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勝戦の日、妻に反逆者として磔にされた俺

勝戦の日、妻に反逆者として磔にされた俺

By:  腹黒キャラCompleted
Language: Japanese
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勝戦の祝賀会で、妻の秦雅子(はた まさこ)は「証拠」と称するものを持ち出し、皆の前で俺を拘束した。 「道言琉生(どうごん るい)、あなたは『稲妻』作戦を敵に漏洩し、内通した疑いがある!」 彼女の背後で、通訳者の小林逸斗(こばやし はやと)が俺を見る目に、抑えきれない喜びと挑発が浮かんでいた。まるで「これでお前の負けだ」と告げているようだった。 前世、俺は確かに完膚なきまでに敗北した。 無実の罪を着せられ、拘置所でありとあらゆる拷問を受け、無残な最期を遂げたのだ。 そして彼らは、俺の功績を踏み台にした。一人は栄転を果たし、一人は「英雄の夫」として祭り上げられた。 再び目を開けた時、俺はちょうど雅子が手錠をかけようとしていた、まさにその瞬間に戻っていた。 今度は、静かに笑みを浮かべた。 彼女の驚きに満ちた視線をまともに受け止めながら、俺は素直に両手を差し出して言う。 「秦隊長。あなたが俺を糾弾するために使っている戦術は、すべて、俺が教えたものだぞ。 俺が『自白』する時には……お前、その自信をまだ保っていられるといいな」

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Chapter 1

第1話

勝戦の祝賀会で、妻の秦雅子(はた まさこ)は「証拠」と称するものを持ち出し、皆の前で俺を拘束した。

「道言琉生(どうごん るい)、あなたは『稲妻』作戦を敵に漏洩し、内通した疑いがある!」

彼女の背後で、通訳者の小林逸斗(こばやし はやと)が俺を見る目に、抑えきれない喜びと挑発な態度が浮かんでいた。まるで「これでお前の負けだ」と告げているようだった。

