LOGIN勝戦の祝賀会で、妻の秦雅子(はた まさこ)は「証拠」と称するものを持ち出し、皆の前で俺を拘束した。 「道言琉生(どうごん るい)、あなたは『稲妻』作戦を敵に漏洩し、内通した疑いがある!」 彼女の背後で、通訳者の小林逸斗(こばやし はやと)が俺を見る目に、抑えきれない喜びと挑発が浮かんでいた。まるで「これでお前の負けだ」と告げているようだった。 前世、俺は確かに完膚なきまでに敗北した。 無実の罪を着せられ、拘置所でありとあらゆる拷問を受け、無残な最期を遂げたのだ。 そして彼らは、俺の功績を踏み台にした。一人は栄転を果たし、一人は「英雄の夫」として祭り上げられた。 再び目を開けた時、俺はちょうど雅子が手錠をかけようとしていた、まさにその瞬間に戻っていた。 今度は、静かに笑みを浮かべた。 彼女の驚きに満ちた視線をまともに受け止めながら、俺は素直に両手を差し出して言う。 「秦隊長。あなたが俺を糾弾するために使っている戦術は、すべて、俺が教えたものだぞ。 俺が『自白』する時には……お前、その自信をまだ保っていられるといいな」
View More「道言!嘘つけ!」俺は笑みを消し、冷徹な視線で雅子を見下ろした。「そう思いたいなら、そうしていればいい」一瞬で、面会室の空気が凍りついた。雅子は青ざめた顔でその場に崩れ落ち、目に深い絶望が色濃くにじんだ。しばらくして、もう何も言わないかと思ったその時、彼女がぱっと顔を上げた。「琉生、あなたには何か方法があるんでしょう?私はあなたの妻よ。あなたなら……私を助けられるはずよ」彼女の目には、かすかな希望が灯っていた。俺は小さく舌打ちし、嘲るように言った。「どうして俺があなたを助けなければいけないんだ?取引をするなら、まずは誠意を見せろよ」空気が再び張り詰める。雅子が動かないのを見て、俺はしょうがなく首を横に振った。あれほど誇り高かった彼女が、誰かに頭を下げるなんてあり得ないと思ったからだ。――ドサッ。雅子が、俺の目の前で両膝をつき、その顔は屈辱で歪んでいた。「琉生、お願い……助けて……まだ死にたくない!」俺は一瞬固まり、そして胸の奥で、滑稽さと怒りが沸き上がった。雅子のような人間が、死を恐れるなんて。死の恐怖に負けて、あの誇りを折り、俺に命乞いをするなんて。「秦、今のお前……尻尾を振ってすがりつく犬みたいだな」雅子の身体が強張り、額は床に押しつけられたままだった。彼女はかすれた声で、必死に懇願した。「琉生……頼む……助けて……」俺は笑いすぎて、涙がこぼれそうになった。あの時、俺は今の彼女と同じように跪き、救いを求めたのだ。だが彼女はどうした?俺をもっと深い地獄へ突き落とした。「こっちは犬みたいに跪けば許す、なんて言ってないよ!」「道言琉生!!」雅子は激怒し、拳で防弾ガラスを殴りつけた。拳から血がしたたり落ちたが、防弾ガラスは微動だにしない。俺は身を乗り出し、冷たい笑みを浮かべた。「雅子、前世で俺がお前に懇願した時……お前、一度でも情けをかけたか?」雅子の顔色が一変した。俺はその表情を愉しむように、言葉を続けた。「お前は自分の手で俺を死に追いやった。だから俺は地獄から這い上がり、お前に命を返してもらいに来た……覚悟はできているか?」彼女の目に宿る恐怖が、俺を大いに満足させた。彼女は監視カメラに向かって叫び出す。「道言琉生は狂ってる!
それでも、俺の胸を満たすのは、深い、重い罪悪感だった。前世の俺は雅子を盲信し、救いようのない愚か者だった。あの頃の俺は、雅子がただ任務を遂行しているだけだと信じ込んでいた。だからこそ、あの取調室での「深情」を演じた言葉も真に受け、知っていること、秘密の全てを、ありったけ吐き出してしまったのだ。その結果、それは俺自身の心臓を貫く、最も鋭い刃となった。それだけでは終わらなかった。俺の先生の正体を知った途端、雅子と逸斗は獄中で「仕組み」を整え、俺に地獄の日々を味わわせた。息を引き取る数日前まで、その苦痛を一秒たりとも忘れることはなかった。そして――俺が死んだ後、あの二人が国にどれほどの損害をもたらしたか。特に『星火計画』を……!あれは俺一人のものではない。無数の人々が膨大な時間と心血を注ぎ、積み上げてきた結晶だ。神が哀れんだのか、俺はこうして生まれ変わった。地獄の底から這い上がった理由はただ一つ――雅子と逸斗への復讐だ。「先生……こうしてまた、お会いできて本当に嬉しいです」先生は少し戸惑ったような表情で俺を見つめた。「馬鹿な子だな。何を言っている?数日前にも会ったばかりだろう」俺は先生の優しい眼差しを見つめ、静かに頷いた。前世に起きた全ては、もう悪夢として閉じ込めておこう。今は、その悪夢がようやく終わったのだ。その時、朝美がスマホを確認し、俺に向かって言った。「琉生、秦雅子の判決が下りた。スパイとの結託、反逆罪で、刑は……死刑だ」その瞬間、先生も朝美も、慎重に俺の表情をうかがった。当時、俺が雅子との結婚にどれほど執着し、周囲を混乱させたか、先生も朝美も知っている。「……会いに行くつもり?」朝美はためらいながら続けた。「でも、できれば……行かない方がいいと思う」言い終わらないうちに、俺は冷たい笑みを漏らした。「もちろん行くよ」俺は雅子の末路を、この目でしっかりと見届けてやる。朝美と共に刑務所へ向かう途中、彼女は何度も俺を引き止めようとした。「やっぱり……やめた方がいいんじゃない?」俺は首を横に振った。彼女の心配そうな顔を見た瞬間、胸の奥がほんの少し、温かくなった。「大丈夫だよ――ただ秦雅子に、はっきり伝えておくべきことがあるんだ」朝美は俺の
