LOGIN「いいだろう。よくもやってくれたな!」洋二は裕也を指差したまま、怒りのあまり言葉を詰まらせる。株主たちは次々とスマホを取り出して最新のニュースを確認し、その内容に誰もが興奮を隠せない。裕也に対する称賛と畏敬の念が、彼らの顔に浮かんでいた。これほどの危機をいとも簡単に乗り越えてみせる手腕。そんな彼に、どうして逆らうことなどできようか。和也もニュースを見終えると、ふらふらとよろめき、後ずさる。終わった。すべて、終わったんだ。「俺は……どうしてあの時、お前を生かしておいたのかと後悔している!」洋二は目を血走らせ、怒りで理性を失っている。「馬鹿者!自分が何を言っているのか分かっているのか!」賢治は激怒し、洋二の鼻先を指差して怒鳴りつける。――どうしてこんな息子が生まれてしまったのか。まったくもって恥さらしだ。だが、感情が昂ったせいで激しく咳き込み、顔を真っ赤にして息も絶え絶えになる。絵里は慌てて彼の背中をさすり、その気持ちを落ち着かせようとしたが、心の中では誰よりも裕也のことを案じていた。洋二がどうして裕也に対してこれほどまでに冷酷になれるのか、彼女にはどうしても理解できなかった。裕也の表情は険しく、冷たく引き締まっていた。瞳の奥に冷気を宿し、鼻で笑う。「父さんが俺を憎めば憎むほど、俺は父さんが哀れに思えてくるよ」そう言い捨てると、彼は周囲の者たちに視線を向ける。「本日の会議はここまでだ。全員席を外してもらおう。――ただし、父さん。あなただけは残れ」裕也の低く響く声には、有無を言わせぬ威圧感があった。その場にいた者たちは、次々と立ち上がり、部屋を後にする。絵里は賢治を支えながら立ち上がり、心配そうに裕也を見つめる。「裕也……」何か言おうとしたが、言葉にならなかった。裕也は彼女に向けて優しく微笑む。「心配ない。何もしないさ。爺さんと外で待っててくれ」絵里はこくりと頷く。賢治は怒りのあまり、もはや言葉を発する気にもなれず、失望の眼差しで洋二を一瞥すると、無言のまま背を向けて出て行く。絵里が彼に付き添う。和也は本来なら残りたかったが、絵里と賢治が出て行ったのを見て、仕方なく後に続く。この物々しい空気に、洋二は少しばかり怯んだ。だが、自分は裕也の父親なのだ
その声に、その場にいた全員が一斉に視線を向ける。驚愕と同時に、隠しきれない歓喜の色が顔に浮かんだ。裕也だ!生きていたのか!洋二は驚愕のあまり、唇をわななかせる。「お前、生きていたのか……?」裕也は絵里のそばに歩み寄ると、優しい眼差しを向ける。「苦労をかけたな。あとは俺に任せてくれ」彼の姿を見て、絵里はすべてを悟る。どうやら、すべての問題を片付けてからここへ来たらしい。「ええ、お願いね」絵里はふわりと微笑み、賢治を支えながら傍らの席へと座らせる。椅子に腰を下ろした賢治は、裕也に向かって力強く告げる。「今日はお前の思う存分、やりたいようにやりなさい。お前は藤原家の正当な後継者であり、藤原グループはすべてお前のものなのだから」「ああ、任せて」裕也は先ほどの穏やかな表情を一変させる。鋭い視線が和也を射抜き、そのまま洋二へと突き刺さる。和也は全身を激しく震わせ、まるで自分の世界が崩壊したかのような絶望に包まれる。洋二はいまだに目の前の現実を受け入れられず、まるで幽霊でも見るかのような目で後ずさる。「あり得ない……お前は、死んだはずだ」「どうやら、父さんは俺が死ぬのを心待ちにしていたようだな」裕也はゆっくりと歩み寄り、見下ろすように洋二を睨みつける。「残念だったな。俺は生きている。さぞがっかりしただろう?」痛いところを突かれ、洋二は言葉に詰まる。頭をフル回転させながら、俊介の計画がどうなっているのかと思いを巡らせる。だが、すぐに気を取り直し、威圧的な態度で命じる。「生きていたなら好都合だ。さっさと絵里の名義になっている株を戻せ。現在、グループは危機に瀕し、株価も暴落している。これは由々しき事態だ。お前がすぐに何とかしろ」俊介からの連絡はまだない。もしかすると、計画はまだ完了していないのかもしれない。ここで裕也に勘付かれるわけにはいかない。今はまだ、ボロを出すわけにはいかなかった。あの計画さえ成功すれば、もう何も恐れることはないのだ。「何とかしろ、だって?」裕也は口角を吊り上げ、冷ややかに笑う。「俺が生きている。それだけで、株価を安定させるには十分だろ」その自信に満ちた態度に、洋二は鼻を鳴らす。「もし今日中に株価の件を解決できなければ
