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第12話「五人の影と一つの光」

Author: ちばぢぃ
last update publish date: 2026-03-17 08:30:41

旧校舎の屋上は、夜風が強く吹き抜けていた。月は雲に隠れ、街灯の淡い光だけが五人の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。

シュウは中央に立ち、人形を足元に置いた。赤い目が、月明かりのない闇の中で不気味に光る。

シュウ「まず、状況を整理しよう」

ケンタがサッカーボールを足で軽く転がしながら、口を開いた。

ケンタ「俺、昨日まで『もう事件とか関わりたくねえ』って思ってた。でも……人形の写真見た瞬間、胸がざわついたんだ。夢に出てくるくらい、怖かった」

リナはスケッチブックを胸に抱きしめ、声を震わせた。

リナ「私も……あの赤い目、毎日見てる気がする。絵を描いても、描いても、消しても、朝になるとまた同じ顔が浮かんでくるの」

カナエは膝を抱えて座り込み、髪を指でいじりながら言った。

カナエ「テニス部の合宿、明日からなのに……監督に『集中しろ』って怒られた。でも、こんなの放っておけないよ」

タクミはフェンスに背を預け、腕を組んだ。

タクミ「結局、俺たち五人とも……逃げられなかったってことだな」

シュウはゆっくりと頷いた。

シュウ「高槻零は倒れた。でも、彼が始めた『ゲーム』は、まだ終わっていない。装置は壊したけど、記憶の断片がどこかに残ってる。もしくは……新しい管理人が、引き継いでいる」

