Share

第3話

Author: 相沢美咲
隆はドアの前に立つ女性に目を向けた。最初はきょとんとして誰だか分からなかったが、彼女が口を開いたことで、それが美羽だと気づいた。「佐野先生」

隆は何事もなかったかのように表情を整え、「やあ、来たんだね」と声をかけた。

美羽はマスクを外し、研究室の中へと入った。

「佐野先生、ご無沙汰しております」

「久しぶり。君だと気づかなかったよ」隆は優しく微笑んだ。

美羽は自嘲気味に口角を上げ、話した。「こんな姿になってしまって、先生に会いに来るのも少し気が引けました」

隆は立ち上がってデスクを回り込み、言った。「妊娠して体型が変わるのは当たり前のことだ。産めばまた戻るさ。

まあ、座って!」

美羽はソファに腰掛けた。

隆はお茶を一杯差し出し、「体を温めるといい」と声をかけた。

「ありがとうございます」美羽は、それをありがたく受け取った。

隆は美羽の膨らんだお腹にちらりと目をやり、「今、何週目だい?」と尋ねた。

「25週です」と美羽は答えた。

「そうか。それじゃあ来年の入学時期に、ちょうど出産予定日が重なるわけだ」と隆は言った。

「先生、お願いがあるのですが……入学を延期させてもらうことはできないでしょうか?」美羽は懇願した。

出産はどうしようもない。でも、このチャンスを逃したくはなかったのだ。

「なぜそこまでして、エルスタンフォード大学に行きたいんだい?」隆は真剣な表情で問いかけた。

「子供が産まれたら、離婚するつもりです」美羽はうつむきながら言った。「こんな不幸な関係はもう終わりにしたいんです。自分の人生を、もう一度やり直したいんです」

たったの数ヶ月。長くも短くもない時間のはずなのに、美羽にとっては一生のように長い時間に感じられた。

隆は思わず眉をひそめた。かつての、太陽のように明るく可愛らしかった美羽が、こんなにも変わってしまった。心と体の両面で、どれだけボロボロになったかは想像に難くない。

「君が吹っ切れて立ち直ろうとしているのなら、嬉しいよ。中山社長とは、確かにお似合いとは言えなかった。これからはきっと、本当に君を愛してくれる人が現れるさ」

美羽はうつむいたまま、こくりと頷いた。

当時、隆は翔平の秘書になることに反対していた。でも、自分が意見を押し通した結果、結局、痛い目を見ることになったのだ。

美羽はふと、「先生の目には、翔平はどんな人間に映りますか?」と尋ねた。

隆は一瞬黙り込み、そしてゆっくりと口を開いた。「目的のためなら手段を選ばず、利益を最優先する男だ。おそらく、好きという気持ちなんて持ち合わせていないだろう」

「そう、ですか」

でも、あの女性に向けられた翔平の優しさは、偽物には見えなかった。本当に愛していなければ、あれほどプライドを捨てられないはずだ。

翔平にふさわしいのは、自分のような人間ではなく、美しく綺麗な女性だけなのだ。

美羽はそれ以上何も聞かなかった。

「君が決めたことなら、入学延期の申請を手伝おう」

「ありがとうございます、先生」

隆は美羽に申請書を渡した。

美羽は、それに必要事項を記入した。

「お腹の子は、産まれたら中山家に?」隆が不意に尋ねた。

美羽は力なく微笑んだ。たとえ自分が子供を連れて行きたいと願っても、それは不可能だ。この子には、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。「中山家なら、きっと大切に育ててくれるはずです」

「ちょうどアシスタントが一人必要なんだ。1ヶ月だけでいいんだが、やってみないか?」隆はそれ以上は聞かずに、話を切り替えた。

美羽はためらうことなく頷いた。

「はい」

妊娠が分かってからというもの、翔平は自分を秘書課の雑用係へと追いやった。社長秘書から、一夜にしていてもいなくてもいい存在へ。これまでの努力は、全て水の泡と消えた。

