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第243話

Author: 玉酒
同じ頃――

美穂が和彦に離婚を切り出してから、すでに半月が過ぎていた。

その日、執事の清から【お時間のあるときに櫻山荘園へお戻りください】とのメッセージが届いた。

美穂は早めに向かった。

だが、荘園に着いたときには和彦の姿はどこにもなかった。

まるで彼女に会いたくないかのように、リビングのテーブルの上に残されていたのは、分厚い離婚協議書一冊――

しかも、彼女が最初に作成した案よりも、さらにページ数の多い本格的なものだ。

美穂はその場で書類を撮影し、弁護士に送った。

「若奥様」背後から清の声がした。

美穂はバッグの中からペンを探しながら、顔を上げずに答えた。「何?」

「和彦様が、書斎にお荷物を残しておられます。必ずお伝えするようにと」

「……書斎?」美穂の手が一瞬止まり、視線を上げた。「本当に書斎って言ったの?」

清は真面目にうなずいた。「はい、確かに」

美穂は何も言わなかった。これが「特別扱い」などではないことを彼女はよく知っていた。

――きっと中身がよほど重要だから、彼女でさえ入室を許されたのだ。

離婚協議書をバッグにしまい、美穂は階段を上がった。

書斎のドアを開けると、机の中央に銀色の金属製ロックボックスが置かれていた。

美穂は不思議そうに目を細め、そっと近づいて箱に触れてみた。

冷たい手触り。見た目は普通の箱だが、電子錠がついている。

試しに【0000】や【1111】を入力してみたが、どれも【パスワードエラー】。

しかも、この箱はパスワードを5回間違えると自動消去装置が作動する仕様らしい。

美穂は唇を噛み、しばし考え込んだ。次に入力したのは、和彦の誕生日。

しかし、ピピピ――

またもエラー。

残りのチャンスは、わずか二回。

焦りが胸を締めつけた。

……まさか陸川グループの創立日なのか?ここに置かれているものといえば、陸川グループに関係するものしかあり得ない。

彼女は気持ちを落ち着け、再び数字を押した。

だが甲高い警告音が書斎の隅々まで響き渡った。

――すべて不正解。

残されたのは、最後の一度きりのチャンス。

自動消去寸前の箱を見つめながら、美穂は少し黙り込んだ。

そして、なんとも言えず――諦めたくなった。

箱と意地になり、和彦にパスワードを聞けることをすっかり忘れていた。

美穂は表情を引き締め
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