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第648話

Author: おミカン
散乱した周囲と、負傷した悟史を前にして、絵里は裕也へ感謝の眼差しを向けた。

「どうしてここに?」

「クライアントと約束があったんだが、急遽予定が変更になってね」

裕也は少しも責めるような素振りを見せず、その整った顔立ちは相変わらず温和で包容力に満ちていた。

だが、視線を悟史へ移した途端、その瞳は氷のように冷たく、見下すような色を帯びる。

「お爺さんが連れ戻した男がこれほど無能とはな。自分が怪我を負うだけでなく、あわや上司まで危険な目に遭わせるとは。お前の実力はその程度か?」

悟史とて、俊介が傲慢な男であることは事前に調べていた。だが、海外から戻ったばかりで、一刻も早く実績を上げたいと焦っていたのだ。

だからこそ、警戒が甘くなっていた。

もし先ほど裕也が現れなかったとしても、俊介が絵里に無理やり酒を飲ませるような真似は、断じて許さなかったはずだ。

「今日の件は確かに僕の不手際です。ですが、藤原社長は僕の上司ではありません。そのような口出しをされる筋合いはないはずですが」

「今回のことは紫垣さんのせいじゃないわ。でも、あの俊介という男は確かに信用できない。これ以上の取引
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    散乱した周囲と、負傷した悟史を前にして、絵里は裕也へ感謝の眼差しを向けた。「どうしてここに?」「クライアントと約束があったんだが、急遽予定が変更になってね」裕也は少しも責めるような素振りを見せず、その整った顔立ちは相変わらず温和で包容力に満ちていた。だが、視線を悟史へ移した途端、その瞳は氷のように冷たく、見下すような色を帯びる。「お爺さんが連れ戻した男がこれほど無能とはな。自分が怪我を負うだけでなく、あわや上司まで危険な目に遭わせるとは。お前の実力はその程度か?」悟史とて、俊介が傲慢な男であることは事前に調べていた。だが、海外から戻ったばかりで、一刻も早く実績を上げたいと焦っていたのだ。だからこそ、警戒が甘くなっていた。もし先ほど裕也が現れなかったとしても、俊介が絵里に無理やり酒を飲ませるような真似は、断じて許さなかったはずだ。「今日の件は確かに僕の不手際です。ですが、藤原社長は僕の上司ではありません。そのような口出しをされる筋合いはないはずですが」「今回のことは紫垣さんのせいじゃないわ。でも、あの俊介という男は確かに信用できない。これ以上の取引は無理ね」絵里は悟史の顔にまだ傷が残っているのを見て、彼を庇うようにそう言った後、急かす。「早く病院で診てもらって。ばい菌が入ったら大変だから」悟史は、彼女が普段と変わらず冷静で、少しも怯えた様子を見せないことに、密かな称賛の眼差しを向けた。軽く頷き、裕也を無視して自分の助手を連れてその場を後にした。レストランを出て彼に続くアシスタントの顔には、重苦しい不安が浮かんでいた。「せっかくこのプロジェクトは万全の準備を整え、悟史様が手腕を振るう絶好の機会でしたのに。あの俊介のせいで、すべて台無しです」「奴と手を組まずとも、代わりはいくらでもいる。俺の計画を邪魔した俊介を、このまま生かしておくつもりはない。だが、奴も一筋縄ではいかない男だ。人を動かす時は、細心の注意を払え」「承知いたしました」一方、絵里は裕也と共に歩き出す。車に乗り込み、彼の気配を感じてようやく張り詰めていた心が安らぎ、先ほどの強気な態度はすっかり影を潜めていた。「今後、クライアントとの面会は悟史に任せればいい。お前自身が赴く必要はないよ」裕也は手を伸ばし、彼女の額にかかる髪をそっと

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