LOGINそう言いながら、彼は半月形の銀色のペンダントを外し、手に取る。「忘れたのか?昔、お前はずっとこのペンダントを身につけていて、その後、それをなくしたんだろ」芳昭は不機嫌そうに顔をしかめ、再び席につくものの、その表情は依然として冷ややかだ。「来たくないって言ったのに、お前が無理やり呼んだんだろ。こんなことになると分かってたら、最初から人助けなんて面倒なことしなかったよ」芳昭の透き通るような声は、絵里の記憶にある声と非常によく似ている。だが、彼女はまだ疑念を抱いていた。その時、和也が不意にボイスレコーダーを取り出す。「お前がずっとこれを探していたのは知っている。まだ信じられないなら、聞いてみるといい」そう言って、再生ボタンを押す。和也と雪枝の声が立て続けに響き渡る。「もし絵里に、あの時私が彼女を水に落とすよう仕組んで、あなたにヒーロー気取りで助けさせようとしたことがバレたら、あなたたちに二度とチャンスはないわよ。何があっても、芳昭が本当の命の恩人だってことを彼女に知られてはダメ。そうじゃないと、彼女はあなたをさらに憎むことになるわ!」「……」「母さん、あなた恐ろしすぎるよ!」録音の内容はここで途切れ、ざあざあとノイズが少し続いた後、完全に沈黙する。絵里は少なからず衝撃を受ける。確かに雪枝と和也の声だ。偽造されたものとは思えない。つまり、芳昭が本当に自分の命の恩人だというのか?「お前が信じないのも無理はない。以前、俺は彼が死んだと言ったからね。でも、あれはお前に諦めてほしくて言っただけで、まさかお前がずっと彼を探し続けるとは思わなかったんだ」和也は罪悪感に苛まれているような口調で言う。「ごめん、絵里。あんなことを言ったのは、お前が俺から離れていくのがあまりにも怖かったからなんだ」「ボイスレコーダーを渡して」絵里は彼の言葉をまったく意に介さず、不意に手を差し出し、淡々とした視線で和也を見据える。和也はボイスレコーダーをきつく握りしめ、わずかに顔色を変える。「えぇ?」「ダメなの?」絵里の眼差しは鋭く、瞬き一つせずに彼の顔色を窺う。和也はゆっくりとそれを差し出し、彼女の手のひらに置こうとしたその瞬間、ふっと手を引っ込めて笑みを浮かべる。「悪いけど、これは渡せない。ここに
絵里は着信画面を見ても驚く様子はなく、二秒ほどためらってから通話ボタンを押す。「どうしたの?」「誰に会いに行くんだ?ボディガードは連れているか?」裕也が気遣うような口調で尋ねる。嘘をつくのが苦手な絵里は、前半の質問を意図的にスルーする。「何人も連れてるわ。みんなあなたが厳選してくれた人たちだから、安心して。私なら大丈夫よ」「夜も森田と食事するのか?」彼がそれ以上追及してこなかったことで、絵里は密かに胸を撫で下ろし、少しだけ緊張を解く。「ええ。ついでに今後の提携についても話し合おうと思って。私の意向としては、前にあなたが提案してくれたプランと同じで、水原と藤原が共同で彼と提携するのがいいと思うんだけど、どうかしら?」この件に関して、絵里はこれまで彼に正面から意見を求めたことがなかった。「その必要はない。特許はお前のものだ。今回は水原の名を広める絶好のチャンスだから、お前たちが組むのが一番ふさわしい」彼が一度決めたら曲げない性格であることを絵里はよく知っている。そこまで言うならと、それ以上説得するのはやめた。裕也の穏やかな声が再び耳に届く。「自分の身はしっかり守るんだぞ。ボディガードをあまり遠ざけないように」その根気強い念押しは、呆れるほどに優しい。絵里はとっくに彼のこういう態度に慣れきっていて、普段の厳しい顔を忘れてしまいそうになるほどだった。「あなたもうおしまいね。なんだか口うるさくなって、まるでお坊さんみたい」「ああ。どうせ絵里は俺を見捨てたりしないだろう?」裕也は怒るどころか、さらに彼女をからかってくる。「よし、行っておいで。家で待ってるから、何かあったら電話してきなさい」裕也は特に疑っている様子もなく、相変わらずの優しい声で言い含める。「わかったわ」絵里は素直に頷く。それから間もなくしてレストランに到着すると、丈裕と二人のボディガードを連れて中へ入り、残りの者には外で待機するよう命じる。店に足を踏み入れると、一番中央の席に座る和也の姿が目に入る。彼の隣には、もう一人、整った顔立ちの男が座っている。年齢は和也と同じくらいに見え、明るくも落ち着いた雰囲気を纏っている。その男に目を留めた瞬間、絵里の心臓がドクンと跳ねる。もしかして、私を助けてくれたのは彼?
