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第2話

Author: 腹黒キャラ
俺が基地の取調室に放り込まれたその夜、取り調べは始まった。

十数名の尋問官が入れ代わり立ち代わり現れ、ありとあらゆる手口を使って俺の口を割らせようとした――誰一人、成功しなかった。

俺は分かっていた。壁一枚隔てた監視室で、雅子が必ず俺を見ているのだと。

そして、最後の尋問官が、俺に言葉を詰まらせて退いたその時――彼女はついに自ら現れ、俺の正面に腰を下ろした。

俺は手錠をはめた両手で顎を支え、彼女の固く結ばれた口元と険しく見える表情を見つめ、くすりと笑った。

「どうした?もう耐えきれなくなったか?俺はお前の参謀だ。誰よりも知っているはずだろう?あいつらの手口なんて、俺の目には子供騙しに等しい。

ただ機嫌が良かったから、少し付き合ってやっただけさ」

雅子はうつむいたまま、長い沈黙を重ねた。やがて、かすれた声で囁くように言った。

「……監視カメラは切った。今なら、自分から話せば……まだどうにかできる」

顔を上げた時――彼女の目は、確かに赤く染まっていた。

「だって……あなたは、私の夫だから」

俺は思わず嗤ってしまった。

そうか、雅子はまだ「俺が夫だった」ことを、覚えていたのか。

二度目の人生を歩む今、俺はもう忘れかけていた。かつて、二人はどれほど愚かしく深く愛し合っていたのかを――

五年前、雅子はまだ入隊したばかりの新入りだった。

任務中、俺が危機に陥った時、彼女は身を挺して二発の銃弾を受け、半年間も病院のベッドに縛りつけられた。

罪悪感に駆られた俺は、毎日のように見舞いを続けた。

だから、彼女が退院する日に、上層部へ俺との婚姻届を提出したことも、当然の成り行きに見えた。

五年の歳月、俺は知る限りのすべてを彼女に叩き込んだ。

その結末が――あの無残な死だった。

「……私の言う通りにしなさい。過去の情もあるから、あなたを生かせるよう、努力する。刑も、できるだけ軽くするように……必ず、出所できる日を」

その声を聞いた瞬間、俺はふっと現実へ引き戻された。

彼女の目に浮かんだのは、婚姻届を提出したあの日の、必死でまっすぐな眼差しのようだった。

だが、今その目を見ると、胃液が逆流するような嫌悪がこみ上げた。

前の人生、俺はこの目を信じ、全てを打ち明けた。

そして彼女は、俺の信頼を利用し、逸斗を守るために俺に反逆者の濡れ衣を着せた。

「情?」俺は冷たく嗤った。

「その情とやらで……俺が教えた『影武者』技術を使って、俺を罠にはめることか?」

雅子の表情が一瞬、微かに硬直した。

だがすぐに、作り物のような柔らかな表情を浮かべた。

何か言おうと唇を開いたその刹那――俺は遮るように、彼女の握る「証拠」の不正確な数値を三つ、淡々と指摘した。

「その証拠――作りが雑すぎる……どうやら、俺が教えたことの十分の一も、まだ身につけられていないらしいな」

余裕の笑みを崩さず、俺は顔色を変えていく雅子を見つめる。

彼女の目から偽りの優しさが剥がれ落ち、濁った怒気がみるみる広がっていった。

雅子は突然立ち上がり、一歩、また一歩と近づき、その手で俺の首を強く締め上げた。

「道言。私は……あなたのその、全てを見下したような目が、一番嫌いなんだよ!」

息が詰まり、涙で視界が滲む。俺は無意識に手を伸ばし、指を彼女の腕に食い込ませた。

雅子の瞳の奥に、歪んだ快感が掠めた。

「天才?だから何?結局、私と逸斗の手のひらの上で転がされてるだけじゃないか!」

俺は爪をさらに深く立てた。

雅子は痛みに呻き、俺を乱暴に壁へ押しつけた。

床に転がり、咳き込みながら必死に息を吸い込む。

その時――

取調室のドアが勢いよく開かれた。

雅子の腕の傷を見た逸斗が、青ざめた顔で駆け寄ってくる。

「雅子さん!その傷、どうしたの!?」

雅子は俺を睨みつけ、唾を吐き捨てるように言った。

「狂犬に噛まれただけよ」

「そんな傷……僕も、お腹の子も、心配でたまらない」

逸斗はそっと傷に息を吹きかけた。

……お腹の子?

俺は弾かれたように顔を上げた。

その時初めて、雅子の制服の下の腹部が、わずかに膨らんでいることに気づいた。

俺の視線を感じ、逸斗はわざとらしく雅子のお腹に手を当て、勝ち誇った笑みを浮かべてこちらを見た。

「道言さん。ご安心ください。僕とこの子が、雅子さんのこと……あなたの代わりに大切にするから」

――なるほど。だから雅子は、妊娠した今、急いで俺を葬りたかったのか。

胸の奥がえぐられるような鋭い痛みが走る。

逸斗は、俺が取り乱すのを待ち望むように、じっと見つめていた。

俺は冷静さを繕い、彼の首元で微かに光るものに目を留めた。

「小林さん。君のサファイアのネックレス、ちょっと怪しいな。

……あれ、新型の撮影装置だろう?」

逸斗の体がぴくりと震え、慌ててネックレスを押さえ、踵が絡みそうになる。

「図星か?」

「道言!いい加減にしろ!いつまで逸斗を貶め続けるつもり!?」

雅子は彼を抱き寄せ、怒りに震えながら俺を睨みつけた。

俺は心底呆れたように、椅子の背にもたれかかった。

「貶める?秦、惚けるなよ。

お前は……とっくにこいつの正体を知っていたはずだ」

逸斗の目が見開かれ、瞳孔に恐れがよぎった。

雅子の表情が曇り、一瞬――その目に、冷たい殺意が灯った。

彼女は逸斗をそっと押しのけ、拳を握りしめ、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

拳が振り下ろされようとしたその瞬間、ドアがノックされた。

「秦隊長。本部からの者がお見えです。本件への介入を要請されています」
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