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第5話

Author: 瑞木結花
結月は頭皮が粟立つような感覚を覚えた。朋美が進み出て、結月の強張った腕を掴み、無理やり涼介のそばへと引き寄せる。

「そうよ結月、一晩中帰ってこないなんて、みんなすごく心配したんだからね」

雅明が叱責する。

「まったく、いい加減にしろ!

そのワガママな性格を少しは直せないのか?どんどん聞き分けが悪くなりおって。これだけ多くの人間に心配をかけておきながら、少しも恥ずかしいとは思わんのか!」

朋美が雅明の腕を引っ張ってなだめようとしたが、雅明はかえって怒りを募らせ、吐き捨てるように言った。「結局のところ、自分たちの手で育てなかったのが間違いだったんだ。あの里親の家で、あんなひねくれた性格に育ちおって……」

激しい音を立てて、結月はすでに開けられていたスーツケースを力任せに蹴り飛ばした。

「あの人たちのことを悪く言わないで」

雅明の文句がピタリと止まる。すかさず、涼介が穏やかな声でその場を取り繕った。

「お義父さん、お義母さん。結月の気が強いのは構いませんよ。俺が甘やかしているんですから。

昨夜はきっと友達と遊びに出ていただけでしょう。大騒ぎして、お二人にまでご迷惑をおかけしてしまいましたね」

結月は内心で鼻で笑った。

涼介は本当に猫を被るのが上手い。他人の前では常に謙虚で礼儀正しい紳士を演じるくせに、自分がいかにも情緒不安定な狂人であるかのように仕立て上げる。

だが実際には、涼介こそが誰よりも情緒不安定な人間なのだ。

朋美は「お義父さん、お義母さん」と呼ばれて有頂天になっており、涼介が結月を連れて帰ると言った時も、二人は揃って結月にもっと聞き分けよくするよう説教し続けた。

結月は、二人の言葉などまるで聞かなかったかのように振る舞っていた。

結月は小湊家で育ったわけではない。自分の出自を知りこの家に戻ってくる前は、仲睦まじい両親と兄弟に囲まれた、ごく普通の幸せな家庭があったのだ。

あの時、雅明がしつこく結月を引き取ろうとし、カメラの前で涙ながらに父親の愛を熱演して里親の家族を世間のバッシングに晒さなければ、結月はこんな、自分に寄生して血を吸うだけの場所に戻ってくることなどなかった。

雅明たちは結月が桐山家で冷遇されていることを知らないのだろうか?

いや、知っている。それでも、涼介がもたらす豊かな生活と莫大な金の前では、雅明たちはとっくに見て見ぬふりをし、表面上の平和を繕う術を身につけていた。

結月がとっくに見捨てられていようと、涼介とすでに離婚していようと、利用価値がある限り、この夫婦は見て見ぬふりを続け、結月が桐山家で幸せに暮らしていると信じ込むふりをするのだ。

結月は半ば引きずられるようにして涼介の車に押し込まれた。ドアが閉まった瞬間、涼介は結月の頬を強く掴み、その陰湿な視線を結月の首元に這わせた。まるで何か新しい痕跡でも探すかのように。

「昨日はどこに泊まったんだ」

結月は涼介の手を振り払い、乱暴に自分の顔を拭った。

「友達の家よ」

「どの友達だ」

「あんたには関係ない」

涼介の口調には、危険な気配が充満していた。

「結月。俺は今、非常に機嫌が悪いんだ」

「知ったことじゃないわ」

涼介は目を細め、すっかり度胸の据わった結月を睨みつけた。昨夜遅くに帰宅し、結月が家出したと知らされた時の怒りが、今も胸の奥でくすぶっている。

涼介は深く息を吸い込むと、結月の手を無理やり自分の掌に包み込み、もてあそぶように指先を撫でた。

「その男が誰なのか教えろ。そして、これからは大人しく言うことを聞くと約束するなら、今回だけは不問に付してやる」

結月は顔を向け、じっと涼介を見つめ返した。しばらくして、ふっと笑みをこぼす。

そのあまりにも眩しい笑顔に、涼介は久しく忘れていたほど胸の鼓動を乱された。

しかし次の瞬間、結月の赤い唇から紡ぎ出されたのは、氷のように冷たい言葉だった。

「いっそあんたが死ねばいいのよ。あんたが死んでくれるなら、私もこれまでのこと、不問に付してあげるわ」

その瞬間、結月の手は激しく振り払われ、車のドアに重く叩きつけられて、骨の髄まで痛くて痺れた。

それでも結月は顔色一つ変えず、赤く腫れ上がった手を淡々とさすった。

涼介は手を振り上げ、結月を平手打ちしようとしたが、なぜかその手を下ろし、代わりに後部座席から取り出したドレスを無造作に結月に投げつけた。

「今日は春奈が出席する骨董鑑定会がある。お前には春奈の助手として同行してもらう。

今日の鑑定会は春奈にとって大事な場だ。業界の大物も何人か顔を出す。絶対に失敗は許されない。

もし何かやらかしたら――どうなるか分かってるな」

結月も春奈も、どちらも骨董の鑑定士だった。ただ、結月が伝統的な家系から技術を受け継いだ民間派であるのに対し、春奈は正式なアカデミー出身の学院派という違いがある。

だが残念なことに、春奈には鑑定の才能などこれっぽっちもなかった。春奈が今こうして業界で名を知られているのは、ここ二年間、結月が裏でその「目利き」を代行してきたからに過ぎない。

