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第147話
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元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第163話
一樹は口がうまい。洵への投資についても、もっともらしい説明で月子を納得させた。しかし、一つだけ辻褄が合わないことがあるとすれば、それは、彼が静真の親友であるということだ。しかも、彼らは非常に親しい仲のはずなのだ。それは、月子と彩乃の関係に似た仲なのだ。だから、人の考えはそれぞれとはいうものの、立場を入れ替わって考えると、月子は決して彩乃の上げ足はとらないはずだ。そう言われると、口達者な一樹も、一瞬黙り込んでしまった。月子は焦らず、ゆっくりとコーヒーを飲んでいた。一樹が話したがらないので、月子もそれ以上聞かなかった。彼の考えがどうであれ、月子が彼の投資を断ることに変わりはなかった。しかし、どこか腑に落ちない感覚が月子の中にあった。一樹は窓の外に視線を向けた。彼は思ったことをすぐ口にするタイプで、好きな人が出来たら積極的にアプローチする。こんな風に、思いが言えない日が来るとは思ってもみなかった。月子は静真との関係をきっぱりと断ち切っていて、その態度は非常に毅然としていた。もし今、自分が静真の友達という立場から告白すれば、一生相手にされないだろう。さらに、月子にとって自分は静真ほど重要ではなく、いてもいなくてもいい存在でしかない。だから、未練など持たれるはずもない。せっかく好きになった女性だから、どうしても手に入れたい。告白は絶対に失敗できない。そのため、月子からも好意を持たれるようになって、初めて気持ちを伝えることができるのだ。だから、この告白は恋の始まりではなく、ゴールなんだ。その時になれば、静真とは本気で縁を切ることになるだろう。一樹は自分の欲しいものを良くわかっていた。そして、それに伴う結果も受け入れる覚悟がある。決意した以上、今後静真とは友達ではいられないことも分かっている。だけど、後悔することは何もない。しかし今は、月子を口説けるチャンスがない。月子は結婚生活の影から抜け出し、完全に吹っ切れたようだが、普通はそんなにすぐに新しい恋を受け入れられないだろう。ましてや、結婚生活で深い傷を負った月子ならなおさらだ。もっと極端な場合、結婚や男性に失望してしまうかもしれない。一樹は、月子が男性に興味がないように感じていた。……だからこそ、努力する必要があるんだ。洵に気に入られようとするの
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第162話
「洵があなたのことを何故嫌っているのか、本当に分からないの？」一樹は首を横に振った。「それは彼に聞くべきだろう」実際のところ一樹ほどの男だ。しかも、男同士ということもあって、洵が自分を嫌っている理由なんて分からないはずがないのだ。洵は彼をまるで泥棒でも見るかのように警戒し、月子に近づけまいとしているのだ。一樹は少し後悔していた。まさか洵に気づかれるとは思ってもみなかったのだ。もちろん、彼は認めるつもりはないんだけど。月子は静真の妻なのだ。そもそも親友の妻を好きになるなんていうのは、普通では考えられないことだ。だが、自分が認めない限り、どうってことはないのだ。洵に嫌われているからこそ、一樹は投資という形で彼のご機嫌を取ろうとしたのだ。つまり、未来の義弟を買収しようとしたのだ。しかし、一樹の予想外に、洵の性格がここまで強情だったとは思ってもみなかった。こうなると、事態はより複雑になった。「この件については必ずはっきりさせておく。でも、投資の件はなかったことにして」と月子は言った。一樹は目を細め、月子をじっと見つめた。前回会った時よりも、彼女は生き生きとしていた。静真と一緒だった頃の月子は、不幸な結婚生活に疲れ果て、生気がなかった。しかし今、彼女の表情は全く違っていた。一樹は、静真を見つめる月子のキラキラとした瞳が好きだった。今、彼女はその名の通り、月のように輝きを取り戻したようだった。だからこそ一樹は、彼女に会うたびに想いが募っていった。自制心が強い彼でさえ、隠しきれないほどだった。彼は、今までこんなに女性を好きになったことはなかった。月子が初めてなのだ。しかし、今は告白をするタイミングではない。一樹が黙り込んだのは、月子への想いを抑えるためだった。そして息を吐き出し、いつものように唇をあげた。「静真さんのせいなのか？」月子は否定しなかった。「そうだろうな。俺があなたに何かした覚えはない。ここまで態度が変わるのは、静真さんのせい以外に考えられない……彼と一体何があったのか、教えてくれないか？」月子は自分と静真の関係が完全に終わったことを、皆に知らしめる必要があると思った。そうでなければ、周りの人間皆彼女がまた駆け引きをしているのだと勘違いするだろう。「彼とはもう完全に一線を置いたし、未練
