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第89話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
剛は白い車を運転しながら高速道路を疾走していた。ルームミラー越しに後部座席を見ると、真夕がまだ意識を失ったまま横たわっていた。

剛はいやらしい目つきで真夕の体の曲線を舐め回すように眺めた。今すぐにでも彼女を好きなようにしたくてたまらなかった。

だが、念のため、彼は真夕をこのまま遠くへ連れて行くつもりだった。誰も自分を知らない場所に着けば、彼女はもう逃げることすらできない。

そうすれば彼も、真夕を好きなように弄び、好きなように支配することができるのだ。

そんなことを想像するだけで、剛は血が沸き立った。

その時、前の車が急に止まった。剛はすぐさまブレーキを踏んだ。

……どういうこと?

渋滞だった。

周囲の車のドライバーたちが次々と顔を出し、言い合っていた。「事故か?」

「違う違う、封鎖だってよ。前の交差点、完全に封鎖されてるらしい。検問だ」

封鎖だと?

剛の顔色が変わり、嫌な予感が胸をよぎった。

「いったい誰が、浜島市全体を封鎖するなんて真似を?」

「聞いた話だと、浜島市随一の大富豪、堀田グループの社長の堀田司らしいよ。浜島市は彼の裏庭みたいなもんだからね。やろうと思えば、天気だって変えられるんじゃないかって噂だよ」

「堀田が検問?まさか、家出した奥様を追ってるんじゃない?」

「ははは、小説の読み過ぎじゃね?」

ドライバーたちはあれこれと噂話に花を咲かせていた。

だが、剛の心はすでに底へと沈んでいた。まずい、司が真夕を探し始めた!

クソッ、あの藍め。「堀田さんは真夕なんか全然好きじゃない」とか、真夕が捨てられた女だなんて言いやがって。

なのに、どうして司が捨てた女のために、こんな大がかりな封鎖までして探してるっていうんだ?

その時、前方に制服を着ているスタッフたちが現れ、車を一台一台検査し始めていた。

剛の心臓は喉元まで競り上がった。だめだ、このままだと捕まってしまう。

こんな所で指をくわえて待っているわけにはいかない。

彼はすぐさま車のドアを開け、真夕を抱きかかえると車を捨てて逃げ出した。

暫く経つと、真夕は、顔が誰かのいやらしい手に触られている感触で意識を取り戻し始めた。彼女は長いまつげが震え、ゆっくりと目を開けた。

そこは薄暗い山の中の洞窟だった。彼女は雑草の上に寝かされており、すぐそばには剛が、ニヤニヤと彼女の顔
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