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第172話

Author: こふまる
「雲上牧場大冒険、ステージ1:にんじんを守れ!

親子三人乗り自転車で、3キロ先のキャンプ場を目指せ。

道中にはクレイジーアルパカ部隊が出没。親子チームは一バケツ分のにんじんとキャベツを持って走行中、アルパカに食べられないよう守ること。

ゴール時点で、にんじん1本につき3ポイント、キャベツの葉1枚につき1ポイント。獲得ポイントはお昼ごはんの食材と交換可能」

瑛優はほとんどの文字が読めたので、カードを読み上げた後「おじちゃん、分かった?分からなかったら、もう一回説明してあげるよ?」

——自分の知能を何だと思ってるんだ?

天野は頷きながら、むっつりと「分かったよ」と答えた。

先生たちは三人の姿を眺めながら、思わずため息をつく。

「あの方が瑛優ちゃんのお母さんの兄じゃなかったら、絶対推しちゃうわ!イケメンに美人、体格差もたまらない!片手で瑛優ちゃんを抱き上げちゃうなんて!もう、すっごく似合ってる!」

担任は手のミッションカードで顔を隠しながら、同僚に囁いた。「素敵な方だけど、瑛優ちゃんのお母さんと苗字が違うのよね。もしかして血の繋がらない兄妹かも……」

同僚の目が輝いた。「擬似兄妹!?それは萌えるわ!」

担任は夕月と天野の方を見つめ直し、心から言った。「最優秀ファミリー賞は、もう決まりね!」

先生たちがこっそり話し込んでいる中、黒いマイバッハが牧場に滑り込んできた。

車のドアが開き、まるで雑誌から抜け出てきたような男性が降りてきた。

天野の男らしい魅力的な容姿と逞しい体格に見とれていたスタッフたちは、また違った雰囲気を持つ美しい男性に目を奪われた。

「橘社長じゃない?うちのグループの橘社長よ!」

雲上牧場エリアは橘グループが開発し、隣接するマンション群も橘グループの投資物件だった。

「本当に橘社長だわ!」

「かっこいい!噂どおりね!」

騒がしい声に気付いた夕月と瑛優だったが、「橘社長」という言葉を耳にした途端、振り返る気も失せた。

橘冬真?

見る価値なんてないわ。

キャップを被った悠斗が胸を張って先頭を歩く。上機嫌な様子だ。

楓と冬真は肩を並べて歩いていた。二人とも同じアウトドアジャケットを着て、楓は悠斗と同じデザインのキャップを被っている。

車から降りた楓は、ガムを口の中で転がしながら、時折ピンク色の風船を作っては割っていた
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Comments (2)
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良香
楓、おまえのメンタルの強さは褒めてやるよ。 でもな、子供がメインの行事なんだから、だらしない姿でいるなよ。
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千恵
来たよ、クズ3人 負けちゃえー
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