LOGINShare
第622話
Latest chapter
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第660話
一方で、月子は天音との用事を済ませ、車で帰路についた。彼女も彩乃も忙しく、一緒に会えるのは久しぶりだ。彩乃がお酒を飲みたいと言い出した。そして、月子は彩乃の行きつけのバーに一緒に行くことにした。彩乃はかなりの酒好きで、どんなに強いお酒もへっちゃらだった。でも、普段はそこまで飲んだりしない。親友との飲み会では、無理に飲ませたりはしない。気楽に飲むのがお決まりだった。とっておきの一本を注文し、一口飲んだ彩乃は上機嫌で言った。「月子、ずっと言ってなかったことがあるんだけど、怒らないで聞いてくれる？」月子は彼女とグラスを合わせた。「内容によるかな！」そこで彩乃は、とんでもないことを言い出した。「私、忍と寝たんだ」月子は口に含んだお酒を噴き出しそうになった。慌てて飲み込むと、驚きのあまり大声になった。「いつの話！」「なによ、今の表情を天音に見せたら、憧れの人だって幻滅してファンやめちゃうかもよ！」月子は彼女を睨みつけた。「はぐらかさないで。詳しく話して！」「はいはい、わかった、話すよ」彩乃はグラスを揺らしながら言った。「あなたが離婚届を取った日の夜、一緒にバーに行ったでしょ。忍があなたのために独身記念パーティーを開いてくれたんだけど、あなたは来なくて私が行ったの。それで、かなり酔っちゃって、彼が家まで送ってくれてさ。それも、あなたが頼んだことだけど。彼がうちで少し休んでるうちに、また飲んじゃって、それでそういう雰囲気になったの」月子は信じられないという顔で彼女を睨んだ。「それって、もう何か月も前の話じゃない！なんで今まで黙ってたの？」彩乃は降参といった表情を見せた。「私が付き合うのって、いつも私が主導権を握れる相手だけなの。忍とは先のことなんて考えてなかったから、二人で誰にも言わないって約束して、何もなかったことにしたのよ。彼も同意したし、それで終わりだと思ってたのに」そう言うと、彼女は不機嫌な顔になった。「それなのに、彼にまんまとハメられたのよ！」月子はハッとした。「なるほど、だから少ししてあなたの隣に引っ越してきたのね！犬の散歩とか言ってあなたの家の周りをうろうろして……本当は偶然を装ってあなたに会いたかったのね？」「下心に決まってるでしょ」彩乃は嘲るように笑った。「男なんて頭の中はヤることばっかり。スケベな
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第659話
「彼女を隼人の腕の中に突き放したのは、他でもない、あなた自身だ。こうなったのも全部あなた自身の責任だ！いつも失敗ばかりして、いつまでたっても子供みたいなままだな！愛って何なのか、分かっちゃいないだろ！人を愛するってどういうことか、どうして理解できないんだ？全部、あなたのせいだ！全部あなたがぶち壊してるんだ！」「違う――違う――俺は失敗していない――ちゃんと分かってる――」静真は窒息するような感覚で目を覚ました。心臓は激しく鼓動し、額には冷たい汗がびっしょり。息を切らせながら、上体を起こした。大抵の夢は目が覚めると忘れてしまうものなのだが、今回に限り、夢の中の全てがあまりにも鮮明で、彼に押し寄せてきたのだ。本当に恐ろしい悪夢だった。そう思いながらも、静真は冷笑を浮かべた。自分はトップに立った時からライバルをすべて的に排除してきた。今となっては誰一人として、自分に敵う者はいないはずだから、もはや誰かに何かを証明する必要もないし、母親でさえとっくに自分に指図できなくなっているのだ。とはいえ、自分は生まれつき冷淡な人間だ。愛なんて、子供の頃から信じていない。だから、隼人の偽善も最初から見抜けていたし、月子の愛にも賞味期限があることだって分かっていた。病気になっても誰も看病してくれないのは当たり前だ。誰だって幸せな家庭を持っているわけじゃない。月子が徹夜で看病してくれたのも、彼女の勝手だ。自分は頼んだ覚えもない。どうせ子供の頃から一人でいることに慣れているから、別に必要としていない。だから、一人で寝ているのと、看病されているのと、何が違うっていうんだということを静真には理解できなかった。ただ、妹が病気になった時、両親が徹夜で看病していたのには驚いた。まあ、深く考える気はないが。しかし悪夢の影は、心にまとわりついてなかなか消えない。そうでなければ、悪夢とは呼べないだろう。心の奥底にある痛みが呼び覚まされ、静真はシーツを握りしめ、何度も深く息を吸い込んだ。額の冷や汗はさらに増し、目尻もひんやりとしている。汗が流れ落ちて、まるで泣いているようだった。得体の知れない胸やけは吐き気を催すほどだった。そして、意識がもうろうとする中、静真は、人気のない寂しい部屋を見つめていた。布団には温もりがなく、寒気が体中に
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第658話