結月は投げられたドレスに手を伸ばすことなく、足元に落ちるままに任せ、唇の端に皮肉な笑みを浮かべた。

「どうなるって?満に骨髄を提供してくれないの?それとも、一ヶ月後の手術を取り消すつもり?」

涼介は、結月がどこか変わったと感じていた。

具体的に何が変わったのかは言葉にできなかったが、相変わらず忌々しいほど頑固で、決して人に屈しようとしないそのプライドの高さだけは健在だ。涼介は鼻で冷たく笑った。

「分かっているならいい」

結月はしばらく黙り込むと、身を屈めてドレスを拾い上げた。指先で散りばめられたラインストーンを撫でながら、目を伏せる。その姿は、まるで飼い慣らされたかのようだった。

「手伝ってもいいわ。でも、これが終わったら私の身分証明の書類を返して。満を外に連れ出して、少し気晴らしをさせたいの」

涼介は満足げに眉をひらき、鼻を鳴らすと、さも情けをかけるかのように口を開いた。

「いいだろう」

子供が重病なのだ。連れ出したところで、一体どこへ行けるというのか。あまり追い詰めすぎるのも良くない。適度に自由を与えておけば、逃げ出す心配もないだろう。

何しろ、子供の命は自分に握られているのだから。

涼介はご機嫌だった。

そして、結月もまたご機嫌だった。

結月は昔から、何事も最後までやり遂げる性格だ。

春奈はこれまで、自分から数え切れないほどの栄誉や名声を取っていった。

だから今日、春奈に最後の狂乱のステージをプレゼントしてやろう。高くまで登り詰めさせれば、それだけ落下する時の無様な姿が見られるのだから。

午後8時。

結月は涼介の後について、鑑定会が開催される会員制クラブに到着した。

展示ホールに入ると、涼介は結月を隅の方へと連れて行き、淡々とした声で念を押した。

「春奈を迎えに行ってくる。お前はここで大人しくしてろ。

今日の自分の立場を忘れず、余計なことはするな。ちゃんとやり遂げたら、明日、時間を作って満の顔を見に行ってやる」

満は病気になってから、いつも父親のそばにいたがった。結月が病室へ行くたび、満はパパがいつ来てくれるのかと尋ねてきた。

そのために、結月は何度も涼介の前で妥協してきた。ただ娘に安心して療養させ、見せかけだけでも幸せな家庭を与えようと必死だった。

だが、涼介は口だけで、いつも約束を反故にした。会社が忙しいだの、春奈のそばにいなければならないだのと、言い訳ばかり並べては来なかった。

結月と満は何度も期待し、何度も裏切られた。それでも信じようとした。

だが今、満はもういない。結月はようやく、自分自身の人生を歩み始めたのだ。

結月は喉元まで込み上げた強い恨みを飲み込み、無表情のまま答えた。「安心して。あんたを失望させたりしないから」

珍しく従順な態度を見せたことで、涼介は途端に機嫌を良くし、無意識に結月の頬を撫でた。

「いい子だ」

涼介が立ち去った後、結月は力強く自分の頬を数回こすった。

誰にも相手にされなかったが、結月は全く気にせず、一人で展示ホールの中を歩き回った。

この鑑定会については、以前から噂を耳にしていた。発起人であり主催者でもあるのは、渋江骨董商工会の会長であり、収集家協会の会長も務める風間岳人(かざま がくと)だ。

春奈はここ二年間、飛ぶ鳥を落とす勢いだが、キャリアが浅く、本来ならこのレベルの鑑定会に参加する資格などない。

しかし、その後ろ盾には涼介がいる。春奈が業界の大物たちの輪に食い込もうと必死になる中で、岳人から評価を得ることは必要不可欠なのだ。

結月は展示ホールをぐるりと一周し、一つ一つの展示品に関する情報を頭に叩き込んだ。

ある展示ブースの前を通りかかると、大勢の人が集まり、台の上に飾られた水墨画の掛け軸について熱心に議論を交わしていた。

結月は足を止め、そちらへ近づいていった。

展示品の持ち主がそのすぐそばで、得意げに語りながら、指を一本立てて見せた。1000万円という意味だ。

「……専門家に鑑定してもらったんですがね、この掛け軸にはこれほどの価値があるんですよ。私はこれを、たったの200万円で買い取ったんです。まさに掘り出し物を見つけましたよ」

結月は独り言のようにつぶやいた。「200万ね。こんな露骨な贋作も見抜けないなんて、ただのカモじゃない?」

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