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第7話

Auteur: 如子
家に戻った後、修は瑠奈の傷を丁寧に手当てしながら、申し訳なさと胸の痛みでいっぱいだった。

その後数日間、彼は外出することもなく、片時も離れず彼女のそばに付き添っていた。

彼の見せる罪悪感に対して、瑠奈はほとんど反応を見せなかった。

夜が更けて人影もなくなると、彼女は車椅子を押して書斎に入り、彼が隠したつもりのあのノートを見つけ出した。

ページを開くと、そこには「修、お前ってほんと最低だ」と何度も書き連ねられており、それを黙って閉じた。

書斎から出た直後、寝室のドアが勢いよく開かれ、修が寝巻のまま、靴も履かずに裸足で飛び出してきた。

彼女が無事な姿を見て、ようやくほっとしたように大きく息をついた。

「瑠奈、こんな時間に、一人で何してるんだ?」

瑠奈は目を逸らし、表情ひとつ変えずに嘘をついた。

「喉が渇いて、水を取りに来ただけよ」

修は慌ててキッチンから水を持ってきて彼女に手渡し、声にはまだ動揺が残っていた。

「こんな時は俺に頼れよ。もしまた何かあったら、俺、本当に生きた心地しないから」

その言葉を聞いて、瑠奈はふと彼を見上げ、じっと見つめた。

「修、最近……私に何か言いたいことはない?」

修は一瞬戸惑ったが、すぐに首を横に振った。

「いや、何も?」

本当のことを打ち明けてくれさえすれば、瑠奈はきっと潔く手放せた。

だが、今この状況に至ってなお、彼はまだ本当のことを言おうとはしなかった。

瑠奈はゆっくりと目を閉じ、うっすらと笑みを浮かべ、その目の奥の失望を覆い隠した。

翌日、彼女はアルバムを取り出し、何のためらいもなくすべての写真をハサミで切り裂いた。

床に散らばった無数の紙片を見て、修は言葉を失い、驚きの声を漏らした。

「どうして……こんなに大事にしていた写真を……?」

瑠奈は理由をつけるのも面倒になり、ただ淡々とこう言った。

「湿気で全部色褪せちゃったし、残しておく意味もない。今度また撮ればいいでしょ」

そんな平然とした彼女の言葉を前にして、修は心のどこかで不安を覚えた。信じるべきか、信じないべきか、分からなかった。

三日目、瑠奈は家政婦を呼び、キャビネットの中のペアカップ、マフラー、服、キーホルダーなどをすべてまとめて、下のゴミ置き場に捨てさせた。

修がそれに気づき、また問いただしてきたが、彼女は「カビが生えてた」と言って誤魔化した。

さらに数日後、彼女は彼からもらったすべてのプレゼントを慈善団体に寄付した。

「デザインが古すぎるから」と言って、「今度はもっと新しいのにしてね」とさえ告げた。

日が経つにつれて、家から「瑠奈」を象徴するものが一つまた一つと姿を消し、ついには何も残らなくなった。

それでも、修は何一つ気づいていなかった。

瑠奈の両親の命日、修も一緒に墓地を訪れた。

だが、彼女が墓前で語った言葉を聞きながら、彼の胸に不意に不安が湧き上がった。

「お父さん、お母さん、元気にしてる?心配しないでね。多分、私、すぐにそっちへ行くから……」

彼の記憶では、いつも彼女は「会いたいよ」と言っていたはずだ。

でも今日の言葉は、どこかおかしい。胸騒ぎがして、彼女にちゃんと尋ねようとした、

その時、後ろから聞き覚えのある声が響いた。

「修、お義姉さん、奇遇だね」

その一言にすべてが中断された。彼は反射的に振り返った。

数歩先に、陽菜が立っていた。どこか怪我をしたようで、顔色が悪い。

彼女の浮いたような左足を見た修の表情に、一瞬、心配の色が走った。

「ここで何してる?怪我したのか?」

「おばあちゃんのお墓参りに来たの。雨で滑って、ちょっと足をくじいちゃって……」

そのか細く委ねるような声を聞き、修は無意識に数歩前に出て、彼女を支えた。

陽菜の目には、うっすらと涙がにじんでいた。

「修……病院まで送ってくれる?」

その一言に、彼の胸は再び締めつけられ、何のためらいもなく頷いた。

瑠奈には、たった一言だけ残して。

「瑠奈、ゆっくり話してて。俺、病院行ってすぐ戻るから」

彼らは最初から最後まで、瑠奈の気持ちなど聞きもしなかった。

ただ彼女を、墓地に置き去りにしていった。

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