今の自分には、何か新しい仕事に集中する必要があった。止まってしまった自分の人生を、もう一度動かすために。

それに、ちょうど、今後のエルスタンフォード大学での研究の準備にもなる。

それに、今日は会社を休んでいた。

美羽はそのまま、隆のアシスタントとして働き始めた。もともと隆の教え子だったし、以前、翔平の下でハードな仕事をこなしてきた。数ヶ月のブランクはあったが、仕事の勘はすぐに戻り、テキパキと業務をこなしていった。

その瞬間、美羽は、かつての自分を取り戻したような気がした。

自分が自分でいられる、本当の価値を見つけられた気がしたのだ。

隆が言った通りだ。自分は職場で輝くべき人間で、恋愛が人生の全てではない。

その夜。

翔平は帰ってこなかった。いつものことだ。彼が家に帰るのは、本当にたまのことだった。

でも、美羽はもうそんなこと、気にしていなかった。

翌日。

美羽は退職届を準備した。

翔平は、中山グループ傘下の銀行や投資ファンドなど金融部門を統括している。血なまぐさい権力争いが渦巻く世界で、彼は自らの力で中山グループの中核を継承した。それだけでなく、次々と事業を拡大できたのは、ずば抜けた頭脳と手腕に加え、冷酷非情な心を持ち合わせていたからだ。

美羽が会社に着くと、ちょうど車から降りてきた翔平と出くわした。

スーツに身を包んだ堂々とした立ち姿、端正で威厳のある顔立ち。富と地位が、大人の男の魅力をいっそう際立たせていた。

「社長」

社員たちが次々と頭を下げ、恭しく挨拶する。

美羽ははっと我に返り、慌てて頭を下げ、後ろへ数歩下がった。

翔平は美羽など目に入っていないかのように、会社の中へ入っていった。

美羽は鈴木遥(すずき はるか)に退職届を提出した。

遥は翔平の秘書だが、以前は、美羽の部下だった。

立場というものは変わるもので、今や美羽は、遥の下で働く身となっていた。

美羽が突然降格された時、部署の誰もが驚いた。美羽は大学を卒業してすぐに、社長秘書に抜擢されたのだ。

社長秘書という役職は能力だけでなく、容姿も重要視される。顔もスタイルも平凡な美羽が選ばれたのは、その能力が外見のハンデをものともしなかった証だった。

厳格な社長でさえ、かつては美羽を高く評価していたのだ。

だが、遥だけは事情をよく知っていた。

美羽は、身の程知らずにも体を武器にのし上がろうとした女。いくら能力があっても、ろくな人間ではない、と。

だからこそ、翔平は、美羽のことを心底嫌っているのだ。

遥は退職届に落とし、次に美羽の膨らんだお腹を見て、嘲るように口元を歪めた。「身の程を知るべきよ。もっと鏡を見たらどう?子供ができたからって玉の輿に乗れるなんて思わないことね。中山家がどんな家柄で、あなたがどんな身分か、よく考えなさい」

実は、美羽と翔平が入籍していることを、社内の人間は誰も知らなかった。

Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App

Pinakabagong kabanata

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第100話

    1時。A国のS市行きの便が、定刻通りに離陸した。窓際の席に座った美羽は、眼下で小さくなっていく街並みを見下ろしていた。手の中には、柚葉の写真を納めたネックレスを強く握りしめている。もう、二度と柚葉に会うことはないのだ。柚葉、ごめんね。美羽は心の中で静かに呟く。心臓がえぐられるように痛かった。その頃、空港から邸宅へ戻るベントレーの中でのこと。突然、柚葉が激しく泣き出した。翔平がいくらあやしても、泣き止む気配はない。泣き疲れてようやく眠りにつくまで、その泣き声は続いた。翔平は眠った柚葉を腕に抱き、涙で濡れた頬をそっと拭った。そして優しく背中を叩きながら、娘に向けたその眼差しは、誰よりも温かかった。……5年後。天嶺の本社ビル。広大な社長室。どこを見ても子供用のおもちゃが散らばり、壁はパステルカラーで飾られている。壁には小さな絵画も飾られていた。デスクの横には、ベビーチェアが置かれている。まるでお人形のような女の子が椅子にちょこんと座り、短い足を揺らしている。髪はお団子にまとめられ、小さな宝石のヘアピンが光っている。柔らかな指先でタブレットを操作しながら、静かに一人でパズルを楽しんでいた。高身長の男性が窓際に立ち、白いシャツに黒いパンツを身に纏っている。いかにも裕福そうなその背中越しに、スマホで仕事を片付けていた。眉間に刻まれた皺は厳しい。電話を切りデスクの方を振り返ると、先ほどまでの冷たい顔は一転し、目元が和らいだ。足早に歩み寄り、100面まで解き終えた画面を見て目を細める。女の子の頭を優しくなでながら言った。「柚葉は本当に賢いな」柚葉が顔を上げると、長いまつ毛の下から星空のような大きな瞳が輝く。「パパ、お絵描きしてもいい?」甘えたようなその声は、まるで綿あめのようだった。翔平が柚葉を抱き上げると言った。「今は目を休ませよう。おやつでも食べようか?」柚葉は小さく頷いた。部下が差し入れたお菓子を、柚葉と一緒に食べる。柚葉は自分の分を翔平にも分けてあげようとしていた。その時、ノックの音がした。「入れ」すると、潤が入ってきた。社長室に充満するミルクの香りと、色とりどりの部屋に、潤もようやく慣れた。翔平が柚葉を職場に連れてくるようになってから、かつて凍り

