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第13話「薄れゆく輪郭」

Penulis: ちばぢぃ
last update Tanggal publikasi: 2026-03-17 20:30:23

朝の教室は、いつもより少し静かだった。

シュウは窓際の席で、昨夜の倉庫での出来事をノートに書き留めていた。ページの端に、リナの幼い姿のスケッチを小さく描き加える。赤い目の人形は、すでに引き出しの奥にしまってある。

タクミが隣に座り、声を低くした。

タクミ「リナ、大丈夫か? 昨夜から連絡来てねえぞ」

シュウはペンを止めた。

シュウ「朝、LINEが来た。『今日は美術部のコンクール準備で遅くなる』って。……普通の文面だった」

タクミはため息をついた。

タクミ「普通すぎるのが、逆に怖えよ」

ホームルームのチャイムが鳴り、担任が入ってきた。いつもの挨拶、連絡事項。だが、シュウの耳には、すべて遠く聞こえた。

昼休み。校舎の裏のベンチに、五人が再び集まった。

ケンタはサッカーボールを膝に置き、地面をじっと見つめている。カナエはテニスラケットを膝に抱え、リナはスケッチブックを閉じたままだった。

シュウが口を開いた。

シュウ「昨夜のことは……ありがとう。リナの記憶が、少し戻った」

リナは小さく頷いた。

リナ「うん……ありがとう。でも、私……」

言葉が途切れる。リナはスケッチブックを強く握った。

リナ「今日、美術部の顧問に呼ばれてさ。『お前、最近集中できてないだろ。コンクール近いんだぞ』って。……確かに、そうだと思う」

カナエが膝のラケットを撫でながら、続けた。

カナエ「私も……合宿のバス、明日朝発なんだ。監督に『体調管理は自己責任』って言われてて。もう、抜けられない」

ケンタはボールを地面に落とし、軽く蹴った。ボールが転がって、フェンスに当たる。

ケンタ「俺も……レギュラー争いが本格化してさ。監督が『お前、最近浮ついてるぞ』って。練習サボったら、即ベンチだ」

タクミが苛立たしげに髪をかき上げた。

タクミ「みんな……また、離れるのかよ」

沈黙が落ちた。

シュウは静かに言った。

シュウ「無理に集めようとは思わない。昨夜は、みんなが来てくれた。それだけで……十分だった」

ケンタが顔を上げた。目が少し赤い。

ケンタ「シュウ……俺、逃げてるみたいで嫌なんだ。でも、今は……サッカーが、俺の全部なんだ」

カナエの声が震えた。

カナエ「私も……テニスを辞めたら、何も残らない気がする。星見キッズは大事だけど……今は、部活が私の居場所で」

リナはスケッチブックを開き、泣き顔の人形の絵を指でなぞった。

リナ「私も……絵を描くことで、忘れたくないことを覚えておける。でも、事件に巻き込まれ続けると……描けなくなるかも」

タクミが立ち上がった。拳を握り、声が低く響く。

タクミ「わかったよ。……みんな、自分の道を行け。俺はシュウと一緒に、残る」

シュウはゆっくりと立ち上がった。五人の視線が、自分に集まる。

シュウ「星見キッズは……解散じゃない。ただ、休止だ。いつか、みんなが必要になった時……また集まればいい」

ケンタがボールを拾い上げ、軽く蹴った。

ケンタ「その時が来たら……俺、絶対来るから」

カナエはラケットを肩にかけ、微笑んだ。少し無理した笑顔だった。

カナエ「私も……テニスで強くなって、戻ってくるよ」

リナはスケッチブックを胸に抱き、頷いた。

リナ「絵で……みんなのことを描き続ける。忘れないように」

五人は、互いに視線を交わした。

誰も言葉を発さなかった。ただ、静かに頷き合う。

ケンタが最初に歩き出した。

ケンタ「じゃあな。また……」

カナエが続いた。

カナエ「合宿から帰ったら、連絡するね」

リナは最後に、シュウとタクミに小さく手を振った。

リナ「ありがとう……本当に」

三人の背中が、校舎の角に消えていく。

残されたシュウとタクミは、ベンチに座り直した。

タクミ「絆って……そう簡単には戻らねえな」

シュウは空を見上げた。雲がゆっくり流れている。

シュウ「でも……切れたわけじゃない。ただ、伸びてるだけだ」

タクミは小さく笑った。

タクミ「詩人みたいだな、お前」

シュウも笑った。久しぶりの、軽い笑いだった。

シュウ「これからも……二人で続けるよ。星見キッズの名は、守る」

タクミは拳を差し出した。

タクミ「当たり前だろ。名探偵シュウと、相棒のタクミ」

シュウは拳を合わせた。

シュウ「そうだな」

夕陽が二人の影を長く伸ばした。

校舎の向こうから、かすかなチャイムの音が聞こえた。

放課後の終わりを告げる音。

三人はそれぞれの道へ戻った。

だが、どこかで、五つの心は、まだ繋がっていた。

薄れゆく輪郭の向こうに、次の光が待っていることを、誰も知らないまま。

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