前世、俺は確かに完膚なきまでに敗北した。

無実の罪を着せられ、拘置所でありとあらゆる拷問を受け、無残な最期を遂げたのだ。

そして彼らは、俺の功績を踏み台にした。一人は栄転を果たし、一人は「英雄の夫」として祭り上げられた。

再び目を開けた時、俺はちょうど雅子が手錠をかけようとしていた、まさにその瞬間に戻っていた。

今度は、静かに笑みを浮かべた。

彼女の驚きに満ちた視線をまともに受け止めながら、俺は素直に両手を差し出して言う。

「秦隊長。あなたが俺を糾弾するために使っている戦術は、すべて、俺が教えたものだぞ。

俺が『自白』する時には……お前、その自信をまだ保っていられるといいな」

……

カチリ。

冷たい手錠が俺の手首を締めつけた。その瞬間、会場は一気にざわめきに包まれた。

雅子の顔には、いつもの冷ややかな表情だった。彼女はUSBメモリを高く掲げ、人々の視線を浴びながら、ゆっくりと口を開いた。

「道言、これは三日前、逸斗が回線から傍受した、あなたが敵に内通した証拠よ。強がったところで、自分の汚れた行いは隠せないわ」

逸斗がそっと雅子の袖をつかみ、涙でにじんだ目を上げる。

「雅子さん……道言さんは……きっと、ただ魔が差したなんです……」

――こいつは、表向きは俺をかばうような言葉で、祝宴に集まった者たちの怒りを巧妙に煽っていた。

「ふざけるな!魔が差しただと!?こいつは確信犯だ!」

「そうだ!裏切り者に生きる価値はない!道言、お前はとっくに死んでいるべきだ!」

罵声は嵐のように吹き荒れ、場内は俺の死を求める叫びで満ちていた。

そして、誰かがテーブルの酒を掴み、俺の顔に向かって思い切りぶちまけた。

雅子はただ冷然と見つめるだけで、むしろ、そっと逸斗を自分の後ろにかばうように身を寄せた。

逸斗はその隙間から、勝ち誇った目でこちらを見据え、口元に薄い、挑発的な笑みを浮かべている。

俺はその視線も罵声もまるで無視し、顔をぬぐい、雅子を真っ直ぐに見据えながら、一言一句、ゆっくりと言い放った。

「秦隊長。そのUSBに入っているのは……『稲妻』作戦計画の『最終版』で間違いないのか?」

雅子の目が鋭く光り、口元に嘲りの色が走る。

「まさか、死に際まで言い逃れるの?」

「いや」俺はすぐに首を横に振った。「言い逃れなんてするつもりはない。ただ、親切心で忠告したいだけだ」

「もし中身が違っていたら……あなたの高きにある神様のような姿に、ひびが入りかねないからね」

雅子の表情がみるみる固くなっていく。

俺は手錠を軽く揺らし、嘲るように笑った。

「いいさ。とりあえず、あなたの望み通りにしよう――『罪』は認める」

俺が素直に従うのを見て、雅子はわずかに満足げにうなずいた。

だが、その次の瞬間、俺は続けた。

「ただし、裁判所への出頭を要求する。内通の罪なら、公衆の面前で証拠を明らかにしてもらわねばなるまい」

その言葉が落ちた瞬間、雅子の微笑みは完全に凍りついた。

周囲から、小さな息を呑む音がいくつも漏れた。

俺はゆっくりと視線を移し、逸斗の顔を捉えて、薄く笑みを浮かべた。

「ついでに――小林さんには、皆の前で一つ、説明してもらおうか。

彼の『絶対に安全』なはずの回線を……どうしてこの素人の俺が、自由に行き来できたのか?」

人々の視線が一斉に逸斗へと注がれた。

彼の顔は瞬時に血の気を失い、反射的に後ずさった。

俺の落ち着き払った態度に、雅子は眉を深くひそめ、目に初めて、かすかな迷いの色を浮かべた。

彼女は俺を射抜くように見つめ、まるで俺の魂の奥底を見透かそうとしているかのようだった。

長い、重い沈黙が流れる。

やがて、彼女は歯を食いしばり、低く、鋭い声で命じた。

「……連れて行け!」

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第1話
