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第249話

Auteur: 小円満
私は話題を変えて訊ねた。「おばあちゃん、今の体調はどうですか?少しは良くなりましたが?」

冬香は胸元を押さえて、数回咳き込みながら言った。「相変わらずね」

その様子を見て、高司が言う。「お母さん、部屋まで連れていくよ。少し休もう」

「ええ」

冬香の顔は青ざめていて、立ち去るときも忘れずに私に声をかけた。「昭乃、あなたたちはそのまま食べてて。私は上で少し横になるから」

二人が並んで去っていく背中を見つめながら、智樹の顔には深い悲しみが浮かんでいた

私は思わず慰めの言葉をかける。「おじいちゃん、今は医療も進んでますし、おばあちゃん、きっと大丈夫ですよ」

「……はあ。見つかったときには、もう末期だったからな……」

智樹が何度もため息をつきながら言った。「でも幸い、高司は普段冷たく見えても、心は温かい。この期間、ずっとおばあちゃんのそばにいてくれた。そうじゃなければ、一生の心残りになるだろう」

そんな話をしていると、使用人が慌てた様子で入ってきた。「旦那様、時生様が来られました。それに……女性の方を連れていて、どうやら優子さんのようです。二人とも、怒ってるようで……」

その
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