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9.また捨てられてしまうかも⋯⋯。

last update Petsa ng paglalathala: 2025-06-03 17:48:06

 目を開けると陛下が心配そうに私のことを覗き見ていた。

 背中にベッドの柔らかさを感じて、周りを見渡すと自分の部屋だと分かる。

(私、倒れたの?)

「陛下、申し訳ございません。私が無理を言って出席させて頂いたのにご迷惑をお掛けしました」

「いや、俺の方こそ⋯⋯すまなかった」

 陛下は何に対して謝っているのだろう。

(雌犬とか、悪魔とか言われたような気がするけれど⋯⋯何がいけなかったのかしら⋯⋯)

「私の方こそバラルデール帝国について不勉強でした。ダンスの誘いは受けるべきではなかったのですね」

「いや、君は間違ってない⋯⋯俺が勝手にイライラしていただけだ」

 陛下はお母様を亡くされたばかりだ。

 私は部屋にいるように彼から言われたのに、自分の我儘を通した。

(こんな私では、また捨てられてしまうかも⋯⋯)

 私が落ち込んで黙りこくっていると、陛下が私の髪に手を伸ばして撫でてきた。

 私は昔から髪を撫でられのが好きで、思わず目を瞑りその優しい感触に身を委ねた。

(前世が犬だったからから、撫でられるのが気持ち良いのかも)

「その何かお詫びをさせてくれないか? 欲しいものとかあれば言ってくれ」

「お食事を⋯⋯陛下とお食事を一緒にしたいです」

 私は少しでも陛下と一緒にいる機会が欲しくて提案した。

「分かった。明日から一緒に食事をしよう。今日はもう遅い⋯⋯体を休める為にも眠った方が良い」

「はい。明日が来るのが楽しみです。おやすみなさい陛下」

 心なしか陛下が優しい顔をしていて、私は安心した。

 ふと目が覚める。

 遠くに夜行性の梟が鳴いている声がしたのでまだ、朝にはなっていないだろう。

 カーテンを開けるとまだ夜明け前だった。

 眠り続ける生活を過ごした反動か、体が冴えている気がする。

(もしかして、全快した?)

 私は立ち上がり、そっとクローゼットを開けて淡いピンクの軽めのワンピースを着た。

 (よし、お散歩に行こう!)

 私がしょっちゅうお散歩に行きたくなるのも、前世が犬だからかもしれない。

 薄暗い中そっと部屋を抜け出して、夜間勤務の騎士たちに気づかれないように皇城の外の庭園まで来た。

 うっすらと明るくなってきて、春の色とりどりの花が見えてくる。

(本当に良い匂い、風も気持ち良いわ)