勝戦の祝賀会で、妻の秦雅子(はた まさこ)は「証拠」と称するものを持ち出し、皆の前で俺を拘束した。「道言琉生(どうごん るい)、あなたは『稲妻』作戦を敵に漏洩し、内通した疑いがある!」彼女の背後で、通訳者の小林逸斗(こばやし はやと)が俺を見る目に、抑えきれない喜びと挑発な態度が浮かんでいた。まるで「これでお前の負けだ」と告げているようだった。前世、俺は確かに完膚なきまでに敗北した。無実の罪を着せられ、拘置所でありとあらゆる拷問を受け、無残な最期を遂げたのだ。そして彼らは、俺の功績を踏み台にした。一人は栄転を果たし、一人は「英雄の夫」として祭り上げられた。再び目を開けた時、俺はちょうど雅子が手錠をかけようとしていた、まさにその瞬間に戻っていた。今度は、静かに笑みを浮かべた。彼女の驚きに満ちた視線をまともに受け止めながら、俺は素直に両手を差し出して言う。「秦隊長。あなたが俺を糾弾するために使っている戦術は、すべて、俺が教えたものだぞ。俺が『自白』する時には……お前、その自信をまだ保っていられるといいな」……カチリ。冷たい手錠が俺の手首を締めつけた。その瞬間、会場は一気にざわめきに包まれた。雅子の顔には、いつもの冷ややかな表情だった。彼女はUSBメモリを高く掲げ、人々の視線を浴びながら、ゆっくりと口を開いた。「道言、これは三日前、逸斗が回線から傍受した、あなたが敵に内通した証拠よ。強がったところで、自分の汚れた行いは隠せないわ」逸斗がそっと雅子の袖をつかみ、涙でにじんだ目を上げる。「雅子さん……道言さんは……きっと、ただ魔が差したなんです……」――こいつは、表向きは俺をかばうような言葉で、祝宴に集まった者たちの怒りを巧妙に煽っていた。「ふざけるな!魔が差しただと!?こいつは確信犯だ!」「そうだ!裏切り者に生きる価値はない!道言、お前はとっくに死んでいるべきだ!」罵声は嵐のように吹き荒れ、場内は俺の死を求める叫びで満ちていた。そして、誰かがテーブルの酒を掴み、俺の顔に向かって思い切りぶちまけた。雅子はただ冷然と見つめるだけで、むしろ、そっと逸斗を自分の後ろにかばうように身を寄せた。逸斗はその隙間から、勝ち誇った目でこちらを見据え、口元に薄い、挑発的な笑みを浮かべている。俺は
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第2話
俺が基地の取調室に放り込まれたその夜、取り調べは始まった。十数名の尋問官が入れ代わり立ち代わり現れ、ありとあらゆる手口を使って俺の口を割らせようとした――誰一人、成功しなかった。俺は分かっていた。壁一枚隔てた監視室で、雅子が必ず俺を見ているのだと。そして、最後の尋問官が、俺に言葉を詰まらせて退いたその時――彼女はついに自ら現れ、俺の正面に腰を下ろした。俺は手錠をはめた両手で顎を支え、彼女の固く結ばれた口元と険しく見える表情を見つめ、くすりと笑った。「どうした?もう耐えきれなくなったか?俺はお前の参謀だ。誰よりも知っているはずだろう?あいつらの手口なんて、俺の目には子供騙しに等しい。ただ機嫌が良かったから、少し付き合ってやっただけさ」雅子はうつむいたまま、長い沈黙を重ねた。やがて、かすれた声で囁くように言った。「……監視カメラは切った。今なら、自分から話せば……まだどうにかできる」顔を上げた時――彼女の目は、確かに赤く染まっていた。「だって……あなたは、私の夫だから」俺は思わず嗤ってしまった。そうか、雅子はまだ「俺が夫だった」ことを、覚えていたのか。二度目の人生を歩む今、俺はもう忘れかけていた。かつて、二人はどれほど愚かしく深く愛し合っていたのかを――五年前、雅子はまだ入隊したばかりの新入りだった。任務中、俺が危機に陥った時、彼女は身を挺して二発の銃弾を受け、半年間も病院のベッドに縛りつけられた。罪悪感に駆られた俺は、毎日のように見舞いを続けた。だから、彼女が退院する日に、上層部へ俺との婚姻届を提出したことも、当然の成り行きに見えた。五年の歳月、俺は知る限りのすべてを彼女に叩き込んだ。その結末が――あの無残な死だった。「……私の言う通りにしなさい。過去の情もあるから、あなたを生かせるよう、努力する。刑も、できるだけ軽くするように……必ず、出所できる日を」その声を聞いた瞬間、俺はふっと現実へ引き戻された。彼女の目に浮かんだのは、婚姻届を提出したあの日の、必死でまっすぐな眼差しのようだった。だが、今その目を見ると、胃液が逆流するような嫌悪がこみ上げた。前の人生、俺はこの目を信じ、全てを打ち明けた。そして彼女は、俺の信頼を利用し、逸斗を守るために俺に反逆者の濡れ衣を着せた。
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第3話