「どうして成績が前回より下がったの？ちゃんと努力したの？お母さんが決めた目標を達成できないの？なぜいつもあと一歩及ばないわけ！静真、あなたって何をしても失敗ばかりね！」夢の中で静真はもがき苦しみ、出口のない渦に囚われていた。そして夢の中の景色は目まぐるしく変化した。時間の流れも、まるで脈絡がなかった。そして、一度しか会ったことのない月子が、自分に好きだと告白する夢を見た。数回しか会ったことのないやつが、好きだなんて言うか？何を企んでいる？海で助けたからって、なんだっていうんだ？他に何もしていない。感動させるようなパフォーマンスだってしていないのに、月子が自分を好きになるわけがない。理由もなく人を好きになるはずがない。だから、彼女は今まで出会った中で一番の大ウソつきなのだ。その手口も巧妙だったのだろう、そんなウソに自分が機嫌を良くさせられている時があるんだから。そう思っていると、夢の中で場面はさらに移り変わっていた。自分が病気になった時、月子はそばに付き添っていた。病気になったのは酒の飲みすぎが原因だ。だから、一人でベッドで苦しむのは当然のことなのに、なぜそばにいる？偽善者め。自分の弱みにつけ込もうとしているのか？自分が騙されると思っているのか？馬鹿な。ただ、相手の手口は思った以上にどんどん巧になっていた。それは時に、恐怖さえも感じさせるものがあった。なにせ自分はそんな策略に少しずつハマりかけ始めたのだから、彼女のやり口は、確かに自分に効いているようだ。だが、負けるわけにはいかない。負けたら、とんでもない傷を負い、罰を受けることになる。結局、月子のいう愛だの好きだの言っているのは全部嘘っぱちだ。だって、ずっと愛していると言っていた月子は、現に自分から離れていったじゃないか。だから、自分が心を開かなかったのは正解なんだ。もし自分が何もしなくても、月子が一生自分を愛してくれたら、自分はまんまと彼女の罠にハマっていたのだろう。やっぱり無条件の愛なんてない。それは鉄の掟であり、誰も破ることができないルールだ。自分が騙されなかったから、月子は去っていた。そうやって静真は無条件の愛なんてすべて嘘であるということを自己都合に解釈し証明したかのように思えた。だが、なぜ彼女が去った後、逆に落
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第657話
「泣いてどうするのよ！プレゼントをあげたんだから、あなたがちゃんと守る義務があるんでしょ。壊れたのも、失くしたのも、全部あなたの責任よ！どうしてミスばかりするの？静真、あなたにはいつもがっがりよ！また病気になったの？どうして自分の面倒をみれないの？またお父さんに殴られたのか？言ったでしょ、隼人にちょっかいを出さないでって。そんなことしておじいさんとお父さんに嫌われるだけよ。彼らに好かれるように努力しなさいよ！隼人の味方ばかりさせてどうするの？どうしてそんなにバカなの！反省しなさい！」そう言って、晶は病室のドアを勢いよく閉めた。5、6歳くらいの静真はベッドに横たわっていた。もう泣いてはいなかった。天井を睨みつける瞳には、怨念と自己嫌悪が渦巻いていた。隼人を木に吊るしたせいで、父親に見つかってボコボコに殴られ、高熱を出して入院したというのに、母親は病院に来て、ただ怒鳴り散らすだけだった。静真は自分が至らなかったせいだと思い、あの時、森の中で吊るした隼人がそのまま死ねばよかったのに、と恨めしく思った。ひどく殴られ、高熱が出て、とても辛い……でも、全部自分が悪かったんだ。当然の報いだ。静真は静かにそれを受け入れた。病気になったのは、自分が何か悪いことをしたせいだ。だから、誰も心配してくれないのも当然だ。しかし、今回はかなり重い病気で、なかなか退院できなかった。ある日、病室のドアが開いた。静真は看護師が薬を取り替えるに来たのだと思った。母親を失望させたのだから、心配してもらえるはずがない。父親は隼人ばかり可愛がる。自分が悪いことをしたのだから、彼が見舞いに来るはずもない。ところが、入ってきたのは隼人だった。手首にはまだ白い包帯が巻かれていた。あんな目に遭わせてやったのに、まだ自分の前に姿を現すのか？殺されるのが怖くないのか？すると、隼人はこれまでのことを水に流して、友達になろうと言ってきた。水に流す？友達になる？できるわけないだろ。冗談じゃない。隼人さえいなければ、母はあんな風に自分に当たらなかった。隼人さえいなければ、自分はいつも欲しいものが手に入れられないこともなかった。隼人さえいなければ、母は自分に失望なんかしないし、こんな死にそうな時だって、看病してくれたはずだ。だから、いなくなるべきなのは、自分をこ
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第656話