「カイザー皇子殿下!」

 私は是非もっと話したかった人を見つけて駆け寄った。

 あちらも私を見つけて驚いているようだった。

「このような夜明け前にどうしたのですか?」

「皇妃殿下、それはこちらのセリフです⋯⋯」

 私は5歳のルイを知っているが、もっと子供らしいヤンチャな子だった。

 カイザー皇子はとても落ち着いていて、大人っぽい。

「実は眠れなくて⋯⋯ご存知の通り、僕の母親はタルシア・バラルデール前皇后に長期に渡り毒を盛った罪人です。罪人の子である僕がここにいて良いのか悩んでいたのです」

「長期に渡り毒を盛っていたというのは、女を不妊にする為の毒ですか?」

「はい⋯⋯」

 命とは非常に大切なものなのに、女たちは常に毒を盛っている。

 醜い弱肉強食のような世界だが、皆、自分の子の地位と立場を守るのに戦っている。

「そのようなものは、どこの王族の女も盛っています。罪人だなんて思わないでください。あなたにとっては優しいお母様だったのではないですか?」

「そうです⋯⋯優しい母上でした」

 唇を震わせながら、必死に泣くのを耐えている殿下を抱きしめたくなったた。

 でも、嫌がられるかもしれないと思っていたところに、地面に白い蛇がいるのを見つけた。

 私は蛇を手の腕に絡ませ、殿下に見せる。

「ほら、お洒落な白い蛇のブレスレットですよ」

「な、何を言ってるのですか? その蛇には毒がありそうですよ」

 私は彼に笑ってもらいたかったのに、引かれてしまった。

「毒蛇なんですか? とても綺麗な色をしている生物は毒があるものが多いのですね」

「多分、毒があるので、すぐにでも蛇を遠くへやってください」

「大丈夫ですよ。どんな生き物も自分や自分の家族を守る為にしか攻撃はしてきません」

 カイザー皇子のお母様も、自分の子の立場を守る為に必死だっただけだ。

 私は殿下があまりに怖がっているので、そっと蛇を地面に離した。

 すると、蛇は花の間をすり抜けて、土の方に潜っていった。

(まだ、寝足りなかったのかしら⋯⋯)

「どうぞ、これで手を拭いてください」

 カイザー皇子が差し出してくれたハンカチを受け取ろうとした時、強い風が吹いた。

 ハンカチは空に舞い飛ばされてしまった。

 そのハンカチには明らかに丁寧な皇家の紋章と皇子のイニシャルが刺繍してあった。

(絶対、大切なハンカチだわ。お母様からのプレゼントかも⋯⋯)

「皇子殿下、申し訳ございません。ハンカチを拾って参ります」

 私はそういうと、ほのかに香るカイザー皇子の香りを頼りにハンカチが風に吹かれた方に走った。

 「あった⋯⋯」

 ハンカチは池に浮いている。

 まだ、薄暗いけれど、ハンカチが白かったお陰で私は見つけることができた。

 私は靴を脱いで、池に入った。

 池が深くなったら、犬かきでもすれば良いだろう。

(あれ? 犬かきは犬時代にもしたことなかった⋯⋯)

 ようやっと、ハンカチに手が届いた。

 運が良いことに池は膝くらいまでの深さで浅かった。

 実は水が冷たかったようで、足元から体が冷えて寒さを感じてくる。

 後ろから水飛沫の音がして、爽やかな陛下の香りがした気がした。

 急に強く抱きしめられて、振り向くと陛下がいた。

 (あ、温かいわ⋯⋯)

「陛下?」

「何をやってるんだ⋯⋯君はバラルデール帝国の皇妃なんだぞ」

「申し訳ございません」

 私は咄嗟に謝った。

 王女として育てられた記憶しかないなら、このようなおかしな行動はとらなかった。

 しかし、犬としての記憶が蘇ってから人の為に何かしたいという気持ちが強い。

 その上、明らかに発想が野生動物のようになっている。

(犬のモモ時代も飼い犬だったのになぜ⋯⋯)

 気がつけば私は陛下にお姫様抱っこされて、岸まで連れてかれていた。

 ゆっくり地面に下ろされて、私は濡れた足のまま靴を履く。

「ありがとうございました、陛下。ご心配おかけしました」

 蚊のなくような声でお礼を言うが、陛下が呆れてそうで顔が見られない。

 ワンピースの裾が水を吸ってしまって、少し重い。

 カイザー皇子も心配そうな顔で私を見ている。

(確かに心配するよね⋯⋯こんな変な人が皇妃で平気かなって思うよね⋯⋯)

「カイザー皇子殿下、ハンカチありました」

 ハンカチを絞り、カイザ皇子に手渡す。

「ふふっ、姉君、このハンカチはもう使えませんよ。僕の5歳の誕生日プレゼントとして新しいハンカチをプレゼントしてください」

 私はカイザー皇子が私を「姉君」と呼んでくれたのが嬉しかった。

 そして、やっと見たかった子供らしい彼の笑顔が見られた。

(おかしな行動をした私を皇妃と呼ぶのが憚られたからかもしれないけれど⋯⋯)

「はい、是非ハンカチをプレゼントさせて頂きます」

 私は丹精込めてハンカチを作ることにした。

「皇妃、着替えたら朝食だ。今日から一緒に食事をするんじゃないのか?」

「はい、そうでした。カイザー皇子殿下もよかったらご一緒しませんか?」

「お誘いありがたいのですが、急に眠くなったので部屋に戻って寝ようと思います」

 カイザー皇子に誘いは断られてしまったが、陛下と2人で食事が取れると思うと胸がいっぱいになった。

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