雅子の足がぴたりと止まり、勢いよく逸斗の方を振り返った。二人の視線が交差すると、その奥に、同じ色の恐怖が浮かんだ。「道言、今度は何を仕組んだ?本部が動くはずがないわ!」雅子の声は、冷たい氷のようだ。俺は肩を軽くすくめ、余裕たっぷりに見上げた。「仕組む?そう思うなら、俺の計画は何だと当ててみたら?秦隊長、俺が教えたことを、そんなにも無駄にしたのか?」露骨な嘲りに、雅子の全身に荒々しい気配が漲る。こめかみの血管が浮き出し、爆発しそうな怒りを必死に抑え込んでいる。「いい加減にしなさい!私が本気で手を下す前に、吐いてしまいなさい!」俺はただ、静かに笑った。話さないのではなく、本当に何も知らないのだ。この人生は、前世とはまったく違う方向へ進んでいる。本部がなぜ動いたのか、誰が来るのか――俺にも分からない。ただ、雅子を苛立たせるために、「自分には計画がある」と言っただけだ。彼女は疑い深く、頑固だ。本番が始まる前に少し揺さぶっておくくらい、構わない。「それはね……」雅子は鉄の机を拳で殴りつけ、鈍い音と共にへこませた。俺よりも、背後で震えていた逸斗の方が、小さく悲鳴を上げた。そして雅子が言葉を継ごうとした瞬間、再びノックの音が響く。「秦隊長。本部よりいらした者は、五分後に裁判所の会議室へお越しになります。道言さんを至急、同室へお連れください」雅子の顔色が何度も変わり、歯軋みするような悔しさを噛み殺して答えた。「……分かった」会議室へ向かう間、雅子の表情は険しいままだった。部屋に着いて間もなく、ある人の姿が入口に現れた。姿がはっきり見えるより先に、その重々しい気配だけが先に届く。雅子は慌てて立ち上がり、迎えに出ようとした。本部の制服を纏った女性が近づいてくる。彼女は雅子の差し出した手を完全に無視し、まっすぐに俺へと歩み寄った。そして静かで落ち着いた足取りで俺の前に立ち、軽く一礼する。視線が合った瞬間、俺も思わず目を見開いた――彼女か?「道言さん。私は本部の江川朝美(えがわ あさみ)です。『星火計画』について、裁判所において説明を願います」その言葉が落ちた途端、二つの視線が、釘のように俺に突き刺さった。「道言!何よ、その「星火計画」って!?どうして私に一言
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第4話
「先生が……」声が詰まった。目が一瞬、熱を帯びた。俺は両親のいない孤児だった。国から「この上ない人材」と評される先生に、孤児院で拾われた。先生は俺を実の子のように育ててくれた。前世、俺が投獄されたと聞きつけると、あの誇り高き方はあらゆる手を尽くし、奔走して俺の冤罪を晴らそうとしてくれた。本来なら、先生の尽力で俺は無事釈放されるはずだった。だが――あの時、俺は雅子の演じる「深い愛情」に騙され、「私があなたを守る」「先生に迷惑をかけないで」という甘い言葉を信じた。その結果が、獄中での無残な死だった。最後に先生が面会に来た時、彼の髪はほとんど真っ白になり、まるで数十年分も老けたように衰弱していた。その記憶が蘇り、喉の奥が締めつけられる。再び朝美の落ち着いた眼差しに向き合い、溢れそうなものを必死に飲み込み、はっきりと頷いた。「先生には、心配しないでって伝えて。俺は……先生が育てた弟子だ。先生に恥をかかせるような真似は、決してしない」朝美の口元に、柔らかな笑みがほころんだ。「ええ。私も、先生も、あなたを信じてる。明日、裁判所で会いましょう」俺が頷くと、彼女は静かに会議室を後にした。ドアが閉じる音と同時に、雅子が血相を変えて詰め寄ってきた。「道言!あなた、どうやって江川さんと知り合ったの!?それに……さっきの『先生』って誰よ!?」俺は鼻で嗤った。「答える義務があるか?秦、自分を買いかぶり過ぎだな」これ以上彼女を相手にする気もなく、立ち上がろうとした瞬間――雅子が俺の手首を掴んだ。骨が軋みそうな力で。彼女の顔は怒りに歪み、震えていた。手を上げようとする。「道言!何度も私の忍耐を試さないで!答えなさい!なんでだ?一体どういうことだ!?」その狂おしい姿を見て、一瞬、意識が過去へと引きずり込まれた。前世――俺も同じように、雅子に問い詰めた。「なんで?なんで、急に愛が消えた?なんで、俺を騙した?なんで、逸斗と手を組んで、俺を地獄へ突き落とした?」彼女はただ冷たく、軽蔑の色を浮かべただけだった。胸を抉るような記憶が疼き、俺は目を冷たく細めた。雅子の手を振り払い、氷のように冷たい声で言い放つ。「秦隊長。今日お前が俺にした行為は、全て『不当な尋問』として記録する。明日、裁
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第5話
