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第5話

Auteur: 緋色の追憶
記念日の出来事から数日後、春樹は弁護士を送り込み、『株式贈与及び後見人変更協議書』という書類を寧々に差し出した。

弁護士は無表情で条項を読み上げる。

その内容は、寧々が自ら保有する菅野グループの全株式を放棄し、それを真紀と、真紀が将来産む子供に贈与するというものだった。

「菅野様の伝言です。こちらの書類にご署名し、ご反省の意を示していただければ、真紀様はすぐに立ち去ります。そして、高柳様も本邸へ復帰し、以前と変わりない生活に戻れるのです」

寧々はその書類を手に取り、指先を微かに震わせることさえしなかった。

経済的な支え?息子の親権?

命の残り時間がわずかで、静けさを求めるだけの自分にとって、そんなものに一体何の意味があるというのだろう。

むしろ、これはあまりに遅すぎた、所有権と罰をめぐる滑稽な茶番にすぎない。

「ペンを」

彼女はそう言って手を差し出した。その平静さに、弁護士は一瞬たじろいだ。

弁護士が躊躇いがちにペンを渡した。寧々は条項に目を通すことさえせず、最後のページに迷いなく署名した。

筆跡は凛として、少しの迷いも見せなかった。

「どうぞ」

書類を手渡すその仕草は、どうでもいい小包の受領書にサインをするかのようだった。

弁護士が呆然とした面持ちで部屋を去ってから間もなく、ドアが激しく開かれた。

真っ先に飛び込んできたのは春樹だ。

彼の顔の筋肉は怒りに歪み、先ほど寧々が署名した書類を手にしている。彼は数歩で寧々の前に迫ると、その書類を彼女の顔面に叩きつけた。

「寧々!お前、サインしたのか?よくもこんなことを!?」

彼の声が部屋の中で不気味に響き渡る。

「これはお前の持っていた株だぞ!優希の将来だぞ!中身も確かめずに、こんな簡単にサインしやがって!

お前にはそれがどうでもいいのか?俺のこと、この家のこと、どうでもいいのか?お前の息子の将来までも、他人に簡単に譲り渡すっていうのか!?」

その後ろから飛び込んできた優希は、顔を真っ青にしている。

その目には、裏切られたという驚愕と怒りが渦巻いていた。

彼は寧々の前に駆け寄り、声を震わせて叫んだ。

「お母さん、正気かよ!?僕のものを、あの女の子供にやるっていうのか!?僕のこと、全然考えてくれてるの!?

世界で一番愛してるって、全部嘘だったのか!?お母さんは自分しか愛してないんだ! 自分勝手な意地だけが大切なんだ!」

寧々は顔を上げ、目の前で激怒する、野獣のような親子を見つめた。

彼らの怒りはあまりにも真に迫っていた。そして同時に、あまりにも滑稽だった。

彼らは財産を奪うことで彼女を脅せば、彼女が苦しみ、屈服する姿が見られると信じていた。

だが、まさか彼女がそれらすべてをきっぱりと手放すとは思ってもみなかった。

「だったら、どうしろというの?」寧々は淡々と、しかし疲れきった声で言った。

「あなたは記念日で私を辱め、優希は将来で脅した。それで私を屈服させようとしたんじゃないの?」

彼女は春樹を見据え、はっきりと告げた。

「これで、あなたの望み通りになったわ。株もいらない。菅野夫人の座も、もう結構」

そして優希へと視線を移す。胸はすでに麻痺していて、痛みさえ感じない。

「あなたはもう十八歳。親の庇護が必要な子供じゃない。これから先、誰をお母さんだと思おうと、あなたの勝手よ」

彼女はほんのわずか、冷たい笑みを浮かべた。

「これで、満足してくれたかしら?そっとしておいてもらえない?」

彼女はまるで、どうでもいいゴミでも捨てるかのように、そう言い放った。

彼らが何より大切にしてきたものを、彼女は言葉で徹底的に否定してみせた。その言葉が、彼らの怒りに、さらに油を注ぐことになった。

春樹は突然手を振り上げ、殴りかかるつもりだった。

しかしその手は空中で激しく震え、結局は横の壁に激しく叩きつけられた。鈍い音が響く。

彼は追い詰められた獅子のように、血走った目で彼女を睨みつけた。

優希は力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。

「どうしてそんなことができるんだよ!そんなのおかしいだろ!もっと怒鳴れよ!騒げよ! 今までのお母さんはそうじゃなかった!」

彼らが求めていたのは、彼らの仕打ちに抵抗して苦しんでいる寧々だった。

彼らが決して受け入れられなかったのは、抵抗すらせず、彼らを完全に無視する寧々だった。

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