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六十歳になった私は自分を取り戻した

六十歳になった私は自分を取り戻した

By:  今宵で成り上がりCompleted
Language: Japanese
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六十歳の誕生会が始まる二時間前、私は書斎で夫の柏原和樹とその初恋との二十年も続けてきた不倫を発覚した。 私は息ができなくなるまで心臓が傷んでいたが、震えたいた手を動かして彼らが互いへの思いと語った手紙の束を元に戻し、作った笑顔で和樹と誕生会に出た。 誕生会がケーキを切るところまで進行した時に、和樹は急なことで私を押し退けて、焦りそのものの動作で客人の渦に飛び込んで、老耄した体をなんとかして楢崎理央の前で片方の膝で跪いた。 「今日は、僕たちの四十年の約束の期限だ。僕のところに嫁にきてくれるのなら、僕は直ちに文郁と離婚するのだ」 楢崎は感激で手で口を遮って、涙をこぼしながら頷いた。 その光景を見届けた客たちは、喧々諤々と言葉を交わしていた。 和樹も同じように感激で楢崎の手を取ってすぐ、彼女を抱き締めた。そして、冷たい眼差しで彼の決断を私に伝えた。 「佐伯文郁、離婚しましょう」 久々に旧姓に呼ばれた。 手に取っていたケーキナイフを強く握りしめた後、私はそのナイフを楢崎と和樹のいた方向に向けて投げた。 「ああ、そうしましょう。先に後悔したほうが負け犬だから、くれぐれも粘らないように」

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Chapter 1

第1話

楢崎があまりの驚きで、悲鳴を上げたと思えば、もう気絶していた。

和樹は気の抜けないほど小心翼翼な動作で楢崎を支え、腰をかがめて彼女を持ち上げようとしたが、自分はもう年で腰が持たないことに気付いた。

彼は震えの止まらない手でスマホを持ち出して、救急車を呼ぼうとしたが、何度試しても119の三桁を入力することに失敗した。

そうときたら、彼は慌てて息子を呼んで、車を出して楢崎を病院に運べと命じた。

出発する前のほんの僅かの一瞬も逃さずに、怖い目つきで私を睨み、「悪女め」と私を罵った。

客の数名は彼らと共にあわてて楢崎を運んで外に出た。残った客たちは、あれだこれだと私のことを指差した。

「もう年だというのに、なんで気の強い女だったこと」

「和樹は私の見守りで育ったようなもんだ。そりゃいい人じゃのう。こんな大勢の前で離婚だと言い出せたことは、ここ数年さぞ苦労したのに違いない」

「そうなのよ。文郁さんは若い頃から、怒りやすい女子だったが、まさかいい歳して少しも控えめになってないなんて、情けないのう」

私のことを叱責した三人の女たちのうち、一人は和樹のお祖母の妹で、一人は彼の叔母で、もう一人は彼の上の従兄弟の妻に当たる者だ。

そのお祖母の妹は、私が和樹と結婚した年から、私のことを低く評価していたのだ。

私が田舎出身で、和樹には相応しくない結婚相手だと言った。

その叔母は更なる滑稽だった。力尽くしても、嫁ぎ先の姪っ子を和樹とくっつけようとした。私がその場にいたのにも関わらず、何度もその女を和樹の懐へと押し付けた。

私はカッとなって、あいつらと大喧嘩した、その日以来、私は怒りやすくて、躾のない田舎者となった。

あいつらは人に会うたびに、私の悪口ばっかりを言うのだけではなく、和樹が気の毒な生活を送っているのだと言いふらした。

しかし、和樹と結婚していたこの三十五年間、私は何一つ柏原家の顔に泥を塗るようなことをしていなかった。

それを引き換えに、あいつらは皆、夫に嫌われ、子供にも嫌がられる身で、安泰と言える日々をろくに送ってもいないのに、ここで私の生き方に口を挟むなんて、図太いものだ。

私は一切の感情を目から拭き取り、袖をめくり上げ、険しい目つきであの三人を見つめた。

「今日から、私はもう柏原家の嫁でなくなった。貴様らどっかで引っ込んでろ」

急に怒られたことで、顔が真っ赤になったあいつら三人は、私のことを指で指しながら、「私がよくも自分達を逆らえた」と叫んだ。

私は傲然に上を仰いで、怒りで狂ったあいつらに構わずに、ホテルの外へと歩き出した。

このホテルを予約したのは和樹だった。近郊の山腰に立つこのこのホテルでは、タクシーを拾うようもなければ、電波も届かない。けど、彼はこのホテルにすれば、大いに節約できると言った......

目の前でいきなりこんこんと降りかかってきた雨を見ていると、口を開けて笑おうとしていたはずの私は、何故か涙が頬を沿って垂れてきた。

あの人は二十年私を裏切っただけではなく、こんな形で六十歳誕生日の日に、私を親戚の間での笑い物にした。

私は拳をしっかりと握りしめた。爪が掌に差し込んでも痛みを感じなかったのだ。

そして、私は無感覚に走り出して、大雨の中に飛び込んだ。顔を遮った私は礼儀や禁忌などを全部捨てて大泣きだした。
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