審判長の問いに、雅子と逸斗の目に、再びかすかな希望の炎がともった。俺は静かに首を横に振り、声を低く落とした。「俺は、証明しません。『自己証明』という行為そのものが、愚かですから」その言葉が終わるか終わらないうちに、雅子の怒号が炸裂した。「道言!証明できないんでしょう!?証拠はすべて、あなたが犯人だと証明している!あなたに残された道は――ただ一つ、罪を認めることだけよ!」怒声が響き渡る中、俺は静かに、昨日朝美から託された特製の衛星電話を取り出した。裁判所にいる全員の視線を一身に浴びながら、唯一登録された番号をダイヤルし、スピーカーモードに切り替える。会場全体が、一瞬で水を打ったように静まり返った。呼び出し音が途切れ――裁判所の大画面に、老いていながらも威厳に満ちた一人の人物の姿が映し出された。その瞬間、傍聴席にいた全ての高級将校、そして審判長までもが、一斉に立ち上がり、厳かに敬礼した。「……長官!?」逸斗の顔から血の気が一気に引き、青白くなった。雅子は土気色になり、手が微かに震えていた。全身から、底冷えする恐怖が滲み出ている。俺はその懐かしい顔を見た瞬間、目の端が熱くなった。胸の奥でずっと押し殺してきた無念が、一気に溢れ出そうになる。映像の中の、「長官」と呼ばれた老人が、力強い、しかし穏やかな声で言い放った。「罪を認める?……俺の一番弟子が、いったい何の罪を認めるというのだ?」
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第6話
その瞬間、裁判所は水を打ったように静まり返った。全ての視線が、大画面に映る──俺が「先生」と呼ぶ、あの長官へと集まる。その姿を見た途端、俺はもう涙をこらえ切れなくなった。「『星火計画』を盗んだ、だと?」先生は笑った。だが、その目には冷たい殺意しかいなかった。目に見えない威圧感が裁判所を満たし、誰もがうつむき、彼の目を直視できずにいた。「朝美、話してくれ。どういうことだ?」先生の視線が、傍聴席の朝美へと向けられる。朝美は静かに立ち上がり、画面の前に進み出て、淡々と報告を始めた。「秦隊長の部下である通訳者、小林逸斗は、自身の回線が『稲妻』作戦の核心を傍受したと主張し、道言琉生が我が国の秘密情報を敵国に漏洩した疑いがある……と申し立てております」先生の表情が、一瞬で曇った。その顔色を見た雅子は、慌てて前に踏み出し、声を張り上げる。「長官!私、秦雅子です!小林逸斗は我が隊の一番優秀な通訳者です。彼は確信しております、機密を漏らしたのは道言琉生だと!それに……道言琉生と長年、寝食を共にしてきたのは私だけです。『稲妻』作戦の核心を知り得る者は、彼以外にはおりません!」逸斗も必死に頷き、声を震わせて叫ぶ。「その通りです!道言琉生は既に認めております!我々が傍受したパラメータこそが、『稲妻』作戦の核心そのものだと!ですから……彼以外に犯人はいないのです!」二人の訴えに、先生の眉間に深い皺が刻まれた。審判長を始めとする将校たちは息を潜めていたが、やがて審判長が恐る恐る進み出た。「長官、まずはこちらのUSBメモリの証拠をご覧いただけますでしょうか」先生は雅子が差し出した証拠をしばらく凝視し、低く呟くように言った。「確かに……『稲妻』作戦に見える」その言葉が終わらぬうちに、逸斗が勝ち誇ったように叫び上げた。「ほら、そうでしょう!道言琉生は裏切り者です!審判長!長官もお認めです、これは『稲妻』作戦だと!今すぐ彼を拘束すべきです!」裁判所のあちこちから怒号が湧き上がる。「そうだ!道言琉生は国賊だ!死刑にせよ!」「裏切り者に生きる価値はない!」雅子も俺を振り返り、隠しきれない勝ち誇った笑みを浮かべた。「道言、今なら自ら罪を認めれば、まだ刑を軽くしてもらえるかもしれ
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第7話