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第99話

    玄関に入る前に、直美は大輔に、中では余計なことを言わないように釘を刺した。大輔は「そんな軽口叩かないよ」と答えた。「ほんとに?信用できないな!」「……」家に入ると、正人と澪が急いでみんなを迎え入れた。隆も手土産を持ってきた。「またそんなにたくさん買って……手ぶらで良かったのに」「いえ、そうはいきませんから。気を使わないでください」正人が荷物を受け取り、言った。「まあ、とにかく入って、少し座っててください。すぐ食事にしますから」あと2品、まだ調理中だった。涼太は台所へ手伝いに行った。美羽がみんなに挨拶すると直美が歩み寄り、美羽の手を取って座らせた。「顔色が良くなって安心しました。あのプレゼント、使ってくれてますか?」「ええ、すごくいいです」「それなら良かったです」「……」皆はソファで談笑していた。食事の準備ができると、皆が食卓を囲んだ。正人が一人ずつお酒を注ぎ、杯を掲げて言った。「美羽がこんな素敵な友人たちに恵まれるなんて、幸せなことです。皆さん、美羽を気にかけてくれて本当にありがとうございました。佐野先生、特に今回はチャンスをくださり、深く感謝しております」隆は慌てて立ち上がった。「そんな、とんでもありません。美羽さん自身が優秀なのですから。私はきっかけを作っただけですよ」「いえ、それでもお礼を。これからも美羽をよろしくお願いします。では乾杯しましょう!」隆もその掛け声に続き、乾杯した。正人は、続いて大輔と悠斗にもそれぞれ酌をした。正人は嬉しくなるとつい羽目を外してしまうのだ。澪も、滅多にない賑やかな席だったため止めることはせず、一緒にお酒を飲んだ。美羽はジュースで彼らに合わせ、杯を交わした。最も辛い時期、誰よりも支えを必要としていたときに、こうして自分を大切に思ってくれる人たちがそばにいてくれる。その温もりこそが、明日へ立ち向かう勇気になっていた。夜9時になり、隆たちは次々と挨拶をして帰路についた。皆お酒を飲んでいたため、代行運転を呼んだ。美羽は玄関までみんなを見送った。涼太はみんなをエレベーターまで見送った。悠斗が「涼太さん、もう戻っていいよ!」と言った。「気を付けて帰れよ」「……」エレベーターのドアが閉まる。涼太はその場を離れた。