賢治は裕也に電話をかける前に、すでに洋二にも連絡を入れていた。だが、電話口の洋二はどこ吹く風で、この件をまったく意に介していない様子だった。それどころか、言葉の端々には、雪枝を逃がさなかった裕也を責めるようなニュアンスすら滲んでいた。さらに洋二は、和也を本社の財務部長に据えるよう、賢治に承諾を求めてきたという。幸い、賢治はとうの昔にグループの経営から退いていたため、その要求を突っぱねることができた。とはいえ、洋二と裕也の父子関係が、すでに修復不可能なほど悪化していることは誰の目にも明らかだった……一方、絵里がちょうど仕事を片付け終えた頃、H自動車から連絡が入る。今夜、恒一がG市に到着し、その後、残りの契約手続きを完了させるという。絵里は丈裕をオフィスに呼び入れ、今夜、自ら空港へ出迎えるための手配をするよう命じる。今回の提携をいかに重視しているかを示すためだ。丈裕は手際よく手配を済ませたものの、なぜか立ち去ろうとせず、言いにくそうに絵里を見つめている。「どうかしたの?」絵里はその様子に気づき、彼に視線を向ける。丈裕の口から飛び出したのは、衝撃的な知らせだった。「うちの者からの報告なのですが……南が失踪しました」絵里は息を呑む。「どういうこと?」丈裕はありのままを伝える。「ある日、南はレストランで誰かと会っていたのですが、それきり店から出てこなかったそうです。うちの者が防犯カメラを確認したところ、彼女が食事をしていた個室には、ゴミを片付ける従業員が出入りしただけでした。しかし、彼女も同席していた人物も、忽然と姿を消していたのです」絵里の胸に、たちまち不吉な予感が渦巻く。「すぐに捜して。見つからなければ、裕子が家にいるか確認してちょうだい。もし家にいるなら、直ちに警察へ通報を」丈裕は険しい表情で頷く。「すでに確認させております。裕子は、間違いなく一人で家にいて、どこへも出かけていません。今すぐ、警察に通報するよう手配します」「急いで。一刻を争うわ」「承知いたしました」丈裕が退出していくのを見送りながら、絵里の顔つきも険しさを増していく。南の失踪が単なる偶然であるはずがない。和也が脅迫されるのを嫌い、誰かを雇って南に危害を加えたのではないか。絵里はそう危惧していた。そんな
裕也の瞳に、一瞬だけ別の感情がよぎる。「ほら、余計なことは考えなくていい。早く行きなさい」裕也は絵里の鼻を軽くつまみ、先ほどの出来事など気にも留めていない様子で、甘やかすように微笑んだ。絵里は素直に頷き、きびすを返してビルのエントランスへと歩き出す。彼女の姿が完全に見えなくなるまで見送ってから、裕也はようやく車に乗り込んだ。健が尋ねる。「社長、会社に戻られますか?」「ああ」裕也はシートの背もたれに深く寄りかかった。その表情は硬く引き締まり、先ほど絵里に向けていたような優しさは微塵も残っていない。健は車を車道へと出しながら、報告を続ける。「すでに計画通りに指示を出してあります。そろそろ動き出す頃かと」裕也は再び「ああ」とだけ応じた。声のトーンは平坦だったが、その全身からは凍りつくような威圧感が放たれていた。しばらくの沈黙の後、賢治から電話がかかってきた。朝のニュースと株価の件についての問い合わせだ。裕也は落ち着かせるように言う。「母のことは、もう決着がついてる。あまり気にするな。体を大事にしてくれ。株価の下落は想定内だ。俺がコントロールできる範囲に収まってる」淡々とした、感情の起伏すら感じさせない孫の声を聞き、賢治は深くため息をついた。「お前の手腕は信じておる。最近はグループもゴタゴタしておるし、苦労をかけるな。雪枝はあんな真似をしでかした挙げ句、脱獄まで企てるとは……あまりにも腹黒い。お前が身内を庇わず大義を貫いてくれたこと、わしは誇りに思うぞ。やりたいことがあるなら、思い切りやりなさい。全面的に支持する。洋二の奴については……長年、お前に父親らしいことなど何一つしてこなかった。わしももう年だ、あいつの面倒までは見切れん。お前と絵里が幸せにやってくれれば、それでいいんじゃ」藤原家において、裕也の代にも優秀な人材がいないわけではない。ただここ数年、裕也の圧倒的な実力と容赦のない冷徹な手腕により、グループ内で彼に逆らう者は皆無となっていた。そのため、他の者たちが密かに野心を抱いていたとしても、本気でグループを乗っ取ろうと企む度胸など誰にもないのだ。賢治は昔から裕也の能力に全幅の信頼を置いており、彼ならグループを立派に統率できると確信していた。逆に裕也の方が心配していた。賢治が洋二の怪