先生は怒りで全身を震わせ、俺の頬を力一杯殴った。「琉生……お前は、わしをそのように見ていたのか?」幼い頃からずっと、先生が俺に手を上げたのは、あの時が初めてだった。俺は腫れ上がった頬を押さえ、悔しさと悲しみで胸が張り裂けそうになり、その場を走り去った。雅子に「結婚するなら、家族には報告しないの?」と聞かれても、俺は頑なに孤児だと主張し、先生の存在を隠し通した。その後、俺は意地になって、一年もの間、先生と一切連絡を取らなかった。『星火計画』への参加を打診するため、朝美が俺を訪ねてきた時、初めて知ったのだ、あの一言で、先生は激怒のあまり倒れかけ、体調まで崩していたことを。それが、俺が初めて先生に、心の底からの罪悪感を抱いた瞬間だった。朝美に促されるまま、すぐに先生の家へと向かった。「朝美、彼を帰らせなさい」先生は俺に会おうとせず、朝美も困り果てていた。「先生の体調が少し落ち着いたら、また来ましょう。今は……」だが、俺は真っ赤に腫れ上がった目を拭いもせず、先生の部屋の前でひざまずいた。ドアが開かなければ、このまま外で跪き続けるだけだ。真冬の厳しい風雪の中、俺は十数時間、凍てつく地面に膝をつき続けた。意識が朦朧としてきたその時、朝美が現れた。彼女は弱り切った俺を病院まで運んだ。意識が遠のく直前、俺は深いため息を聞いた。次に目を覚ました時、先生が俺の枕元に座っていた。胸が一気に熱くなり、涙があふれた。俺は起き上がり、声を震わせて詫びた。「先生……僕が悪かったんです!本当に分かっています!どうか、どうか僕を見捨てないでください……!」「まったく……お前にはしょうがないな」先生の目も、赤く染まっていた。かつてのように、どんなに俺が過ちを犯しても、受け止めてくれるその姿だった。だが、俺の過ちの果実は、全て俺自身が味わうことになった。無実の罪で投獄されても、先生は俺の冤罪を晴らすため、奔走してくれた。しかし、ついに証拠を掴んだその時には、俺はすでに獄中で酷い拷問を受け、無念のうちに息を引き取っていた。あれもこれも――雅子と逸斗がもたらした地獄だった。俺が唯一、裏切ってしまったのは、先生ただ一人だった。前世の記憶が洪水のように押し寄せ、涙は止めようにも止まらなかった。
結婚して五年、俺は一度も雅子にこのことを話さなかった。本来なら、彼女が『影武者』技術を完全に習得した時点で、『星火計画』の存在を伝えるつもりだった。以前、俺は雅子を『星火計画』の候補に推挙し、先生も了承していた。あとは時機を待つだけだったのだ。だが、まさか雅子が俺から学んだ『影武者』を利用し、逸斗と手を組んで、俺をあれほど冷酷に裏切るとは思わなかった。「ち、違う……そんなの、絶対に嘘だ!」逸斗は全身の力が抜け、その場に崩れ落ちた。先生の鋭い視線が、逸斗を切り裂くように走る。「小林逸斗。お前の身から押収されたサファイアは、A国製の最新盗聴装置と確認された。弁明の権利はある。言いたいことは――取調室で、十分に話せ」先生の目は冷徹に光り、淡々と通告した。誰も、事態がここまで一転するとは思っていなかった。一瞬で、全てが逆転した。先生の言葉が落ちた瞬間、先生の護衛が裁判所に踏み込み、なおも必死に言い訳を叫ぶ逸斗を両脇から拘束、連行していった。「違う!雅子さん!助けて!どうか助けてくれ――!!」雅子は魂が抜けたようにその場に崩れ落ち、生気を完全に失っていた。そして連行される直前、彼女が俺を見た目には、深く、ねじれた憎悪が刻まれていた。雅子は独房へと収監され、俺はその場で無罪を宣告された。裁判が終わり、俺は深く、深く息を吐いた。朝美が湯気の立つお湯を差し出し、ほっとしたように微笑んだ。「やっぱり、先生を失望させなかったね」「先生は最初から分かってたんだろう?前もって君に調査させたんだから。あの年で、どうしてあんな芝居が好きなんだ?全部、君が甘やかすからだよな」朝美は照れたように鼻をこすった。「そんなに、ばれていたの?」俺の視線に、彼女は思わず笑い出した。「分かった、分かった。次からは先生と一緒に気をつけるよ!さあ、行こう。先生が家で待っている。おばさんも、琉生の大好物の団子を作ってくれているから」先生の家へ向かう道中、俺はまだどこか現実感のない気持ちを抱えていた。「琉生、朝美、よく来たね!あの人はね、ずっと二人の話ばかりよ。さあ、早く入りなさい!」先生の奥様が温かく迎えてくれた。そして、二度の人生をかけても忘れられなかったその姿が、再び俺の視界に現れた瞬間――こ