で包み込み、様子を確かめた。次の瞬間、その目が冷たく鋭くなった。

「誰に薬を盛られた?」

凛はぼんやりと首を振った。涙が頬を伝った。

「違う……誰にも盛られてない……ただ、車に乗った時、あなたの上着のポケットからいい匂いがしたから……少しだけ、体に吹きかけたの……」

そう言いながら、凛は煌の上着の内ポケットから小さなガラス瓶を取り出し、煌に差し出した。

冬美はその瓶を一目見て、心臓が大きく跳ねた。

それは香水ではなかった。

情欲を煽るための媚薬だった。

以前、冬美と煌がまだ一緒にいた頃、煌はその手の欲が異常に深く、行為も長かった。冬美は耐えきれず、何度も意識を失ったことがある。そのたびに煌は、冬美をもっと溺れさせ、時間を引き延ばすために、その薬を使っていた。

煌もすぐに気づいたのだろう。

煌の顔色が、さっと変わった。

薬の効き目は強烈だった。

しかも……体を重ねることでしか、その火照りを鎮めることはできない。

凛はもう耐えきれないように小さく泣き始め、落ち着かない様子で体をよじっていた。

煌は窓の外を流れていく車を見た。

それから、腕の中で意識が遠のいていく凛を見つめた。

ほとんど迷いはなかった。

煌は運転席のドアを開け、後部座席の冬美に鋭い視線を向けた。

「お前が運転しろ」

冬美は一瞬、呆然とした。けれどすぐに、彼の意図を理解した。

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