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第98話

    美羽は、悠斗から送られてきた柚葉の成長記録と動画を見た。【見て。柚葉ちゃんは、お前が贈ったお人形をしっかり握りしめてる。満足そうに笑っていて、きっとママが選んだ物だって分かっているんだろうね】画面の中で無邪気に笑う柚葉を見つめ、美羽は静かに微笑んだ。ようやく、この現実に折り合いをつけることができた。たとえ一緒にいられなくても、柚葉の成長を見守りたかった。写真の柚葉は大事に育てられているのが分かった。中山家の人々も、この子を心から可愛がっているようだ。【本当に賢い子ね】【言わなくても分かるよ。美羽に似て、聡明な子だ】【……】そんなある日。美羽のスマホが鳴った。翔平からの電話だった。「数日ほど出張に出る。柚葉の世話をしてくれ」翔平のその言葉に。美羽はその場で硬直した。離婚の話をするのかと思ったが、まさか柚葉の世話を任されるとは。あまりの驚きに言葉が出ない。どういうつもりだろうか?歩み寄ってくれたのか?もうすぐ、二人とも他人になるというのに。決断が早く、一度決めたら曲げない翔平のことだ。自分を嫌っているのは変わらない。離婚を後悔しているわけではない。せいぜい、子供のことで一時的に帰れと言っているだけなのだろう。美羽はスマホを強く握りしめた。電話越しに沈黙が流れ、翔平は美羽の答えを待っていた。一分、一秒がとてつもなく長く感じられ、胸の奥が押し潰されるように苦しかった。ようやく、美羽は絞り出すように答えた。「私は……柚葉の世話をしに行けない。あなたがよく見てあげて」溢れそうな感情を必死に押し殺した。翔平が与えてくれた、せめてもの機会だということは分かっている。そう伝えると、向こうは何一つ言い返すことなく、プツリと電話が切れた。受話器から流れる味気ない発信音を聞きながら、美羽は力が抜けたようにスマホを下ろした。堪えていた糸が切れ、鼻の奥がツンと熱くなる。堰を切ったように涙が次々と零れ落ちた。そこへ、果物を持った澪が部屋に入ってきた。目が真っ赤になった美羽の姿を見て驚いた。澪は慌てて歩み寄ると、ベッドに腰を下ろし、ティッシュを差し出した。「どうしたの?何があったの?」美羽は澪の肩に顔を埋め、声を上げて泣いた。胸が張り裂けそうになる澪は、美羽の背中を優しく撫でながら言

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第97話

    ただ、今日はなぜ翔平の妻がいないのか?みんなは疑問に思ったが、あえて問い質すことはしなかった。翔平が柚葉を抱いてベビーカーに乗せると、日和と剛がすぐに駆け寄り、柚葉を見て、しわだらけの顔に隠しきれない喜びを浮かべた。日和は柚葉のために準備していた、何十億もの価値がある宝石を差し出し、「このキラキラ、気に入ってくれたかしら?」と尋ねた。柚葉は大きな目をぱっちりさせて見つめるだけで、あどけない顔には特別な反応がなかった。「柚葉ちゃん、ひいおじいちゃんのプレゼントも見ておくれ」剛が特別に注文した赤ちゃん用のガラガラは、やわらかな素材で作られており、表面には剛自らが描いた絵が施されている。百合と慶は丹精込めてプレゼントを用意し、柚葉が笑ってくれることを願っていた。しかし、柚葉は大きな目を瞬かせるだけだった。日和がしみじみと呟いた。「本当に翔平の小さい頃とそっくりね」その時、悠斗は手に持ったお人形で柚葉をあやしながら言った。「柚葉ちゃん、これはどう?」柚葉がそのお人形を見ると、突然声を上げて笑った。その様子を見て、皆が驚く。日和が笑って言った。「あら、柚葉ちゃんは悠斗のこのお人形が気に入ったのね。これから健やかに育ってね」「……」悠斗は愛らしい柚葉を見つめ、優しく言った。「柚葉ちゃん、これがママからのプレゼントだって分かってるんだよね?」その言葉が放たれた瞬間、その場が凍りついた。杏奈は悠斗の言葉を困ったような表情で見つめた。悠斗は周りの反応などお構いなしに、柚葉に話しかけ続けた。「ママは、柚葉ちゃんが健康で無事に育ってほしいって願っているんだよ」その言葉を聞いた柚葉は、また声を上げて笑った。皆、悠斗の言葉を耳にしたが、誰一人として口を挟まなかった。杏奈が何かを言いかけて止める。ずっとソファから見守っていた勲が口を開いた。「柚葉ちゃんは情のある良い子だ。大きくなっても、きっと自分の母親のことを忘れないだろう。早くそのお人形を渡してやれ」「……」剛と日和は勲の言葉を聞き、何と返せばいいのか戸惑うばかりだった。他の者たちはなおのこと、言葉も出なかった。翔平は悠斗に言った。「寄越せ」悠斗は翔平を一瞥すると、お人形を手渡した。翔平は屈み込み、慎重に柚葉の横にお人形を