月子のことは詩織だけが知っている。彼女はむやみに自分を慰めたりはしなかった。静真はこの女の度胸の良さに感心し、信頼を置いた。やっぱり、女の方が男より仕事が丁寧だ。渉は本当に間抜けだ。それに、こんな恥ずかしいことは、あまり多くの人に知られたくない。……別荘に戻ると、高橋はもう寝ていた。静真は家に人が多いのが好きではなかった。別荘はがらんとしていた。彼は無意識にソファに目をやったが、すぐに視線を戻した。いつものように書斎でしばらく過ごしたが、夜ご飯を食べていなかったので腹が減っていた。高橋を起こして何か作ってもらうこともできたが、そうしたくなかった。だから、じっとしていた。多分、意識のどこかでまた以前のように月子がいつでも夜食を作ってくれることを望んでいたのだろう。胃の不快感のせいで、顔色はどんどん悪くなっていった。静真はこのまま空腹を我慢することに決め、冷水を数口飲んで、寝ようとした。しかし、どういうわけか、自分の寝室から一番遠い部屋へ向かってしまった。そこは月子が使っていたゲストルームだ。やはり、月子がサンであることは、少なからず影響を与えているようだ。そうでなければ、自分がこんなところに来るはずがないだろうと静真は思った。月子がこの別荘を出て行ってから、彼は離婚の手続期間中に一度入ったきりだった。今日は、ふと思い立って、また立ち寄ってみようと思ったのだ。そう思いながら、彼はドアを開けた。部屋の空気は澄んでいた。高橋がきちんと掃除をしていたようだ。この別荘は全て自分のものなのに、この部屋にはほとんど来たことがなかった。家具の配置など、全てがどこかよそよそしく感じられた。そして、この家には、見知らぬ場所や、今まで気に留めなかった細部がたくさんあるように感じた。例えばこのドレッサーや机のように。指で机の上をなぞると、埃ひとつなかった。高橋には感心する点が一つある。月子がいなくなっても、彼女のことを気にかけているようだ。自分と同じように。だから、月子に関係するものは全て丁寧に扱っているのだろう。もし彼女が戻ってこなければ、これは無駄骨になってしまうのだろうか？もし、月子が本当に戻ってこないとしたら……一体、自分は何をしているんだろう？静真は引き出しを開けようとした手を止め、苦し
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第655話
腑に落ちないながらも、目の前の現実は受け入れざるを得なかった。渉は月子が静真の心中で占める地位を確かに過小評価していたと認めざるを得なかった。そして、その隙に詩織が必死で社長のご機嫌を取り、信頼を勝ち取っていったのだろう。だから社長はますます彼女を重用するようになったんだ。そう思うと渉の顔色はどんどん悪くなっていった。何とかして形勢逆転を狙わなければ、と彼は考えた。詩織に、自分の地位を脅かされるなんて絶対に許せない。……静真に追い出された詩織は不安で仕方なかったが、今は社長に近づくべきではないと考えた。しかし、このまま黙っていても事態は好転しない。彼の怒りを鎮める方法を考えなければ。その時、彼女はサンのことを思い出した。サンと月子の繋がりを調べるため、詩織は何日も徹夜して、サンに関する情報を大量に集めていた。特にレース中の動画はたくさんあった。まさか、あんなに華やかな女性が、以前自分が家政婦と勘違いした女性と同一人物だったとは、彼女は夢にも思わなかった。そう思いながら、詩織は集めた資料を開いた。適当に動画を再生してみると、エンジンの轟音、心臓が飛び出そうになるほどのスピード、そして耳をつんざくような歓声……最後に映ったのは、レーシングカーを冷静に操るレーサーの完璧なドライビングテクニックだった。詩織は、レーサーのクローズアップに釘付けになった。黒いヘルメットで表情は何も見えない。謎めいた天才レーサー。それが月子だった。そして、顔の見えないレーサーの姿が、詩織が知っている月子の姿と徐々に重なり始めた。優しく穏やかな月子、冷たく近寄りがたい月子、冷酷な月子。しかし、どの月子にも共通していることがあった。それは、揺るぎない芯の強さだ。かつて静真を愛していた時、月子は全てを捧げていた。手作り弁当を毎日届けるなんて、並大抵の意志ではできない。これも、彼女の揺るぎない強さの表れではないだろうか？周りの人間は、月子の盲目的な献身ばかりを見て、その行動の裏にある強い意志を見落としていた。月子は確かに冷淡な一面もある。しかし、高橋が言っていたように、彼女は他人にも気を配れる人間だ。それほど親しくなくても、健康診断を受けるように勧める優しさも持っている。レース場での危険や冷酷さは、一見月子とは無縁に見える。しか
You may also like
望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした
結城 芙由奈17.1K viewsこれ以上は私でも我慢できません！
ルーシー83.7K views渡辺社長、奥さんの10人の兄がまた離婚を催促しに来た
赤丸十三54.5K views偽りの結婚生活～私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした
結城 芙由奈98.1K views私にだけ塩対応の義兄が溺愛モンスターにジョブチェンだと？
甘寧7.3K viewsいつもあなたのそばにいたい
心優(mihiro)1.3K views妹に婚約者を奪われました＠忍びの里
satomi145 views植物人間の社長がパパになった
佐藤 月汐夜183.0K views
