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第16話「誰もいない階段の囁き」

ผู้เขียน: ちばぢぃ
last update วันที่เผยแพร่: 2026-03-19 08:30:43

深夜の新校舎は、息を潜めているように静かだった。

シュウは懐中電灯を最小限に絞り、非常階段のドアの前に立っていた。タクミが隣で息を殺し、スマホのライトを床に向けている。二人は鍵をこじ開けるための細い工具を手にしていたが、ドアは意外に簡単に開いた。錆びた蝶番が、かすかな悲鳴のような音を立てる。

シュウ「……開いてる」

タクミ「誰かが、俺たちを待ってるってことか」

階段は下へ下へと続いていた。埃の層が厚く、一段ごとに小さな足跡が点々と残っている。子供の靴底の形。だが、足跡は不規則で、時折途切れ、時折重なっている。まるで同じ場所を何度も往復したかのように。

二人は階段を降り始めた。段数は二十段を超えたあたりで、壁のコンクリートが古びたものに変わった。旧軍施設の痕跡。父の手帳に描かれていた地下通路の入り口だ。

タクミが小声で言った。

タクミ「ここから先、父さんの手帳に地図なかったっけ?」

シュウはポケットから手帳を取り出し、ページをめくった。赤い線で描かれた通路図。だが、最後の部分は空白のまま。途中で途切れている。

シュウ「ここまでしか書いてない。……先は、知らない」

階段の底に着いた。そこは狭い踊り場。壁に古い鉄の扉が一つ。錆びついて開きそうにないが、隙間から冷たい空気が漏れている。

シュウが扉に耳を当てた。

……かすかな音。

ドス……ドス……。

足音。ゆっくりとした、規則正しい歩み。だが、響き方がおかしい。反響が二重に聞こえる。一つは遠く、もう一つはすぐ近く。

タクミも耳を寄せた。顔が青ざめる。

タクミ「二つ……聞こえる」

シュウは懐中電灯を扉の隙間に差し込んだ。向こう側は暗く、何も見えない。だが、光が届いた瞬間、足音がぴたりと止まった。

静寂が、耳を刺す。

シュウ「……気づかれた」

タクミが扉の取っ手に手をかけ、力を込めた。軋む音が響く。扉が数センチ開いた。

中は広い空間だった。旧軍の保管庫か、何かの実験室か。壁に古い棚が並び、埃まみれのファイルが積まれている。中央に、古い机。机の上に、何かが置かれていた。

小さなランプ。青白い光を放ち、点滅している。

シュウとタクミは中へ入った。足音を殺して机に近づく。

ランプの横に、一枚の紙。

手書きの文字。赤いインク。

『ここまで来てくれたね。名探偵』

紙の下に、小さな鏡が置かれている。鏡の表面に、息を吹きかけたような曇りが残っている。曇りの中に、指で書かれた文字。

『後ろを見て』

二人は同時に振り向いた。

誰もいない。

だが、扉の向こうから、また足音が聞こえてきた。今度は、ゆっくりと近づいてくる。

ドス……ドス……ドス……。

タクミが声を震わせた。

タクミ「戻ってきた……」

シュウはランプを手に取り、光を扉に向けた。

足音が止まる。

代わりに、囁き声が響いた。

囁き「……まだ、早いよ」

声は女の子のもので、幼い。だが、響きに歪みがある。エコーが二重に重なる。

シュウ「誰だ」

囁き「……知ってるよ。シュウくんのこと。タクミくんのこと。みんなのこと」

タクミが叫んだ。

タクミ「出てこい!」

声は小さく笑った。

囁き「……出てきたら、怖がる?」

シュウはランプを強く握った。

シュウ「怖がらない。……出てきなさい」

静寂が、数秒続いた。

そして、扉の隙間から、ゆっくりと影が現れた。

小さな影。女の子のシルエット。リナに似ているが、もっと幼い。髪は長く、制服は古いデザイン。顔は見えない。影の奥で、赤い目だけが光っている。

影「……五番目の記憶は、まだ終わってない」

タクミが後ずさった。

タクミ「リナの……記憶?」

影は首を傾げた。

影「……リナちゃんのじゃない。みんなの、五人目の記憶」

シュウの胸がざわついた。

シュウ「五人目……?」

影はゆっくりと近づいてきた。足音が、床に直接響く。

影「……シュウくんが、一番忘れてる記憶」

シュウの指が震えた。

シュウ「……俺の?」

影は頷いた。

影「父さんが、最後に言った言葉。覚えてる?」

シュウの頭に、閃くものがあった。七年前の雨の夜。父が家を出る前、シュウを抱きしめて囁いた言葉。

『シュウ、約束だ。どんなことがあっても、泣かないで』

だが、その言葉の後、父はもう帰らなかった。

シュウ「……泣かないって、約束した」

影は小さく笑った。

影「でも、泣いたよね。あの夜、一人で」

シュウの視界が揺れた。記憶の断片が、洪水のように流れ込んでくる。

幼い自分が、父の部屋で一人泣いている。父の手帳を握りしめ、ページをめくりながら。

そして、手帳の最後の空白ページに、父が最後に書いた文字。

『シュウへ。俺はもう戻れない。でも、お前は泣くな。星を見ろ。星見の空は、いつもお前を見てる』

影が手を伸ばした。

影「……そのページ、覚えてる?」

シュウは手帳を開いた。最後のページは、空白のままだった。だが、よく見ると、薄い鉛筆の跡が浮かんでいる。消しゴムで消された痕跡。

シュウは鉛筆を取り出し、ページを擦った。

文字が浮かび上がる。

『星見の空の下で、待ってる』

影の姿が、ゆっくりと薄れ始めた。

影「……よく、思い出したね」

影は完全に消えた。

足音も、囁きも、すべてが消えた。

残ったのは、青白いランプの光と、二人の荒い息遣いだけ。

タクミが震える声で言った。

タクミ「今のは……何だったんだ」

シュウは手帳を強く握った。

シュウ「五人目の記憶……俺が、一番忘れていたもの」

タクミ「父さんの、最後の言葉……?」

シュウは頷いた。

シュウ「父さんは、死んだんじゃない。どこかで……まだ、待ってるのかもしれない」

ランプの光が、突然強く点滅した。

そして、消えた。

暗闇が、二人の周りを包んだ。

だが、その暗闇の中で、かすかな光が残った。

天井の隅に、小さな星のような光。

シュウはそれを見上げた。

シュウ「……星見の空」

タクミも見上げた。

タクミ「これは……」

二人は暗闇の中で、静かに立っていた。

地下の空に、星が一つ、瞬いている。

それは、まるで……誰かが、見守っている証のように。

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