結婚して五年、俺は一度も雅子にこのことを話さなかった。本来なら、彼女が『影武者』技術を完全に習得した時点で、『星火計画』の存在を伝えるつもりだった。以前、俺は雅子を『星火計画』の候補に推挙し、先生も了承していた。あとは時機を待つだけだったのだ。だが、まさか雅子が俺から学んだ『影武者』を利用し、逸斗と手を組んで、俺をあれほど冷酷に裏切るとは思わなかった。「ち、違う……そんなの、絶対に嘘だ!」逸斗は全身の力が抜け、その場に崩れ落ちた。先生の鋭い視線が、逸斗を切り裂くように走る。「小林逸斗。お前の身から押収されたサファイアは、A国製の最新盗聴装置と確認された。弁明の権利はある。言いたいことは――取調室で、十分に話せ」先生の目は冷徹に光り、淡々と通告した。誰も、事態がここまで一転するとは思っていなかった。一瞬で、全てが逆転した。先生の言葉が落ちた瞬間、先生の護衛が裁判所に踏み込み、なおも必死に言い訳を叫ぶ逸斗を両脇から拘束、連行していった。「違う!雅子さん!助けて!どうか助けてくれ――!!」雅子は魂が抜けたようにその場に崩れ落ち、生気を完全に失っていた。そして連行される直前、彼女が俺を見た目には、深く、ねじれた憎悪が刻まれていた。雅子は独房へと収監され、俺はその場で無罪を宣告された。裁判が終わり、俺は深く、深く息を吐いた。朝美が湯気の立つお湯を差し出し、ほっとしたように微笑んだ。「やっぱり、先生を失望させなかったね」「先生は最初から分かってたんだろう?前もって君に調査させたんだから。あの年で、どうしてあんな芝居が好きなんだ?全部、君が甘やかすからだよな」朝美は照れたように鼻をこすった。「そんなに、ばれていたの?」俺の視線に、彼女は思わず笑い出した。「分かった、分かった。次からは先生と一緒に気をつけるよ!さあ、行こう。先生が家で待っている。おばさんも、琉生の大好物の団子を作ってくれているから」先生の家へ向かう道中、俺はまだどこか現実感のない気持ちを抱えていた。「琉生、朝美、よく来たね!あの人はね、ずっと二人の話ばかりよ。さあ、早く入りなさい!」先生の奥様が温かく迎えてくれた。そして、二度の人生をかけても忘れられなかったその姿が、再び俺の視界に現れた瞬間――こ
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第8話
先生は怒りで全身を震わせ、俺の頬を力一杯殴った。「琉生……お前は、わしをそのように見ていたのか?」幼い頃からずっと、先生が俺に手を上げたのは、あの時が初めてだった。俺は腫れ上がった頬を押さえ、悔しさと悲しみで胸が張り裂けそうになり、その場を走り去った。雅子に「結婚するなら、家族には報告しないの?」と聞かれても、俺は頑なに孤児だと主張し、先生の存在を隠し通した。その後、俺は意地になって、一年もの間、先生と一切連絡を取らなかった。『星火計画』への参加を打診するため、朝美が俺を訪ねてきた時、初めて知ったのだ、あの一言で、先生は激怒のあまり倒れかけ、体調まで崩していたことを。それが、俺が初めて先生に、心の底からの罪悪感を抱いた瞬間だった。朝美に促されるまま、すぐに先生の家へと向かった。「朝美、彼を帰らせなさい」先生は俺に会おうとせず、朝美も困り果てていた。「先生の体調が少し落ち着いたら、また来ましょう。今は……」だが、俺は真っ赤に腫れ上がった目を拭いもせず、先生の部屋の前でひざまずいた。ドアが開かなければ、このまま外で跪き続けるだけだ。真冬の厳しい風雪の中、俺は十数時間、凍てつく地面に膝をつき続けた。意識が朦朧としてきたその時、朝美が現れた。彼女は弱り切った俺を病院まで運んだ。意識が遠のく直前、俺は深いため息を聞いた。次に目を覚ました時、先生が俺の枕元に座っていた。胸が一気に熱くなり、涙があふれた。俺は起き上がり、声を震わせて詫びた。「先生……僕が悪かったんです!本当に分かっています!どうか、どうか僕を見捨てないでください……!」「まったく……お前にはしょうがないな」先生の目も、赤く染まっていた。かつてのように、どんなに俺が過ちを犯しても、受け止めてくれるその姿だった。だが、俺の過ちの果実は、全て俺自身が味わうことになった。無実の罪で投獄されても、先生は俺の冤罪を晴らすため、奔走してくれた。しかし、ついに証拠を掴んだその時には、俺はすでに獄中で酷い拷問を受け、無念のうちに息を引き取っていた。あれもこれも――雅子と逸斗がもたらした地獄だった。俺が唯一、裏切ってしまったのは、先生ただ一人だった。前世の記憶が洪水のように押し寄せ、涙は止めようにも止まらなかった。
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第9話
