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last update Date de publication: 2026-01-17 18:57:46

 パンコーナーでも渋滞は起きていない。

 軽量のシリコントングは子供の手でも扱いやすく、クロワッサンを潰すことなく軽快に皿に移されていく。

 ロビーまで伸びていた行列が、見る見るうちに消化されていった。

 ダイニング内は満席だが、料理を取るための殺伐とした列はない。ほどよい喧騒が戻っていた。本来のBGMであるクラシック音楽が、優雅に室内に響き渡っている。

 厨房の奥から、総料理長が震える足取りで出てきた。彼はダイニングの光景を呆然と見つめた。

「……美しい」

 彼は呟いた。客たちがストレスなく料理を楽しみ、スタッフも補充に追われることなく笑顔でサービスをしている。

 かつて彼が守ろうとしていた格式よりも、遥かに洗練された空間がそこにあった。

「まるで、料理と人が踊っているようだ……」

 総料理長は小夜子の前に歩み寄り、深々と頭を下げた。

「私の負けです、奥様。銀のトングは、言いつけどおり売り払います

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     ロビーの中央では、小夜子が御子柴と向き合っていた。 御子柴は浴衣に着替えたものの、寒さのせいか、それとも極度の緊張のせいか、膝の上に置かれた指先が青白く硬直していた。「失礼します」 小夜子が救急箱を広げて、消毒液を浸したガーゼを取り出した。 彼女は御子柴の額にある傷を、一切の迷いなく拭い始める。「……チッ」 御子柴の口から、微かな声が漏れた。 彼は痛みに耐えるように奥歯を噛み締めている。小夜子の手つきは驚くほど優しく、そして淀みがない。 翔吾は少し離れた場所から、その様子を観察していた。 あんなに冷酷で、最新のAIや圧倒的な資本で武装していた男が、今はただの一人の無力な人間に見える。 小夜子の指先が触れるたび、御子柴の肩が小さく跳ねる。(どんなに偉そうなことを言っても、結局は血の通った人間なんだな。寒ければ凍えるし、怪我をすれば痛がる。……当たり前のことなのに、なぜか不思議な気分だ) 翔吾は自らの内にあった敵意が、妙な形に波打つのを感じていた。 そこへ奥から香ばしい出汁の匂いが漂ってきた。「はいよ! 出来立てだ。熱いうちに食いな!」 板前が、カセットコンロで熱せられた大きな土鍋を運んできた。 蓋を開けた瞬間、真っ白な湯気が立ち上って大地の香りがロビー全体を満たした。 それは先日集めた『里山の宝物』の残りを使った雑炊だった。 細かく刻まれた原木椎茸と甘みの強い大根、彩りの良いカブの葉。それらが、透き通った出汁の中で宝石のように輝いている。 ぐつぐつと湯気の立つ鍋は、いかにも美味しそうだ。「……何だ、これは。せせらぎ亭は物資不足ではないのか?」 御子柴が、警戒するように土鍋を見つめた。(物資不足を知っている。やっぱりこの前の業者の差し止めも、御子柴の仕業か) 翔吾は苦い思いを抱きながらも、表情にでないように注意した。「雑炊ですよ。この山で

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