LOGIN4年という時間の中で、私はもう余裕を持って彼と向き合えるようになっていた。「佐藤社長のご指導のおかげです」その時、搭乗便の案内アナウンスが流れた。女性の声は柔らかく、それでいてはっきりと響いていた。勲の性格なら、私たちの会話はここで終わるはずだった。けれど、彼はもう一度口を開いた。「聞いた。今は1人なんだってな」少し間を置いて、続ける。「もう一度、やり直せないか?」体の横に下ろしていた私の手が、わずかにこわばった。私は顔を上げ、彼を見た。年月を重ねても、彼は変わらなかった。数年経った今も、彼は変わらず冷たく、気高い雰囲気をまとっていた。ただ、その瞳には以前にはなかった迷
あまりにも真剣だったから、一度は向き合ってみてもいいのかもしれないと思った。ある時、彼が39度の熱を出した。私は遅くまで残業した後、彼の家へ見舞いに行った。彼は1人で布団にくるまり、熱で顔を真っ赤にしていた。私を見ると、彼の瞳が嬉しそうに輝いた。私はベッドのそばに立った。その時、最初に浮かんだのは心配ではなく――「明日の朝、報告があるから、長くはいられない」口に出した瞬間、自分でも呆然とした。いつから私は、誰よりも仕事を優先する人間になったのだろう。彼は私を責めなかった。ただ、その後少しずつ距離ができていった。別れの日、彼は言った。「君は……僕のことを愛していないみたい
週末になると、勲は佐藤家の本邸へ食事に戻った。勲の父は決算資料をめくりながら、珍しく満足げな表情を浮かべ、いつものような言葉を口にした。「昔から言うだろう。先に家庭を築いて、それから事業を成せと。お前も今では仕事が安定した。そろそろ家庭を持ってもいい頃だ」勲は料理を取ろうとしていた手を一瞬止めた。けれど、何も答えなかった。勲の父はふと思い出したように続ける。「そういえば、以前、彼女を連れて帰ってくるつもりだと言っていたじゃないか?」勲は視線を落とし、無意識に指へ力が入った。箸先が茶碗の縁で、しばらく動かなかった。「彼女は遠出している。また今度だ」しかし今回、彼の『後輩ちゃん
眠っている時、彼のあごは私の頭の上に乗っていて、呼吸は穏やかで、規則正しかった。私が夢から目を覚ました時、空はまだ完全には明るくなっていなかった。窓の外の湖は静まり返っていた。月明かりが水面に落ち、砕けた光が一枚一枚、銀箔のように揺れている。その時、スマホの画面がふっと光った。午前1時17分。着信が1件。――勲。私はその名前を、画面が暗くなってはまた明るくなるまで、長い間見つめ続けた。電話に出ると、彼の呼吸が聞こえた。重く、少し乱れている。きっと酒を飲んでいるのだろう。やがて彼が口を開いた。声は低く、少しかすれていた。「茜」彼がこう呼ぶのは、二人きりの時だけだった。
私たちは笑った。北村恵(きたむら めぐみ)は、会社にいる嫌な部署マネージャーの話をした。彼女が上司の話し方を真似するのがあまりにも上手で、私は机に突っ伏して笑い、涙まで流した。真田真央(さなだ まお)は、お見合いで出会った変な男たちの話をした。一人ひとりが、本当にありえない人ばかりだった。私はグラスを掲げて彼女と乾杯し、帰ったら一緒にお見合いをしようと言った。私たちは泣いた。誰が最初に言い出したのかは分からないけど、いつの間にか話題は勲へと移っていた。恵が、恐る恐る彼を責めるように言った。「なんであんなことするの……」その瞬間、私の涙がこぼれ落ちた。どうしても止められなかった
会議が終わったのは、夜7時だった。解散後、彼は再びオフィスへ戻り、溜まっていた書類を一つずつ処理していく。アシスタントは3度もコーヒーを運んだ。そのたびに目にしたのは、デスクライトの下に座り、わずかに眉を寄せながら書類へ目を落とす勲の姿だった。ペン先が紙の上を滑る音だけが、静かな室内に響いていた。窓の外は、いつの間にか真っ暗になっていた。深夜11時。ようやく彼は最後のフォルダを閉じ、コートを手に取って、オフィスを出た。オープンオフィスの照明はすでに消えており、廊下の足元灯だけが淡く灯っていた。あの空になった席の横を通り過ぎる時。彼の足は、1秒たりとも止まらず、そのまま前へ進ん