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第96話

    悠斗からメッセージがきた。【柚葉ちゃんの姿、見てみるか?】美羽が自ら柚葉の話を振ることはなかった。写真を見ると美羽の心がもっと苦しくなると、悠斗は分かっていたからだ。それでも美羽は、心の底ではずっと会いたくてたまらないはずだった。メッセージを眺めながら長い間黙り込んでいた美羽だったが、自室へ戻ってから【見せて】と短く返信した。どうしても、もう我慢ができなかった。悠斗から届いた写真は、柚葉の寝顔や笑顔……本当にかわいくて、大きな瞳は笑うと三日月のように細くなる。鼻筋も通り、口元は桜色の、透き通るような白い肌をした子だった。その姿を見て、美羽はこらえきれず目に涙を浮かべた。スマホを静かに置き、窓の外を見上げ、なんとか感情を落ち着かせてから、美羽はまた悠斗にメッセージを打った。【翔平は柚葉に優しくしてる?】それが美羽の一番の心配事だった。悠斗からの返信。【彼は柚葉ちゃんを溺愛しているよ。ほとんど自分ひとりで世話をしていて、マフラーと帽子も受け取ってくれたよ】美羽の予想とは違い、心からほっとした。【それならよかった】美羽はそれ以上何も聞かなかった。悠斗もあえて柚葉の話を続けることはしなかった。グループチャットでは相変わらず騒がしく、直美が美羽を何度もタグ付けし、ビデオ通話で話をしようと誘っていた。夜10時になり、澪にそろそろ寝るよう促された。美羽は皆におやすみと言うと、ベッドに入った。2月を迎えた。美羽は相変わらず家から出られないでいた。外の雪は降り止んでいる。正人と澪が外出の支度をし、涼太が家で美羽の面倒を見てくれた。すると、悠斗が二人を訪ねてきた。3人はそのまま夕方までカードゲームをして過ごした。美羽は二人分勝たせてもらっていた。その後数日間も、悠斗が時折顔を出してくれた。暇つぶしというよりも、涼太との仕事の打ち合わせが主な目的だった。涼太はまったく休んでいなかった。常に忙しく動き回り、会社にも足を運んでいた。これからの2年が成長の要だと考えていたため、一切気を抜けないでいた。時はあっという間に過ぎ去り、厳しい寒さは過ぎ去った。外は梅が咲き始めていた。隆と直美がすぐに会いに来てくれた。直美は海外旅行から戻ったばかりで、美羽の産後の回復に良さそうなギフトをたくさん抱

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第95話

    翔平は表情ひとつ変えず、悠斗の言葉を聞きながら、落ち着いた声でこう言った。「美羽のために、身内である祖父母や年長者に対して、そんなひどい言いがかりをつけていいと思っているのか?」悠斗は目を見開いて、翔平を見つめた。翔平は言葉を続けた。「彼女の気持ちを慮るのは構わない。だが、中山家は、お前の鬱憤を晴らすための場所じゃない。お前もまた、中山家の一員なのだから。もう子供じゃない。会社を経営し、一端の責任ある立場だ。言動にはもっと冷静になるべきだぞ」悠斗は指先に力を込め、ゆっくりと目を伏せた。表情は強張ったままで、それ以上何も口にはしなかった。場には沈黙が流れた。その時、使用人が2階に上がり、「翔平様、悠斗様、お食事が用意できました」と声をかけた。翔平は組んでいた足を解き、手元にあった紙袋を使用人に預けた。「俺の部屋に置いておいてくれ」使用人は両手で丁寧に受け取り、「承知いたしました」と答え、立ち去った。翔平は、椅子に座ったまま動かない悠斗を見下ろして促した。「いつまでそこに座っているつもりだ?」悠斗はスマホをポケットにしまい込み、腰を上げた。二人は一緒にダイニングへ向かった。食卓からは湯気が上がり、誰もが顔に笑顔を浮かべていた。柚葉を抱いた剛は、普段の厳しい表情が嘘のように、シワの刻まれた顔を慈愛に満ちた笑顔でいっぱいにしていた。日和がおもちゃで遊んであげると、柚葉がキャッキャと声を上げた。その場にいた全員が、思わず笑みをこぼした。今日が特別な日だと察しているのか、柚葉は一日中ずっといい子にしていて、ぐずることなく、あやす大人たちに満面の笑みを向けていた。無邪気な子供の笑顔は、そこにいる全員の心を和ませていた。「私に抱っこさせて」日和が柚葉をせがんだ。剛は首を振った。「さっき抱っこしたばかりだろ?」日和は剛を睨むと、柚葉に向かって話しかけた。「柚葉ちゃん、ひおばあちゃんに抱っこされたいわよね?」翔平が近づいた。「おじいさん、代わりますよ。さあ、みんなでご飯にしましょう」「そうだな。飯にしよう」翔平が柚葉を受け取ると、柚葉は彼に向かってにっこり笑った。翔平も愛おしそうに柚葉のほっぺを優しくなでた。それから注意深く柚葉をベビーカーに移し、隣に座らせた。お腹いっぱいで満足した