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第161話
Sグループ社長秘書である月子は、K市金融業界をよく知っていた。洵のゲームには将来性がある。しかし、一樹自ら出向くほどではないはずだ。一樹が来たということは、つまり、このプロジェクトは新領域キャピタルのプロジェクト担当が見つけたものではなく、一樹の指示で竜也がデューデリジェンスを実施しただけということだ。月子はもう静真とはっきりと線を引いた。だから、彼の親友である一樹とももちろん、距離を置くつもりなのだ。月子は洵と陽介にこの提携の話を断らせ、自分が投資するつもりだった。ところが、洵が先に口を開いた。「森部長、この提携はなかったことにしてくれ！」陽介は驚きを隠せない。「洵、お前……いいのか？」「荷物をまとめて出よう」洵の態度は強気で断固としていて、議論の余地は全くなかった。陽介は怒りで顔が真っ青になった。一樹は来る前に月子がいるとは思っていなかった。竜也から彼女の名前を聞いて、来ることにしたのだ。「そう慌てるなよ。提携をしなくても、お茶くらい飲めるじゃないか」一樹は穏やかに笑った。洵は一樹の色気づいた目線が気に入らなかった。初対面のときから、彼の月子を見る目線に何か企みがあったような気がしたのだ。うまく隠してはいるものの、男の勘として――一樹は表向きは自分に投資すると言いながら、本当は月子を狙っているのだと感じていた。洵からすれば、すでに静真という存在がいるだけでも十分気に入らなかった。類は友を呼ぶ、この一樹もまた静真と同じように、ろくなやつであるはずがない。「いや、お茶はやめとくよ！」竜也は洵の生意気な態度に驚いた。一樹は温厚だが、それでもK市では一目を置かれる存在だ。少しは敬意を払うべきではないか。一樹は洵を無視し、月子の方を向いた。「洵は俺と話をする気がないようだ。では、俺たちで話そうか？」それを聞いた洵は苛立ちが募ったように彼を遮った。「二人に話すことなんてあるのか？」一樹は答えた。「少なくとも、月子に俺がここにいる理由を説明する必要がある」洵は一樹を睨みつけた。そして、まるで怒りのはけ口が見当たらないように苛立っていた。このチャラ男は静真とは全く違うタイプで、手ごわいな。月子も理由を知りたかったので、外に出て話そうとした。しかし、一樹は動かず、竜也を一瞥した。竜也は
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第160話
そう考えると、洵の態度はさらに改まってきた。しかし、一方で月子はそれを聞いて驚いた。新領域キャピタルは、佐藤グループ傘下のベンチャーキャピタル会社じゃないか。あれは一樹の本業だ。こんな偶然ってあるのだろうか。状況を把握できていない月子は、平静を装って相手と握手を交わした。四人は席に着いて話し合いを始めた。竜也は強い投資意欲を示した。「伝統文化を取り入れたゲームはたくさんありますが、あなた方のコンセプトアートや動画を見る限り、ここまで精巧に作られたものは稀です」陽介と洵は顔を見合わせ、二人の目に興奮の色が浮かんだ。これまで投資家たちは彼らのことを馬鹿にして、散々にこき下ろしてきたのだ。こうして認められることが、若い起業家にとっては何よりも嬉しいのだ。ゲームの話になると、洵は饒舌になった。話の内容は筋が通っていて、説得力があった。月子は洵の様子をずっと観察していた。普段とは違う、大人びた一面を見て、少し驚いた。やっぱり真剣に仕事をしている男は魅力的だ。彼が普段こんな風に気を使って話すことは滅多にないのだ。そう思いながらも、月子は竜也のことも観察していた。ゲームへの理解度から判断すると、事前に業界調査や掘り下げた分析を行っているようだった。もしかしたら、本当に洵のゲームに魅力を感じて投資を考えているのかもしれない。一樹はベンチャーキャピタルを運営しているとはいえ、決定権を持つ立場なので、個々のプロジェクトに直接関わることは少ない。月子もすでに彩乃からのカードを受け取っていたので心にゆとりがあった。300億円もの大金があれば、洵に追加投資をすることもできる。しかし、他の投資家からの支援があれば、それに越したことはない。陽介と洵は、投資家とこんなに気持ちよく話せたのは初めてだった。二人は大物を釣り上げたと思い、興奮を抑えきれなかった。来週月曜日に会社視察の約束をしていたその時、竜也に着信があった。「かしこまりました。すぐにお迎えにあがります」電話を切り、竜也は言った。「少しお待ちください」それを言われた洵と陽介は共に頷いて了承した。竜也が席を外すと、洵は待ちきれずに陽介に尋ねた。「どうやったんだ？彼らとどうやって連絡取れたんだ？」陽介は途端に気まずくなった。新領域キャピタル