賢治の瞳から光が失われ、その奥底で失望と悲痛の色が複雑に交錯している。「私に任せても、会社は藤原のもののままだわ」絵里は静かに口を開く。「でも、あなたがやってきた数々の所業……とうの昔に、自分を藤原の人間だとは思っていないんでしょう?」「黙れ!お前が口出しする立場か!」洋二は顔を醜く歪め、今にも絵里を絞め殺さんばかりの憎悪を剥き出しにする。今日という日を迎える羽目になったのは、すべてこの女のせいだ。「大人しく株を戻すんだな。さもなくば、容赦はしないぞ!」しかし、洋二の脅しなど絵里には痛くも痒くもない。絵里は涼しげに口角を上げ、見下すように鼻で笑う。「その体で、どうやって容赦しないつもり?まさか車椅子を投げつけるとでも言うの?それとも、車椅子ごと突進してきて私を殴る?」「貴様っ!」洋二はギリッと奥歯を噛み締め、言葉に詰まる。確かにその通りだ。藤原を失えば、自分の被る損害は計り知れない。これまで藤原を手に入れるため、あの老いぼれどもにどれほどの裏金を握らせてきたことか。それに、小針にも莫大な資金を渡している。そうだ!小針に命じて藤原の浮動株を買い占めさせている。まだ負けたわけではない!小針が株を手に入れさえすれば、絵里と交渉する余地が生まれる。それに、いくら彼女が株を握っていようと、今の藤原の惨状ではどうにもならないはずだ。我に返った和也が絵里の前に歩み寄り、痛ましげな視線を賢治に向けた後、絵里を見て苦笑いを浮かべる。「まさか爺さんまでお前の味方につくなんて。絵里、お前は本当にすごいよ。だけど、どうしてこんな真似ができるんだ。俺たちの五年間は、結局ただの打算だったのか?」まさか藤原のすべてを彼女に奪われる日が来るとは。打算?絵里は滑稽に思い、そのまま声を上げて笑う。その笑みには、氷のように冷たい嘲笑が浮かんでいる。「どの口がそんなことを言うの?あなたたち親子は最初から企んでいたじゃない。ああ、違うわね。あなたたち家族三人が、とうの昔から私を陥れようとしていたんでしょう?私の父は、あなたの母に殺された。それなのに洋二は雪枝を庇い、何度も私を脅迫し、水原を潰すとまで言い放ったわ。教えてちょうだい。一体誰が誰を利用していたの?そして、この世に生きる価値す
その言葉が響き渡ると、その場にいた全員がさらに目を見開いた。「親父、自分が何をしてるのか分かってるのか!」洋二は顔を真っ赤にして、ヒステリックに怒鳴り散らす。和也は胸を鋭く突き刺されたような痛みに襲われた。悲痛な声で訴える。「爺さん!俺が孫だろ、本当の孫じゃないか!株を赤の他人に渡すっていうのか?俺がグループの社長になるのを阻んでまで?どうしてだよ!」二人が何を喚こうと、賢治の態度は揺るがなかった。その眼差しは鋭く、冷酷そのものだった。やがて、居並ぶ株主や役員たちを見渡し、厳かに宣言する。「今日この日より、絵里が藤原グループの筆頭株主となる。グループの全権は、彼女に一任する」絵里は一同に向き直り、堂々とした態度で一礼する。「皆様、これよりよろしくお願いいたします」和也の頭は真っ白になり、視界がぐらりと揺れた。周囲の者たちも驚愕のあまり、次々と起こる予想外の展開に言葉を失っている。誰もが呆然と立ち尽くしていた。一体どういうことだ?会社を和也に任せるのも心許ない。何しろ、彼にはグループ全体を背負って立つだけの手腕がない。だが、賢治が持ち株をすべて絵里に譲渡するなど、それ以上に信じ難い話だった。賢治はどうかしてしまったのか?それとも、洋二と和也が何かやらかして、賢治の逆鱗に触れたとでもいうのか?洋二はすぐさま低い声で反発する。「俺は認めない!そんなこと許されるわけがない。それに、親父が自分の持ち株15パーセントをすべて絵里に譲ったところで、彼女が筆頭株主になることはないんだ」洋二は目の前にあった株式譲渡契約書を手に取り、バサリと開いて賢治の前に突きつける。「俺の手元には55パーセントの株がある。絵里が裕也とお前の株を合わせたところで、現在のグループ筆頭株主はこの俺だ!」彼は勝ち誇ったように胸を張る。この日のために周到な計画を練ってきたのだ。こんな事態を予測していないはずがない。ただ一つの誤算は、裕也という邪魔者が死んだ後になって、まさかこの老いぼれがしゃしゃり出てくるとは思わなかったことだ。あの間男の種を、賢治がこれほどまでに溺愛していたとは。こんなことなら、ショックを受けるだろうなどと気遣わず、さっさと真相を教えてやるべきだった。危うく取り返しのつかな
