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第7話

مؤلف: 相沢美咲
その夜、美羽は今井家に泊まった。

こんなにぐっすり眠れたのは、本当に久しぶりだった。

翌朝。

澪は台所で朝食の準備をしていた。美羽のために栄養たっぷりのスープを作り、会社で食べられるようにとお弁当まで用意してくれた。お弁当は温かいまま食べられるよう、保温ジャーに詰められている。

美羽は昨夜、正人たちに退職届を提出したことを話した。これからは隆のもとで1ヶ月だけアシスタントとして働くつもりだ。

みんなは最初、お腹の子のためにも体を大事にしてほしいと、それに反対した。

しかし美羽は譲らなかった。お腹が大きくて動きにくいだけで、体調は悪くないから簡単な仕事なら大丈夫だ、と。それに何もしないでいると余計なことばかり考えてしまうから、環境を変えて忙しくしていたい、と訴えた。

それを聞いて、正人はもう何も言わなかった。

美羽も台所を手伝おうとしたが、澪が許してくれなかった。

美羽は無理強いせず、ソファに座ってスマホをいじっていた。妊娠中でもできる、マタニティピラティスの教室を探しているのだ。

良さそうな教室を一つ見つけ、今度話を聞きに行ってみようと思った。

そのままスマホの画面を眺めていると、ふと、顔色が変わった。

あるインスタの投稿が目に飛び込んできたのだ。

それは、高級プライベートレストランでの食事会の写真だった。

投稿したのは大塚竜之介(おおつか りゅうのすけ)。翔平の友人グループの一人で、美羽がまだ翔平の秘書だった頃に連絡先を交換した相手だ。

写真にはコメントが添えられていた。【みんなでごはん!ちなみに、今日もラブラブな姿をごちそうさま。結婚式はいつかな?】

その中には、翔平と瑠衣のツーショットが数枚あった。

真ん中の写真では、瑠衣が恥ずかしそうに頬を押さえながら翔平の胸に寄り添っている。そして翔平は、瑠衣の肩に大きな手を置き、優しい眼差しで腕の中の彼女を見つめていた。

写真からでも、二人の甘い雰囲気が伝わってくる。

翔平の仲間たちは、彼が入籍済みだと知っている。だが、彼らからすれば美羽は翔平にふさわしくないのだ。

竜之介のこのインスタ投稿は、明らかに自分への当てつけだろう。

美羽は胸が締め付けられるような痛みを感じ、息が苦しくなった。

彼女はスマホの画面を閉じ、席を立ってベランダに出た。

落ち着かないと。気にしてはダメ。もう、考えないようにしないと。

思わず、大きくなったお腹に手を当てる。

心に重たい鉛がずしりと沈んでいくようだった。

このまま離婚したら、翔平はすぐに瑠衣と結婚するだろう。そして二人にも子供が生まれる。翔平はあれだけ瑠衣を愛しているのだから、その子をきっと可愛がるはずだ。じゃあ、自分の子はどうなるの?父親からの愛情をもらうことなんて、できるのだろうか?

「美羽、ご飯できたわよ」

澪の声がして、美羽はハッと我に返った。

深呼吸をして目尻の涙をぬぐうと、洗面所へ向かった。

洗面所から出てきた時には、もういつもの美羽に戻っていた。

朝食の後、涼太が美羽を会社まで送ってくれることになった。

車の中で、涼太は美羽の様子がおかしいことに気づき、「美羽、何かあったのか?」と尋ねた。

美羽は首を横に振った。今は、何も話したくなかった。

涼太は心配そうに言った。「美羽、今は妊娠中なんだから、悩み事を一人で抱え込んじゃだめだ。お前にも、お腹の子にも良くない」

美羽はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。「大したことじゃないの。翔平に他に好きな人がいるって、まだ完全に受け入れられてないだけで……でも大丈夫。ちゃんと気持ちの整理はつけるから、心配しないで」