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第159話
陽介は呆れたように目を上に向けた。「相変わらず強情だな！」洵は鼻で笑った。「ふん、月子の方から食事に誘ってきたんだぞ。俺から連絡したわけじゃない。たまたま俺が会食に行く予定があったから、ついでに一緒に行こうって話になっただけだ。別に不自然なことじゃないだろう」陽介は洵と口論するのも面倒になった。以前、会社で何か問題が起きても、洵は月子に相談なんてしなかったのに。今回わざわざ一緒に会食に誘うなんて、明らかに月子に近づこうとしているだろ。それに、鳴と喧嘩をしに行ったあの日、月子が止めに入ったときだって、洵は「ぶっ飛ばすぞ」なんて脅してたけど、結局、月子の服にさえ触れなかったじゃないか。口だけ達者なやつだ。陽介は、鳴が月子の頭に瓶を振り下ろしたとき、洵が何も言わずに月子をかばい、自分の腕で守ったことを思い出した。ここ数日、洵の腕にうっかり触れてしまうと、彼は顔をしかめていた。相当な怪我だったはずなのに、彼は強情を張って痛みも何も一切口にしなかった。それに今回だって、月子が報酬断ったにもかかわらず、洵はそれを無理にでも受け取らせようとしているのだ。口先ばかりの男はよくいるけど。洵はそういう男とは全く正反対だ。一方で洵は陽介の様子に歯を食いしばって聞き返した。「なんだ、信じてないのか？」陽介は、この後一樹が来ることを気にして、こんな時に、揉めたくなかったので、彼を宥めるようにして言った。「お前とこんなに長い付き合いだ。信じないわけがないだろう」そしてあえて付け加えるようにして言った。「月子さんがお前の考えを知ったら、きっと悲しむだろうな」洵は冷たく鼻で笑って、まるで「知ったことか」と言わんばかりの顔をした。陽介は言葉を失った。彼らは月子と先に待ち合わせる約束をしていたので、二人が先に到着してまもなく、月子がやってきた。車を停めると月子は、二人を見かけた。彼女は隼人を家に送り届けた後、今日どうしても祝いたいと思い、洵を誘ったのだった。陽介は相変わらず熱心で、彼女を見かけるとすぐに駆け寄ってきた。洵は月子をチラッと見て、すぐに視線を逸らし、素っ気ない態度をとった。月子はそんな彼の態度が慣れっこだった。陽介は言った。「月子さん、俺たちもさっき着きました！すごい偶然！」月子は尋ねた。「どの投資
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第158話
月子、マジ尊敬する。だって静真だよ？桜は静真に何度か会ったことがあった。彼は隼人と同じタイプで、オーラが強く、冷酷だ。まるで学生の時の怖い教授みたいで、近寄りがたいし、少しも失礼なことができない相手なのだ。だって学生の立場からしてみれば、威厳があって、立場も全然違う教授を平手打ちするなんて、誰ができるのだろうか？想像しただけで恐ろしい。そんな彼を月子は平手打ちしたんだ。マジですごすぎる。天音もまた、驚きを隠せなかった。静真は自分を可愛がってくれてはいるけれど、兄としての威厳もあるし、入江グループのトップだ。彼女にとってさえ簡単に平手打ちできるような相手ではないはずだ。月子は自分より3歳だけ年上だし、いつも兄にはペコペコしてるのに、どうして今になって手を出すことができたんだろう。「桜、どうしよう。月子は兄さえ怖がってないのよ。私のことなんて、もっと怖がってないに決まってる。しかも、隼人がバックについてるし！」桜は言った。「……まあ、確かに。月子は、どうかしてるか、もうヤケクソになって、何もかもどうでもよくなってるかのどっちかだね」開き直った相手っていうのは弱みがないから本当に厄介だ。どこから攻めればいいのか、全く分からない。天音は、悔しさをこらえるようにお酒をグイッと飲み干した。「この仕打ち、絶対にただじゃ置かないから！」桜は天音に「今回は諦めたらどう？」と提案したかった。でも、彼女は二度も平手打ちされて、お酒までかけられたのだ。天音の性格からして、このまま済まされるはずもないだろう。……でも、彼女じゃあ、多分月子には敵わないだろうな。これは、桜の直感だった。……喫茶店で、一樹が来た時、静真はちょうど天音との電話を終えたところだった。静真の頭の中は、天音が最後に言った言葉でいっぱいだった。月子が隼人と、一緒にいるなんて。二人はバーで何をしていたんだろう？一緒に酒を飲んでいたのだろうか？月子と隼人は、まるで友達のように、よく二人きりで会っているのだろうか？一体どうやって、月子は隼人と仲良くなったんだ？月子みたいなつまらない女を、隼人は我慢できるのか？それに、どうして月子は、自分に逆らうようになったんだ？静真の頭の中は様々な考えで渦巻き、表情は険しかった。一樹は彼と長い付き合い
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