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砂上の幻

ผู้เขียน: 中岡 始
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-08-29 15:44:03

砂は風の指先に遊ばれ、夜明けの色をひそやかに映していた。

少年は、竜のいる石室を背にして立っていた。

背には旅の袋、乾いた足元には踏みならされていない白砂。彼はまだためらっていた。数歩進めば、外の世界が彼をのみ込んでいく。けれど、振り返ってしまえば…たぶん戻れない。

背中の奥、心の奥で、何かが揺れていた。それは名のない感情だった。名前をつければ、きっと壊れてしまうような、繊細なものだった。

竜は何も言わなかった。言葉を持たない獣の沈黙は、時に人の沈黙より雄弁だ。

その眼差しはただ、ひとつの光を追っていた。少年の肩越しに見える朝の兆し。そこに、希望と名づけるにはあまりにも儚い、けれど確かに温かいものが滲んでいた。

少年はようやく、ゆっくりと一歩を踏み出した。

その足取りは決して迷いなくはなかった。砂に沈むたび、少しだけ振り返りたくなる。だが振り返らなかった。もう一度見てしまえば、きっと胸の奥で何かが崩れてしまうことを知っていた。

砂漠に幻が咲くという。旅人が渇きに惑い、見るはずのない泉を見る。けれど、今、少年の心には確かに水があった。ほんの少し、けれど確かに。

竜は、その背中を見ていた。

ただ見ていた。

見送ることしかできなかった。

自分が閉ざされてきたこの石室には、誰かを繋ぎ止める鎖はなかった。あるのは、呪いと傷だけ。

だが、その朝。

少年のいた場所に、わずかな置き土産が残されていた。

水瓶。ひび割れた古い皮の袋の中には、最後の一滴の水が底に揺れていた。

竜はその匂いを嗅ぎ取った。人の手の匂い、水の匂い…そして、もっと微かな…花の匂い。

その香りに導かれるように、竜は水瓶を嗅ぎ、覗き込んだ。

袋の内側に、小さな、乾いた粒がひとつ、張りついていた。

それは、種だった。

花の種。

砂漠では決して芽吹かぬはずの、小さな命の予兆。

それは少年が運んできたもの。いや、少年の身体のどこかから零れ落ちた“存在の証”だった。

竜の心がわずかに動いた。

水に触れた指先が、ぬるく濡れた。その温度は、水そのものの熱ではなかった。手の奥で、長く忘れていた感覚が目覚めかけていた。

誰かがここにいたということ。

誰かが自分を見てくれたということ。

それは、空の石室にとってあまりにも大きな出来事だった。

少年が幻だったのか、それとも夢だったのか。

それは、竜にもわからなかった。

けれど、確かにここに存在して、去っていった。

そして、種を残した。

――もしそれが咲くのだとしたら。

水があれば。風があれば。ほんの少しの陽が差せば。

竜の目がゆっくりと閉じられた。

それは眠りではなかった。祈りのような、あるいは受け入れるような、深い呼吸だった。

アミールの声が、物語の終わりを告げるように低く響いた。

「それは…ただの幻だったかもしれない」

彼のまなざしは、王の方を向いていた。

「けれど、種は確かに残っていたのです」

王サリームは、その視線を受け止めきれず、目を伏せた。

手に握っていた杯が、ぬるくなっていた。香の煙がもうほとんど立ち上っていなかった。

「幻を語って、何になる」

そう呟いた声は、掠れていた。

アミールは静かに笑った。

「幻だからこそ、語るのです」

サリームの中で何かがざわめいた。

アミールの顔がぼやけて見えた。煙のせいではなかった。記憶と現在が重なり、彼の輪郭が曖昧になる。

ザイードの最後の夜も、あの月の夜も、記憶の底にあった泉の瞳も…すべてが混じり合っていく。

「お前は…」

声にならなかった。

アミールは微笑んでいた。

その笑みに、確信はなかった。けれど、たしかに何かを宿していた。

まるで王自身が作り出した幻を、アミールがそのまま引き受けて存在しているかのように。

王は、目を閉じた。

その奥に揺れていたのは、少年の背中。去っていく者の輪郭。残された種の重さ。

そして、今目の前にいるこの語り部の声。

幻かもしれない。けれど、確かにそこにいる。

その矛盾こそが、胸を締めつけるのだった。

香炉の底で、火が小さく弾けた。

乾いた音だった。だが、胸のどこかに、確かに沁みた。

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