洋二が賢治と顔を合わせるのは、随分と久しぶりのことだった。今日のような事態を招いてしまい、合わせる顔がなかったというのもあるが、何より賢治が昔から裕也ばかりを贔屓していたからだ。「グループは本来、俺のものだ。裕也が死んで危機に瀕している今、俺が陣頭指揮を執って何が悪い?」悪びれもせず言い放つ洋二の態度に、賢治は激しい怒りで胸を上下させる。「よくもぬけぬけと!お前は裕也が死ぬのを待ち望んでおったのだろう。今日この日のために、すべてを企んでいたに違いない!」賢治は彼を指差し、怒りに身を震わせる。洋二は微塵も怯むことなく、鼻で笑う。「長年、親父が裕也ばかりを可愛がらなければ、今頃グループは和也が仕切っていたはずだ。それにこの女だ。藤原家をめちゃくちゃにした張本人だというのに、親父はまだこいつを嫁として扱っている」洋二は怒りを滲ませながらも、絵里を見る目には嫌悪と、どこか優越感が混じっていた。裕也さえ死ねば、絵里など取るに足らない存在だ。会社の問題を片付けた後で、絵里と水原をじっくり料理してやればいい。「絵里、これは株式譲渡契約書だ。さっさと大人しくサインして、以前裕也を騙して奪い取った株を返してもらおうか」絵里は冷ややかな眼差しを向け、嘲笑うように言う。「株は私の名義になってる。つまり、私のものだ。どうしてあなたに返す必要がある?」和也は、絵里と賢治が揃ってやって来たのを見て、心の奥底に微かな不安を覚えていた。洋二が声を荒らげる。「図に乗るなよ。水原はようやく立て直したばかりだ。まさか、また水原が危機に陥るのを見たいわけじゃないだろうな」その脅し文句に絵里は眉をひそめたが、内心ではただ滑稽に思えただけだった。賢治は怒りで全身を震わせ、顔を真っ赤にして洋二を睨みつける。「この馬鹿者が!わしの目の黒いうちは、会社を和也に譲るなど絶対に許さん。あやつにそんな器量はない!」和也は顔を歪め、両手をきつく握りしめる。「爺さん、どうしてだ?俺だって爺さんの孫なのに、どうしてそこまで冷酷になれるんだ?」絵里と裕也の結婚でさえ、爺さんが自ら取りまとめたものだった。だが、今はこれでいい。裕也は死んだ。絵里を再び自分の手元に引き戻し、兄の未亡人を自分のものにする機会はいくらでもある!「認めよ
会議室の長机を挟み、両側には株主と役員たちがずらりと顔を揃えている。上座には車椅子に乗った洋二が陣取り、その右手の一番手前には和也が座っている。「現在、グループは未曾有の危機に直面している。これ以上、事態を放置するわけにはいかない。何より、裕也がすでに死亡した今、裕也の父として、今後は俺がグループの全権を掌握する」洋二は机を軽く叩いて断言する。その表情こそ厳格で冷徹さを保っていたが、内心では歓喜の雄叫びを上げていた。この日を、どれほど待ちわびたことか!五年前、会社を裕也に任せて以来、自分の手中にある権力は少しずつ削ぎ落とされてきた。このまま手をこまねいていれば、グループ全体が完全に裕也の私物と化していただろう。役員たちは戸惑いの色を隠せない。ネット上では裕也の死亡説が飛び交っていたが、藤原家からの公式な見解はこれまで一切出されていなかったのだ。今、洋二がそう断言したということは、まさか……裕也は本当に死んだのか?株主たちも素直に頷くことはなく、むしろ疑念の声を上げる。「しかし、今のお体では、引き続きグループを統括するのは厳しいのではありませんか」「それに、裕也様は本当に亡くなられたのですか?報道はすべて事実だと?」「……」一同は疑念を抱きながら、洋二の答えを待っている。洋二の顔には息子を失った悲哀など微塵もなく、ただ厳然と言い放つ。「いかにも。報道は事実だ。事ここに至った以上、急務は株価を安定させ、対応策を講じることにある」当主の口から事実と認められ、人々の顔色が一斉に青ざめる。「では、どうすべきなのでしょうか?」一人の株主が尋ねる。和也がネクタイを締め直し、もっともらしい顔つきで口を開く。「今後は、俺がグループ社長の職を引き継ぎ、この危機を乗り越えてみせます。ご安心ください。グループは必ずや、これまで以上に発展させてみせます」「その通りだ。和也も我ら藤原家の次男であり、裕也に決して引けを取らない。今後は俺が会長に就任し、会社の実務は和也に一任する。こいつなら、皆様の期待を裏切ることはないと確信している」洋二の自信に満ちた口調と、浮かぶ傲慢な表情は、まるですべてを掌握したかのようだった。和也はわずかに顎を上げ、周囲の反応をうかがう。彼もまた、この日を長らく待ち







