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第535話

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それを聞くと隼人は月子を見つめた。その目に怒りはなく、むしろ挑発されたような色を浮かべては、彼女の顎を軽く掴み、激しくキスをした。

月子が身を引こうとすると、隼人のキスは執拗に追いかけきて、独占欲を露わにした。

やっとのことで逃げ切った月子だったが、隼人の唇はまだ少し開いていて、物足りない様子だった。

息を切らしながら、普段とは違う強引な隼人に押され、月子は思わず言った。「分かった。もう十分に分かっている」

すると隼人の視線は深まっていた。その吸い込まれそうで攻撃的な視線に月子は耐えられず、目を逸らした。いつもは冷淡で威厳を漂わせる隼人なのだが、この瞬間、攻撃的で危険な目つきに豹変していたのだった。

そして、追い打ちをかけるかのように隼人はさらに言った。「もっと深く感じさせてあげられるんだが、どうだ?試してみないか?」

月子は顔を赤らめ、「もう十分すぎる。さあ、鷹司社長早くパジャマに着替えてきて、髪の毛から水が滴り落ちてきているじゃない」と言った。

「恋人になったのに、まだ社長って呼ぶのか?」

「癖でつい。でも、今社長って呼ぶと、隼人さんって呼ぶよりドキドキする……ん……」

月子は瞬きをした。

月子が話している間、隼人は彼女の唇をじっと見つめていた。そして、我慢できずに再びキスをし、月子をベッドに押し倒した。そして、両手を彼女の指と絡ませ、顔の脇に手を添えた。

そのキスはゆっくりと首筋へと移動していき、彼女の首筋を優しく噛みついた。

鳥肌が立った月子は、彼を抱きしめ、後頭部を押さえてそれ以上キスされないようにした。「着替えなくていいの?」

隼人は月子に覆いかぶさり、彼女が下着を着けていることに気づいた。バスローブを着ている時のような柔らかさはなくなっていた。

恋人である彼女は、まだそのつもりはないらしい。少なくとも、今はまだ完全には打ち解けていない。だから、彼もぐっと堪え、ゆっくり時間をかけて少しずつ、小さな喜びを見つけていくしかないのだ。

これだけの忍耐で彼女を口説いたのだから、こういうことはなおさら我慢しなければならない。

隼人は月子とあらゆる面で調和し、心身ともに最高の体験をさせてあげたかった。

それに、キスしている時の月子はとても素直で、気持ちよさそうだった。彼女は明らかに自分に大きな誤解をしている。もしかしたら、自分はそう
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