それでも、俺の胸を満たすのは、深い、重い罪悪感だった。前世の俺は雅子を盲信し、救いようのない愚か者だった。あの頃の俺は、雅子がただ任務を遂行しているだけだと信じ込んでいた。だからこそ、あの取調室での「深情」を演じた言葉も真に受け、知っていること、秘密の全てを、ありったけ吐き出してしまったのだ。その結果、それは俺自身の心臓を貫く、最も鋭い刃となった。それだけでは終わらなかった。俺の先生の正体を知った途端、雅子と逸斗は獄中で「仕組み」を整え、俺に地獄の日々を味わわせた。息を引き取る数日前まで、その苦痛を一秒たりとも忘れることはなかった。そして――俺が死んだ後、あの二人が国にどれほどの損害をもたらしたか。特に『星火計画』を……!あれは俺一人のものではない。無数の人々が膨大な時間と心血を注ぎ、積み上げてきた結晶だ。神が哀れんだのか、俺はこうして生まれ変わった。地獄の底から這い上がった理由はただ一つ――雅子と逸斗への復讐だ。「先生……こうしてまた、お会いできて本当に嬉しいです」先生は少し戸惑ったような表情で俺を見つめた。「馬鹿な子だな。何を言っている?数日前にも会ったばかりだろう」俺は先生の優しい眼差しを見つめ、静かに頷いた。前世に起きた全ては、もう悪夢として閉じ込めておこう。今は、その悪夢がようやく終わったのだ。その時、朝美がスマホを確認し、俺に向かって言った。「琉生、秦雅子の判決が下りた。スパイとの結託、反逆罪で、刑は……死刑だ」その瞬間、先生も朝美も、慎重に俺の表情をうかがった。当時、俺が雅子との結婚にどれほど執着し、周囲を混乱させたか、先生も朝美も知っている。「……会いに行くつもり?」朝美はためらいながら続けた。「でも、できれば……行かない方がいいと思う」言い終わらないうちに、俺は冷たい笑みを漏らした。「もちろん行くよ」俺は雅子の末路を、この目でしっかりと見届けてやる。朝美と共に刑務所へ向かう途中、彼女は何度も俺を引き止めようとした。「やっぱり……やめた方がいいんじゃない?」俺は首を横に振った。彼女の心配そうな顔を見た瞬間、胸の奥がほんの少し、温かくなった。「大丈夫だよ――ただ秦雅子に、はっきり伝えておくべきことがあるんだ」朝美は俺の
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第10話
「道言!嘘つけ!」俺は笑みを消し、冷徹な視線で雅子を見下ろした。「そう思いたいなら、そうしていればいい」一瞬で、面会室の空気が凍りついた。雅子は青ざめた顔でその場に崩れ落ち、目に深い絶望が色濃くにじんだ。しばらくして、もう何も言わないかと思ったその時、彼女がぱっと顔を上げた。「琉生、あなたには何か方法があるんでしょう?私はあなたの妻よ。あなたなら……私を助けられるはずよ」彼女の目には、かすかな希望が灯っていた。俺は小さく舌打ちし、嘲るように言った。「どうして俺があなたを助けなければいけないんだ?取引をするなら、まずは誠意を見せろよ」空気が再び張り詰める。雅子が動かないのを見て、俺はしょうがなく首を横に振った。あれほど誇り高かった彼女が、誰かに頭を下げるなんてあり得ないと思ったからだ。――ドサッ。雅子が、俺の目の前で両膝をつき、その顔は屈辱で歪んでいた。「琉生、お願い……助けて……まだ死にたくない!」俺は一瞬固まり、そして胸の奥で、滑稽さと怒りが沸き上がった。雅子のような人間が、死を恐れるなんて。死の恐怖に負けて、あの誇りを折り、俺に命乞いをするなんて。「秦、今のお前……尻尾を振ってすがりつく犬みたいだな」雅子の身体が強張り、額は床に押しつけられたままだった。彼女はかすれた声で、必死に懇願した。「琉生……頼む……助けて……」俺は笑いすぎて、涙がこぼれそうになった。あの時、俺は今の彼女と同じように跪き、救いを求めたのだ。だが彼女はどうした?俺をもっと深い地獄へ突き落とした。「こっちは犬みたいに跪けば許す、なんて言ってないよ!」「道言琉生!!」雅子は激怒し、拳で防弾ガラスを殴りつけた。拳から血がしたたり落ちたが、防弾ガラスは微動だにしない。俺は身を乗り出し、冷たい笑みを浮かべた。「雅子、前世で俺がお前に懇願した時……お前、一度でも情けをかけたか?」雅子の顔色が一変した。俺はその表情を愉しむように、言葉を続けた。「お前は自分の手で俺を死に追いやった。だから俺は地獄から這い上がり、お前に命を返してもらいに来た……覚悟はできているか?」彼女の目に宿る恐怖が、俺を大いに満足させた。彼女は監視カメラに向かって叫び出す。「道言琉生は狂ってる!
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