美羽は平気なふりをしてそう言った。

彼女が辛いのは分かっていたが、涼太はどんな言葉をかければいいのか分からなかった。「時間が解決してくれる。きっと少しずつ良くなるから」とだけ言った。

美羽はこくりと頷いた。

会社に着き、美羽は保温ジャーを持って車を降りると、涼太に別れを告げて、ビルの中へと入っていった。

会社に入ると、また翔平に会ってしまった。

翔平はあまり家に帰ってこない。だから降格されても会社に来ていたのは、毎日彼の顔が見たかったからだ。

だがこの数ヶ月、会社で翔平に会うことはほとんどなかった。たとえ会えたとしても、ひどく冷たくされるだけだった。

まさか出社して二日連続で翔平に会うなんて、思いもしなかった。

車から降りてきた翔平は、スーツを完璧に着こなしていた。肩幅は広く腰は細く、すらりとした長い脚が目を引く。彫りの深い端正な顔立ちはいつ見てもハッとするほどで、威厳と気品に満ちあふれていた。

そんな少し近寄りがたい男にも、優しくて思いやりのある一面があるのだ。

胸に、急に苦いものがこみ上げてきた。美羽はうつむいて道を譲り、丁寧な口調で「社長」と声をかけた。

翔平はいつものように美羽を空気のように扱った。いや、美羽の存在に気づくと、むしろ表情は冷たくなり、大股で彼女の前を通り過ぎていった。

翔平が社長専用のエレベーターに乗り込むと、美羽はようやく息を整え、社員用のエレベーターで上の階へと向かった。

昨日。

美羽は遥とあれほど気まずいことになったのだ。だから今日、遥は美羽に良い顔をするはずもなく、ただ引き継ぎ担当の社員を手配しただけだった。

遥の態度など、美羽は気にも留めなかった。今はただ、早く仕事の引き継ぎを終えてここを去りたい、それだけを考えていた。

午前中の仕事が終わり、天気が良かったので、美羽はビルの裏手にある大きな公園でお弁当を食べることにした。

保温ジャーを手に、散歩がてら外へ向かう。

エレベーターで1階に降りて、エントランスホールまで来た時、ビルに入ってきた二人の男性と鉢合わせした。

一人は竜之介だ。彼の隣に立つ男性は、すらりとして風格があり、おそらく翔平の友人なのだろうが、今まで見たことはなかった。

美羽は挨拶をする気になれず、うつむいたまま二人を避けて出入り口へと向かった。

しかし、竜之介はビルに入るなり美羽に気づいた。

あの太った体は、どうしても目についてしまう。

美羽が避けようとしているのを見て、竜之介は大股で近づき、彼女の行く手を塞いだ。

美羽は足を止め、顔を上げた。すると竜之介が、心底嫌そうな顔でこちらを見ている。「目ん玉ついてねぇのか?挨拶もなしかよ」

以前、美羽がまだ翔平の秘書だった頃、竜之介はとても親切だった。だが今、彼らの目には、美羽が不細工で太った、身の程知らずの性悪女にしか映っていないのだ。

美羽はうつむき、平坦な声で「大塚さん」とだけ言った。

竜之介は鼻で笑い、皮肉たっぷりに言った。「なんだよその態度は。勘違いすんじゃねーぞ。所詮、蛙の子は蛙なんだよ」

美羽は保温ジャーを握る指に力を込めた。屈辱的でどうにかなりそうだった。彼女は体をかわし、竜之介を通り過ぎて行こうとする。

その時、竜之介が突然長い足を伸ばした。

不意をつかれた美羽は、つまずいてそのまま転んでしまった。硬い床に両膝を強く打ち付け、ドン、という鈍い音が響く。美羽は顔面蒼白になり、歯がガチガチと鳴るほどの痛みを感じた。手から滑り落ちた保温ジャーは投げ出され、中身の料理が床に散らばった。

少し離れた場所から見ていた浩平は、思わず息を飲んだ。
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