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第27話

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静真が自ら話題を切り出すなんて珍しい。

隼人の車を見たせいだろう。

普通の恋人同士なら、ちょっとしたヤキモチで済む話で、むしろ二人の仲を深めるスパイスになる。

だが、月子と静真は違う。

隼人に関係することなら、必ず隼人自身が原因なのだ。

静真にとって、たった一ヶ月年上の異母の兄である隼人は、目の上のたんこぶ、いや、それ以上の、触れてはいけないタブーそのものだった。

ここ数年、隼人は海外にいたため、静真は月子にこのことを話す機会がなかった。皮肉にも、月子は家族の夕食会で静真の父親からその理由を聞き出した。

彼らの父親は、よく二人を比較していたのだ。

父親は、明らかに長男の方を気に入っていた。

3年前、静真は入江グループの社長に就任し、優れた業績を上げた。しかし、父親はそれでも彼を隼人より劣っていると見なしていた。

今の静真になっても、父親は彼に遠慮なし。ってことは、子供の頃は、兄に劣っているという言葉を、もっとたくさん聞かされたに違いない。

それに静真は負けず嫌いで、彼と隼人の間の確執は根深く、もはやそう簡単に解消できるものではなくなっているのだ。

この異母の兄のこととなると、彼は決して喜ばない。

だから、会わないに越したことはない。入江会長がいなければ、彼は本家に来ることなど絶対にないだろう。

月子は正直に答えた。「親しくない」

静真は、二人が親しいはずがないことを知っていた。

隼人のことだから、つい聞いてしまっただけで、月子とは関係ない。

……

間もなく、車は入江家の本家に到着した。

月子と静真は一緒に車から降りた。

以前の彼女なら、入江会長を見舞う口実で、静真の腕に抱きついただろう。

静真は彼女と親密になるのは好きではなかったが、入江会長の手前、仕方なく付き合っていた。

月子は、そんな時間を大切にしていた。

しかし、今日の彼女は、離婚が成立するまでただ入江会長の前で演技をするためだけに来ている。だからもう昔のような気持ちはないのだ。

さから今回彼女は静真よりも早く、大股で歩いて行った。

静真は今日、高橋から月子の話を聞いて、彼女が1週間も家に帰らず、高橋にも連絡していないことを知った。

これまでの家出記録を更新したことになる。

今日の行動もいつもと違う。

月子が1週間も自分に反抗するとは、静真は思ってもみな
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