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Prologue 01

مؤلف: 市瀬雪
last update تاريخ النشر: 2025-09-02 10:39:33

「えっと……とりあえずそれ、着てみて」

「!」

 受け取った制服を手にそのまま棒立ちとなっていた彼に声をかけると、びくりと肩を揺らされた。と同時に、ばさりと持っていたそれが足元に落ちる。

 え……。

 いや……いったいどんな反応だよ。逆にこっちがびっくりするわ……。

 思いながらも拾ってやると、

「あ、ぁ、すみ、ません……」

 途切れ途切れの返事と共に、再びぎこちなく差し出される彼の手。一瞬掠めたその指先は、すっかり血の気が引いたように冷たくなっていた。

「っと……着方……は、わかるよな?」

「だ、大丈夫、……だと、思います……」

「……じゃあ、うん」

 いちいち想定外の彼の様子に、俺まで微妙に戸惑ってしまう。

 けれども、そう言ってからは彼も何とか手を動かして、真新しい制服を一つずつ袋から取り出し始めた。

 真っ白いシャツに黒いリボンタイ。黒いパンツにカマーベスト(ホールに出ないスタッフのベストの着用は任意だが)、そして丈が長めのギャルソンエプロン。

 その一つ一つを、自信なさげに目の前にかざして確認しながら、脱いだ服をロッカーにしまい、順番に袖を通していく。

 河原英理、か。……変わったヤツだな。

 第一印象はそれしかなかった。

 俺は横目にその様子を窺いながらも、ひとまず自分が休憩時間だったことを思い出し、「もう一本だけ……」と、癖のようにポケットを探った。

 けれども、目当てのものはそこにはなくて、

「……」

 ああ、そうか、さっき出しっぱなし――。

 途中で気がついた俺は、さっきまで座っていたソファの方へと目を向けた。

 案の定、傍らのテーブルの上には、見慣れた煙草のソフトケースと100円ライターが置いたままになっていた。

 俺はそれらを手に取ると、早速浮かせた一本をくわえながら振り返る。その先に、ライターを構えながら、

「あ、煙草、吸っていい――」

 か、と今更のように確認しようとしたところで、口許の煙草それがぽろりと落下した。

 見れば彼はまた、まるで金縛りに遭ったかのように動かなくなっていた。俺に背を向けた形で完全に固まっているその様子を、壁際に設置されている姿見を介して窺う。……どうやらエプロンのつけ方がわからなくてそうなってしまったらしい。

「……後ろで結ぶんじゃなくて、一周まわして前で結ぶんだよ」

 ただ腰にあてて、後ろで結ぶだけでは紐が余ってしまう。そんなエプロンの形状に、確かに最初は戸惑うヤツもいるけれど、それにしたってよく見ればだいたいの見当はつかないか……。少なくとも俺はわかったし。

 ……つーか、わからないにしても、その反応は……。

 俺は足元に転がった煙草を拾い上げ、軽く払って口に戻す。

「……貸せ」

 そして気がつくとそう口にしていたのを引っ込めることもできずに、仕方なくいまだ微動だにしない彼の手からエプロンを抜き取った。

 俺が近くに寄ったことで、更に緊張が増したのか、彼はエプロンを持っていた手もそのままにただ立ち尽くしていた。

 だがそれはイコール、逃げることもできないようなので、それをいいことに、構わず俺は彼の腰へと腕を回す。

「こうやってつけるんだよ。わかったか?」

 腰の前で紐を結び、形を整える。ちらりと盗み見るようにして彼の顔を見遣ると、意外にもその手順はしっかりと見ていたようだった。相変わらず不自然なまでに直立不動の姿勢は変わらなかったが、視線はちゃんと俺の手元に向けていたらしい。

 ……っていうか、顔……。……これで厨房かよ。

 近まった距離に、初めてその相貌をちゃんと見た。

 それを隠すように伸ばされた長めの髪の隙間から覗く、戸惑いもあらわなその面持ちは、やはりどこか頼りなさそうではあったけれど、その造作は思いのほか整っており、なにより柔らかで優しい印象を与えるものだった。

 初見で近寄りがたいと思われがちな俺とは正反対だ。

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  • 君にだけは言えない言葉   聖夜によせて(side:暮科静)

     慣れるとか、信じるとか、そんな目に見えない物を拠りどころになんて出来ない。言葉だって同じだ。口先だけならなんとでも言える――。 そう思っていた俺が、「好きだよ」なんて、たったそれだけの言葉でバカみたいにほっとした。 河原が塔子さんとか言う女性を店に連れてきた時、丁度俺は店長に呼ばれて店内にはいなかった。  だけど、二人が退店するまでずっといなかったわけじゃない。 店長室から戻ってみると、厨房とホールを区切る扉の前に木崎が立っていた。  木崎は扉についたマジックミラー越しに、店内の様子を覗き見して

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  • 君にだけは言えない言葉   好きだから 05

     言われてみれば、確かに俺は塔子さんとのことも、特別甲斐に相談していたというわけでもなかった。それでも甲斐はだいたい察してくれていたし、もっと言えば至らない俺のフォローなんかもしてくれていた気がする。だけど、この甲斐の様子からして、それはただ甲斐の勘が良かっただけのことじゃなくて、多分――。 塔子さんは、相談してたんだ。そして、甲斐もそれだけ塔子さんを見ていたということ――。 ああ、俺って本当情けない。周りが見えてないにもほどがある。今頃悔やんでも遅いけど、申し訳なくて堪らない。自分の浅はかさが恥ずかしい。  俺は更にワインを呷った。

  • 君にだけは言えない言葉   好きだから 03

     俺は改めて背筋を伸ばすと、暮科を一瞥し、それからまっすぐ甲斐を見た。「ごめん。ちょっと聞いて」 俺の言葉に、暮科が黙って背を向けようとする。その手を俺はとっさに掴む。「暮科も」 自分でも驚くくらい端的に言うと、暮科も手を振り解くことはしなかった。「俺、今日は二人に、聞いてもらいたいことがあって」 暮科も甲斐も、今度はちゃんと話を聞いてくれるらしい。視線の所在はまちまちだったが、それぞれが俺の声に耳を傾けてくれているのはしっかり伝わってきた。 俺は密やかに深呼吸をして、まずは暮

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