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第6話

Auteur: 雷鳴の虎(らいめいのとら)
千尋は晴美を連れて二階へ上がった。

二階に到着した途端、晴美は足を止め、お腹に手を添えながら柔らかな笑みを浮かべて千尋を見つめた。

彼女は千尋の周りをぐるりと一周しながら、舌打ちまじりに言う。

「千尋さん、誰かに言われたことない?あなた……私とよく似てるって」

千尋は黙って晴美を見つめる。ただ、この女がどこまで言うつもりなのか、見届けたかった。

沈黙に動じることなく、晴美はため息混じりに言葉を続けた。

「前にも言ったけど、怜の心から私のことが消えたことなんてないの。あなたはただの代用品。もし私があなただったら、とっくに身を引いてるわ」

彼女は首をかしげて笑った。その笑顔には、確かな勝利の色があった。

「そういえば、あなたたち六年間も結婚してるのに、一度も妊娠してないのよね。千尋さん、それっておかしいと思わなかった?」

「……何が言いたいの?」

千尋の心はずんと沈んだ。これから晴美が語ろうとしていることが、決して耳に優しいものではないと、直感的に分かった。

止めたかった。でも、体に力が入らなかった。

そんな千尋の様子を見て、晴美は優越感たっぷりに笑った。

「怜、あなたに言わなかったのかしら?実は結婚する前に、彼、自分から結紮手術を受けたのよ。他の女に子どもなんて絶対産ませたくないから、って」

「だからあなたは六年も妊娠できなかった。でも私は?帰国してたった三ヶ月で、もうお腹に赤ちゃんがいるの」

彼女は千尋の耳元で、毒のような声を囁いた。

「まだわからないの?千尋さん」

千尋は晴美の顔を見ようとしなかった。力の抜けた足を支えるために手すりを握りしめる。その体は、夏なのに冷たい氷に閉ざされたようだった。

——六年。

何度も自分を責めた。病院にも行き、怪しげな薬にも手を出した。ただ、怜との子どもがほしかった。

でも、違った。できなかったんじゃない。最初から、怜が望んでいなかった。

涙がこぼれ落ちる。千尋はそれを一息で拭き取ると、無表情な声で問い返した。

「……結局、何が言いたいの?」

「別に。ただ真実を伝えたかっただけ」

晴美は艶やかに笑いながら、千尋の頬に触れて涙を拭った。

「怜が、私とこの子をどれだけ大事にしてるか、もう見ればわかるでしょ?

——もし、あなたが私たちに何かしようとしたら、怜はどうすると思う?」

「……は?」

その瞬間、千尋の視界が白く跳ねた。

気がつけば、晴美は階段を転げ落ちていた。

真夏なのに、体が凍えるほど冷たかった。

怜の絶叫が響く。「晴美!」

階下では、正気を失ったような怜が晴美を抱きしめ、血の染み込んだ階段の上で動揺していた。

ざわつく人々の視線が千尋に突き刺さる。

次の瞬間、怜が千尋の前に立ちはだかり、手を伸ばしてその首を掴んだ。

「千尋……お前、晴美に何をした!?」

「わたし……何も……してない……!」

千尋は必死に怜の手を叩きながら、かすれた声で言葉を吐いた。

涙が頬を濡らす。でも、怜は何も信じてくれなかった。

救急車のサイレンが近づく中、怜は冷たく言い放った。

「晴美と子どもが無事なら、それでいい。だが、もし……流産でもしてたら——千尋、俺たちは離婚だ」

「……いいわ」

怜はそれを聞いたのか、聞かなかったのか。もしくは最初から、千尋の言葉など気にも留めていなかったのかもしれない。

彼は一度も振り返ることなく、その場を立ち去った。

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