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第50話

    「D国から書類が届いたんだけど、ちょっと目を通してもらえる?」と悠斗は言った。「ええ、後で送っておいて!」悠斗は美羽の箸が届きやすいように料理を寄せ、笑顔で言った。「ありがとう、美羽」それを聞いた杏奈は悠斗のほうを見て尋ねた。「何を感謝しているの?」悠斗は「手伝ってもらいたくて」と答えた。「美羽さんは今お腹も大きいんだから、あまり負担をかけさせないでよ」美羽は穏やかに笑って答えた。「大丈夫ですよ、大したことありませんから」杏奈の態度はこれまでも悪くはなかった。利害関係や世間体とは無縁の存在だったからだ。時には日和の言葉に合わせて、美羽の意見に同調することすらあった。

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第49話

    翔平がいつ家を出るのか、美羽には分からなかった。そこで、思い切って、予定より早めに家を出ることにした。豪に車を出してもらい、中山家の本邸へ向かった。準備を整えて2階から降りてきた翔平は、翠の姿はあっても美羽の姿がないことに気づき、「あいつを呼んで来い」と命じた。翠は不満げに毒づいた。「もう先に出かけてしまいましたよ。気取ってるのか、それとも何か恨みでもあるんでしょうかね」翔平は微かに眉をひそめた。その言葉には答えず、足早に玄関へと向かった。美羽は、翔平より先に本邸に到着していた。今日は中山家全員が集まるため、駐車場には高級車が何台も停まっていた。美羽が到着した時、ち

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第48話

    勲はひどく顔を強張らせて言った。「もう帰る!」そう言って、駐車場所の方へ歩き出した。車は少し先で待機しており、英樹が小走りで後部座席のドアを開けると、勲は乗り込んだ。翔平は瑠衣を車に乗せ、目の前を走り去る勲の車を見送った。そして、視線を戻すと自分も車に乗り込んだ。時はあっという間に流れた。銀杏が風に吹かれて枯れ落ち、日ごとに寒さが増していく。美羽のお腹は日に日に大きくなっていた。少し歩くだけで息が上がり、座って休まなければならない。衣服の着脱も一苦労で、特にズボンを履くのには長い時間がかかる。夜中のトイレも増え、腰の痛みもひどい。夜は足のけいれんで飛び起き、ふとした瞬間に息

  • 冷徹な夫が暴走愛?それでも妻は絶対に許さない   第47話

    それからの2日間、翔平は夜必ず家に戻っていた。ただ、美羽とはほとんど顔を合わせることはなかった。そのほうが気が楽でいい。とにかく今は、無事に子供を産むことだけを考えていた。日和から厳しく叱られてからというもの、翠と恵はずいぶんと大人しくなり、朝食を準備してくれる。美羽は仕事から帰るとそのままヨガスタジオへ直行し、そこで待っている澪が夕食を一緒に食べてくれるようになった。A大学には、見事な銀杏並木がある。今、黄金色に色づいた葉が冬の暖かい日差しを浴びて、キラキラと宝石のように輝いていた。学生たちが皆、写真を撮ろうと賑わっている。美羽が勤める研究室からは、ちょうどその黄

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status