「そんなに裕也のことが気に入らないなら、一切口出ししないで。私が彼と結婚するのは私たちの勝手よ。半身不随の役立たずには関係ないわ」絵里は普段、人を罵倒するようなことは好まない。だが今は、到底我慢できなかった。裕也がこれほど侮辱されるのを、絶対に許せない。自分の前に立つ絵里の背中を見つめ、裕也の胸が大きく高鳴る。熱いものがこみ上げ、全身から漂っていた冷たい気配が、瞬く間に消えていく。先ほどまで燃え上がっていた怒りも、それに伴って次第に収まっていく。漆黒の瞳には、優しさと安堵が滲んでいる。「黙れ!これは我々藤原家の問題だ。部外者のお前には関係ない!」洋二は怒鳴りつけ、絵里を冷たく睨みつける。その眼差しには隠しきれない嫌悪が露わになっている。「そもそもお前さえいなければ、藤原家がこんな惨状に陥ることはなかった。お前は紛れもない疫病神だ」その言葉はあまりにも重く、絵里の最も痛いところを突き刺す。両親の死は、彼女のような疫病神のせいだと常に後ろ指を指されてきた。雪枝もいつもそう口にしていた。普段は気にしていないように振る舞っていても、夜の静寂に包まれると、本当に自分のせいなのだろうかと思い悩むことがあった。「父さん!」裕也は慌てて絵里の耳を塞ぐ。彼女の耳に添えられた両手は、ひどく優しく、そして震えている。心配そうな目で絵里を見つめる。先ほどの怒りは消え失せ、焦燥を滲ませながら優しく宥める。「誰が何を言おうと気にするな。聞かなくていい。お前は素晴らしい。本当に最高の女性だ」絵里は顔を上げ、数秒間呆然と彼を見つめる。その瞳には、彼が必死に自分を守ろうとする姿がしっかりと映っている。心がじんわりと温かくなり、先ほどまで渦巻いていた自己嫌悪が、瞬く間に跡形もなく消え去る。澄み切った明るい瞳で裕也を見つめ返し、力強く頷く。「うん、聞かない」「いい子だ」裕也は満足げに唇の端を上げ、彼女の頬を軽く叩いてから手を下ろす。そして身を翻すと、空気を切り裂くような冷たい視線を洋二へと突き刺す。「絵里は俺の妻だ。彼女を侮辱する奴は、誰であろうと許さない。死ぬ覚悟で口を開け」洋二はその陰惨な眼差しに息を呑む。元々彼を恐れていたこともあり、自分の今後の目的を思い出し、無理やり怒りを呑み込む。和也は二人の睦まじ
裕也は絵里を見つめ、口角をわずかに上げる。「俺を信じるか?」絵里は澄み切った明るい瞳で、力強く頷く。「信じるわ」そこに一抹の躊躇いもない。裕也の口元の笑みが深くなり、瞳に優しさが満ちる。「よし。なら、絵里を失望させるわけにはいかないな」絵里は彼を信じる道を選ぶ。迷うことなく卓上のペンを手に取り、署名欄にさらりとサインを書き込む。一つの賭けと言えるかもしれない。だが、この勝負には絶対の自信があった。絵里はサインを終えてペンを置く。「できたわ」中身には目もくれず、ファイルを閉じて裕也の方へ押しやる。その一連の淀みない動作に、裕也は胸を打たれ、瞳に驚きと喜びの色を浮かべる。「ここまで信じてもらえるとはな。期待に応えられるよう、一層励まないといけない」絵里はふっと微笑む。「当然よ」昼食を済ませ、裕也が彼女を会社まで送り届けた時のこと。ビルのエントランスに人影を見つけ、二人は同時に足を止める。洋二と和也だった。車椅子に座る洋二の後ろに、和也が立っている。どうやらここで二人を待ち構えていたようだ。洋二は鋭い眼光で二人を睨みつけ、怒声を張り上げる。「この恩知らず共め、今頃いい気になっているだろう。裕也、母親が再び捕まって、一体お前に何の得があるというんだ!」裕也の顔色が沈む。「実の息子である俺にそこまで辛く当たって、父さんには何の得があるんだ?」洋二は言葉に詰まり、やがて冷たく鼻を鳴らす。「藤原家を牛耳るためなら親すら犠牲にするような奴は、もはや藤原の人間を名乗る資格などない!何度も裏から手を回して俺の会社を攻撃したのは、俺から藤原グループの実権を完全に奪い取るためだろう?お前は本当に救いようのない恩知らずだ」その言葉を聞いて、裕也は冷笑を漏らす。「その呼び名、結構気に入ってるよ」その笑みが彼の顔立ちを一層冷酷に引き立てる。全身から放たれる身を切るような威圧感に、和也は背筋が凍る思いがする。「兄さん、どうして父さんや母さんにそこまで酷い真似ができるんだ?いくら絵里を庇いたいからって、こんなのあんまりだ。二人がどれだけ傷ついているか……」和也はもっともらしい顔をして、その場を取り繕おうとする。裕也の鋭い視線が和也を射抜く。「黙れ。お前に口出しする資







