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第14話「二人だけの足跡」

Auteur: ちばぢぃ
last update Date de publication: 2026-03-18 08:30:57

朝の教室は、いつもより空気が重く感じられた。

シュウは窓際の席で、事件ノートを広げていた。ページの最後に、昨日の五人の集合写真を挟み込んでいる。裏側に、赤いペンで書かれた文字が、まだ鮮やかだ。

『五番目の記憶は、君たち自身の中にある』

タクミが隣の席に座り、声を低く抑えた。

タクミ「今日も、ケンタたち来ねえな」

シュウはノートを閉じた。

シュウ「来ないよ。もう、決めたんだ」

タクミは窓の外を見た。校庭では、サッカー部の朝練が始まっている。ケンタの姿が、遠くに小さく見えた。ボールを蹴る動作はいつも通りだが、どこかぎこちない。

タクミ「カナエは合宿でいないし、リナは美術室に籠もってるって聞いた。……完全に、戻っちゃったな」

シュウはメガネをクイッと上げた。いつもの癖だが、今日は指が少し震えている。

シュウ「それでいいんだ。俺たちが無理に引き止める権利はない」

タクミは机に肘をつき、ため息を吐いた。

タクミ「でもよ……昨夜の倉庫で、リナの記憶が戻った瞬間。あの涙。あれ見て、俺、思ったんだ。星見キッズは、まだ必要だって」

シュウは静かに頷いた。

シュウ「必要だ。でも、今は……違う形の必要さ」

昼休み。二人は校舎の屋上へ上がった。新校舎の屋上は、鍵がかかっている。旧校舎の屋上へ向かう階段を上る。

屋上は風が強く、制服の裾がはためく。

シュウはフェンスに寄りかかり、空を見上げた。

シュウ「高槻の次の手は、まだ来ない」

タクミは床に座り込み、膝を抱えた。

タクミ「来ねえ方がいいだろ。もう、十分だ」

シュウはポケットから、昨夜のリナから受け取った人形を取り出した。赤い目は、もう塗りつぶされていない。ただの黒いガラス玉に戻っている。

シュウ「これ……リナの記憶の鍵だった。でも、今はただの人形だ」

タクミが人形を手に取り、じっと見た。

タクミ「リナが泣いてた顔……忘れられねえよ。あんなに、脆かったなんて」

シュウは小さく息を吐いた。

シュウ「みんな、脆いんだ。俺も、タクミも。事件を解決するたび、何かを失ってる」

タクミは人形をシュウに返した。

タクミ「じゃあ……これから、どうすんだ?」

シュウは人形をポケットに戻した。

シュウ「待つ。次のメッセージが来るまで。来なかったら……それで終わりだ」

タクミは立ち上がり、フェンスに両手を置いた。

タクミ「終わりでいいのか?」

シュウは少し考えて、答えた。

シュウ「終わりじゃなくて、休止だ。いつか、みんながまた必要になった時……その時が来るまで、俺たちはここにいる」

タクミは空を見上げ、笑った。少し寂しげな笑いだった。

タクミ「相棒って、こういうことか」

シュウも小さく笑った。

シュウ「そうだな」

放課後。二人は校門を出た。いつも五人で歩いていた道を、二人だけで歩く。

道端に落ちた桜の葉が、風に舞う。

タクミが突然立ち止まった。

タクミ「おい、シュウ」

シュウが振り返る。

タクミ「俺さ……バスケ部、辞めようかと思ってた。でも、やめねえことにした」

シュウの目がわずかに見開かれた。

シュウ「どうして?」

タクミは肩をすくめた。

タクミ「星見キッズが休止になった今、俺も自分の場所を探さないと……って思ったんだ。バスケやってる時だけ、頭が空っぽになる。事件のこと、考えなくて済む」

シュウは静かに頷いた。

シュウ「それでいい。俺も……探偵を、休むかもしれない」

タクミが驚いた顔をした。

タクミ「マジか?」

シュウは前を向いて歩き始めた。

シュウ「事件が来なければ、来ない。それでいい。俺は……普通の中学生を、やってみる」

二人は並んで歩いた。足音が、揃う。

夕陽が二人の背中を赤く染め、長い影を地面に落とす。

遠くの校舎から、部活の歓声が聞こえてきた。サッカー部の、テニス部の、美術部の。

それぞれの場所で、仲間たちが笑っている。

シュウとタクミは、振り返らなかった。

ただ、前を向いて歩き続けた。

二人の足跡だけが、静かに道に残った。

そして、星見中学校の空は、ゆっくりと夜色に変わっていった。

どこかで、まだ小さな泣き声が聞こえる気がした。

だが、それはもう、遠い記憶の残響だったのかもしれない。

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