ケンタがボールを強く踏みつけた。ゴムが軋む音が響く。

ケンタ「新しい管理人って……誰だよ。俺たちの中にいるってことか?」

リナの目が大きく見開かれた。

リナ「まさか……そんな」

シュウは首を振った。

シュウ「違う。外部の誰かだ。でも、俺たちをよく知っている。星見キッズの名前を知ってるし、五人が集まることを予測してる」

カナエが立ち上がった。声が少し大きくなった。

カナエ「じゃあ、どうするの? また人形を探す? メモを探す? それとも……待つだけ?」

シュウは人形を拾い上げ、背中の蓋を開けた。今回はスピーカーだけでなく、小さな紙片が入っていた。折りたたまれたメモ。

シュウは広げて読んだ。

『第12の謎。失われた五番目の記憶を探せ。ヒントは、君たちが最初に集まった場所』

五人が同時に顔を見合わせた。

タクミ「最初に集まった場所……星見小学校の屋上か?」

ケンタ「いや、待て。あそこはもう使われてねえし、鍵もかかってるはずだ」

リナが小さく呟いた。

リナ「違う……もっと前。星見キッズが『生まれた』場所」

カナエの目が輝いた。

カナエ「学校の裏の、古い倉庫! 小学校一年生の時、雨宿りしてて、そこで『探偵ごっこ』始めたよね」

シュウは頷いた。記憶が鮮やかに蘇る。

シュウ「あの倉庫……今も残ってるはずだ。新校舎の建設で一部壊されたけど、裏側の古い部分は残ってる」

タクミが拳を握った。

タクミ「今すぐ行こう。夜のうちに」

ケンタ「待てよ。警備員いるだろ。深夜にうろついたら、捕まる」

リナ「でも……待ってたら、また誰かが消えるかもしれない」

五人の視線が、互いに交錯した。

シュウ「行く。だが、慎重に。俺とタクミが先に行って様子を見る。カナエ、ケンタ、リナは校門の外で待機。異常があったら、すぐに連絡」

カナエ「わかった。でも……絶対、無茶しないで」

シュウは小さく微笑んだ。

シュウ「約束する」

深夜零時を少し過ぎた頃。

星見中学校の裏手、古い倉庫の鉄扉は錆びついて音を立てた。シュウとタクミは懐中電灯を最小限に絞り、隙間から中を覗いた。

埃っぽい空気。古い机、壊れた椅子、積まれた段ボール。

シュウ「入るぞ」

二人は中へ滑り込んだ。足音を殺し、奥へ進む。

中央の机の上に、何かが置かれていた。

小さな箱。黒いリボンで結ばれている。

シュウは近づき、リボンを解いた。

中には、五枚の写真。

一枚目は、小学校一年生の五人。笑顔でピースサインをしている。

二枚目は、同じ五人だが、少し成長した姿。中学入学直前の集合写真。

三枚目、四枚目……そして五枚目。

五枚目は、最近のもの。昨日の屋上での五人。月明かりの下で手を重ねている瞬間。

タクミの息が止まった。

タクミ「誰が……撮ったんだよ、これ」

シュウは写真を裏返した。五枚すべてに、同じ文字が赤いペンで書かれていた。

『五番目の記憶は、君たち自身の中にある』

その瞬間、倉庫の奥から、かすかな音がした。

……泣き声。

今まで聞いたどの泣き声よりも、近くて、はっきりしている。

シュウとタクミは同時に振り向いた。

暗闇の奥、積まれた段ボールの隙間から、何かが動いた。

小さな影。子供の姿。泣き顔の人形を抱えた、女の子のシルエット。

女の子「……見つけた」

声は幼く、震えていた。

シュウは一歩踏み出した。

シュウ「君は……誰?」

女の子はゆっくりと顔を上げた。月明かりが差し込み、顔がはっきり見えた。

それは、リナに似ていた。いや、リナの幼い頃の姿に、そっくりだった。

女の子「五番目の記憶……リナちゃんの、忘れたこと」

タクミが息を飲んだ。

タクミ「リナ……?」

女の子は人形を胸に抱きしめ、涙を流した。

女の子「私……ずっと、ここにいたの。みんなが忘れた、私の記憶」

シュウの頭に、閃くものがあった。

小学校一年生の時。雨の日に倉庫で遊んでいた五人。リナが、突然泣き出したことがあった。

「みんな、私のこと嫌いになった?」

あの時、リナは一人で倉庫に残り、夜遅くまで泣いていた。シュウたちは探しに行ったが、見つからず、先生に怒られて解散した。

翌日、リナは笑顔で登校した。誰も、あの夜のことを話さなかった。

シュウ「……リナの、忘れられた記憶」

女の子は頷いた。

女の子「高槻さんが、私をここに閉じ込めたの。みんなが忘れたら、私も消えるって」

タクミが声を荒げた。

タクミ「そんなの……ありえねえ! リナは今、外で待ってる!」

女の子は悲しげに微笑んだ。

女の子「外にいるリナちゃんは、私の半分。忘れた部分が、私」

シュウはゆっくりと近づいた。

シュウ「なら……君を、連れ戻す。リナの記憶を、全部取り戻す」

女の子は人形を差し出した。

女の子「これ……持ってて。鍵になるから」

シュウが人形を受け取った瞬間、女の子の姿が薄れ始めた。

女の子「ありがとう……シュウくん」

影が溶けるように消えた。

倉庫の中に、静寂が戻った。

タクミが震える声で言った。

タクミ「今のは……何だったんだ」

シュウは人形を強く握った。

シュウ「五番目の記憶……リナの忘れられた部分だ」

二人は倉庫を出た。外で待っていた三人に向かって走る。

リナが、月明かりの下で立っていた。顔が青ざめている。

リナ「……何か、変な夢見た気がする」

シュウは人形をリナに差し出した。

シュウ「これ……君のものだ」

リナは人形を受け取り、じっと見つめた。

リナの目から、涙が溢れた。

リナ「私……あの夜、みんなに置いてかれたと思って……ずっと、怖かった」

カナエがリナを抱きしめた。

カナエ「ごめんね……気づいてあげられなくて」

ケンタが肩を落とした。

ケンタ「俺も……悪かった」

タクミがリナの頭を軽く叩いた。

タクミ「もう、忘れなくていい。全部、覚えてろ」

リナは頷き、人形を胸に抱いた。

リナ「うん……ありがとう」

シュウは五人を見回した。

シュウ「これで……一つ、終わった。でも、まだゲームは続く」

月が雲から顔を出し、五人を優しく照らした。

泣き声は、もう聞こえなかった。

代わりに、五人の息遣いが、静かに響いていた。

星見キッズの絆は、再び強くなった。

だが、次の謎は、すでに影の中で息を潜めていた。

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