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第262話

Author: 玉酒
着替えを済ませたあと、清霜は乱れた髪を指で整え、怜司のこわばった背中へと視線を上げた。「……終わったわ」

目覚めたばかりのかすれ声。だが語尾は異様なほど平静だった。

怜司はゆっくりと顔を向け、清霜の体にゆるく掛かっているシャツを目にした瞬間、動きを止めた。

あまりにも細い身体では大きすぎる服を支えきれず、肩からずり落ち、胸元は大きく開き、思わず目を奪うほどの白い肌が露わになった。

二つだけ適当に留められたボタンでは、その淡い曲線を隠しきれない。

彼女はベッドの端に腰掛けていた。長すぎる裾は辛うじて太ももを覆い、袖口は指先まで垂れ下がり、二折りしてもなお、手首の細さが際立つ──握れば折れてしまいそうなほどに。

……これは、まぎれもなく怜司の服だ。

さっきはよく見もせず、無造作に手に取ってしまったのだろう。

怜司にはぴったりのサイズが、彼女の身体にかかるだけで、言いようのない艶めかしさを帯び、空気まで熱を孕んだ気がした。

怜司の耳朶は一気に朱に染まり、喉仏が震えて視線を逸らす。手まで持ち上げ、どうしていいか分からないように狼狽した。「ま、間違えたんだ……替えて――」

「もう間に合わないわ」清霜が遮った。壁の金メッキの掛け時計へ目をやると、長短針は確かに10時10分を示していた。

婚約パーティーは10時開始。主役である怜司は、すでに10分もの遅刻をしている。

会場には賓客が集まっているはずで、この異変は遅かれ早かれ追及され、ここへ辿り着くのも時間の問題だ。

清霜はベッドの縁を支えに立ち上がり、無意識にカーペットの上に倒れたワイングラスを避けた。しかし、その視線はふと暗赤色のワイン染みに釘付けになった。

訝しげにしゃがみ込み、指先でまだ少し湿っている毛足を触れる。ティッシュで軽く拭い、鼻先へ近づけると──

濃い甘香の酒気が一気に鼻腔へ突き刺さった。「昨夜……お酒、飲んだの?」

「バーで、何杯か」怜司は彼女と同じ場所を見つめ、眉間を深く寄せた。「でも部屋に入ったとき、テーブルのグラスは空だった」

あのとき意識はぼんやりしていたが、狙いは部屋のベッドだけであることをはっきり覚えており、他の物には触らなかった。

清霜はワインに染みたティッシュを丸め、冷ややかに言った。「ここは、私の部屋よ」

だが彼女は酒を一切飲まない。まして翌日に大事な予定が
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Comments (3)
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hime kichi
私は美穂と怜司がくっつくと思ってた
goodnovel comment avatar
カナリア
和彦の仕業?? まさか美羽? すぐ媚薬つかうよねぇ… 怖すぎる
goodnovel comment avatar
あまねく
怜司が清霜とくっつくの? 峯と篠がくっついて⋯(願望) 美穂にも素敵な殿方をはやく!!!
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