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第38話

Author: タマタツ
男はうなずき、車窓が静かに閉まる。

その端正な顔立ちはガラスの向こうへと消えていった。

運転席に乗り込んだ瞬間、絃葉の胸に、なぜか微かな違和感がよぎった。

あの男には、どこか妙な既視感がある。

だが、どこで会ったのかはどうしても思い出せない。

もっとも、相手との距離感をきちんと保つあの態度には好感が持てた。

ロールス・ロイスの後部座席に乗り、あの日はヨットにも現れていた。

神秘的で目立たない富豪でなくとも、相当な家柄の出なのだろう。

絃葉は昔の交友関係を頭の中で一通り探ってみたが、該当しそうな人物は見当たらなかった。

――まあいい。今度機会があれば、青波にでも聞いてみよう。

後部座席からは酒の臭いが充満していた。

絃葉は耐えきれず窓を開け、換気しながら車を走らせる。

窓の外から冷たい風が吹き込み、寒さはあったが、酒臭さに包まれるよりはずっとましだった。

「さ、寒い......」

凪杜が寒さで目を覚まし、ぼそりとつぶやいた。

反射的に上半身を起こしたものの、酔いはまだ抜けておらず、すぐに力尽きるように後ろへ倒れ込む。

絃葉はバックミラー越しに冷ややかな視線
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