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第4話

Author: あむ
次に目を覚ましたとき、穂乃香は病院のベッドに横たわっていた。

扉の外から、寧々のすすり泣く声が聞こえた。

「どうしましょう……抗生剤と間違えて、睡眠薬を飲ませてしまいました。そんなつもりじゃなかったのに……

本当に何かあったら、重大な医療事故になりますよね……」

続いて、悠真の優しい声がした。

「怖がらなくていい。俺がいる。君に責任は取らせない。

たとえ本当に問題になったとしても、俺が家族として示談書にサインすればいい」

穂乃香は唇を強く噛みしめた。

血の味が口の中に広がる。

それからどれほど経ったのか、病室の扉が開き、悠真が入ってきた。

「私……どうなったの?」

穂乃香は震える声で尋ねた。

「どうして倒れたの?」

「低血糖だ」

その言葉を、彼自身の口から聞いた瞬間、穂乃香は自分の心が音を立てて砕けるのを聞いた気がした。

結婚したばかりの頃のことを、今でも覚えている。

ある名家の令嬢が酒の席でわざと穂乃香に酒を飲ませたことがあった。

すると翌日、悠真はその相手の会社の株価をストップ安に追い込んだ。

その令嬢が穂乃香の前で膝をついて謝ったとき、悠真は彼女の腰を抱き寄せて言った。

「穂乃香。俺がいる限り、誰にも君の指一本触れさせない」

それなのに今、穂乃香は寧々の過失で死にかけたというのに、彼はまだその張本人をかばっている。

悠真――あなたは、どうしてここまで私を傷つけられるの。

痛みで体が震えそうだった。

けれど悠真は、彼女の異変に少しも気づかなかった。

穂乃香に大事がないとわかると、彼は待ちきれないように立ち上がった。

「寧々は君のことで一晩中不安がっていた。先に彼女を送ってくる。あとでまた来るよ」

けれど、それから数日が過ぎても、穂乃香が彼に会うことはなかった。

目に入ってくるのは、SNSに流れてくる写真ばかりだった。

悠真が寧々を連れて海辺へ行き、コンサートへ行き、かつて穂乃香と「いつか一緒に行こう」と約束していた場所を、ひとつずつ巡っている写真だった。

退院の日になって、悠真はようやく姿を見せた。

彼は菊の花束を抱え、車にもたれていた。穂乃香が出てくると、その花束を差し出した。

「最近、会社のことで忙しくて付き添えなかった。

今日はお義母さんの命日だろう。一緒に行くよ」

穂乃香は黙って花を受け取った。

そのとき初めて、車の中に寧々も乗っていることに気づいた。

穂乃香は見なかったことにして、後部座席に乗り込んだ。

窓の外を流れていく景色を眺めながら、母が亡くなる前に言っていた言葉を思い出す。

「穂乃香。お母さんはね、あなたを心から愛してくれる人を見つけてほしいだけよ」

穂乃香はバッグの中に残された三通のラブレターにそっと触れた。

胸の奥に、苦い思いが込み上げる。

お母さん――私、人を間違えてしまったみたい。

霊園に着いてすぐ、穂乃香は墓前に手を合わせる間もなく、思いがけない知らせを受けた。

「青柳様、誠に申し訳ございません。

ここのところ雨が続き、土砂崩れの危険が高まっておりまして……この一帯のお墓は、すべて移転していただく必要がございます」

穂乃香は手にしていたバッグを強く握りしめた。

指の関節が白くなる。

母は生前、静かな場所を何より好んでいた。

それなのに、亡くなってからでさえ安らかに眠ることができないのか。

いつの間にか、悠真が穂乃香の背後に立っていた。

彼は係員から差し出された書類を受け取り、流れるような筆跡で名前を書き込んだ。

「穂乃香。君は先に遺骨を下ろしてきて。俺は墓の移転手続きを済ませてくる」

穂乃香はうなずき、山の上へ向かった。

雨で濡れた石段を、弱りきった体で上っていく。

一歩進むたび、足の裏に刃が食い込むようだった。

母の墓の前では、すでに係員が土を掘り返していた。

穂乃香はぬかるんだ地面に膝をつき、自分の手で母の骨壺を抱き上げた。

それは素朴な天然石の壺だった。

表には、母の名前が刻まれている。

青柳香澄(あおやぎ かすみ)。

「お母様、生前はきっとお綺麗な方だったんでしょうね」

不意に、寧々が口を開いた。

そして手を伸ばす。

「奥様、私が持ちます」

「結構よ」

穂乃香は身を引いて彼女の手を避け、骨壺を大切に抱えたまま、慎重に石段を下りていった。

そのときだった。

寧々が突然、悲鳴を上げた。

「きゃっ!虫!」

慌てた彼女が、勢いよく穂乃香にぶつかってきた。

不意を突かれた穂乃香は、そのまま石段を転げ落ちた。

それでも彼女は骨壺だけは必死に抱きしめた。

背中を石段に強く打ちつけ、痛みで目の前が真っ暗になる。

「ごめんなさい、ごめんなさい!わざとじゃないんです!」

寧々は慌てて駆け下りてきた。

「私が拾います!」

彼女は骨壺に手を伸ばした。

しかし、穂乃香が止める間もなく、寧々は足を滑らせた。

次の瞬間、鈍い音が響いた。

骨壺は地面に叩きつけられ、無残に砕け散った。

灰白色の遺灰があたりにこぼれ、雨に濡れて、たちまち泥に染み込んでいく。

「ごめんなさい!す、すぐ片づけます!」

寧々は取り乱した様子で遺灰をすくい集めようとした。

けれど触れれば触れるほど、遺灰は泥と混ざり、さらに散らばっていく。

降りしきる雨に流され、母の遺灰が少しずつ土の中へ消えていった。

穂乃香の全身が震えた。

もう耐えられなかった。

彼女は寧々の頬を、力いっぱい打った。

「もうやめて!わざとなんでしょう?」

寧々は頬を押さえた。

その目から、すぐに涙があふれ出す。

「違います!私はただ手伝おうとしただけです。

少し不器用だったかもしれません。でも、善意だったんです。

それなのに、どうして責められなきゃいけないんですか。

私はお金がないからって、あなたたちにここまで辱められなきゃいけないんですか?

あなたはお母様の遺灰を失っただけでしょう。

でも私は、尊厳を失ったんです!」

絶望が、穂乃香の頭のてっぺんまで突き上げた。

彼女がもう一度手を上げた瞬間、その腕を強い力でつかまれた。

悠真が、いつの間にかそこに立っていた。

彼は穂乃香の手首をきつくつかみ、怒鳴った。

「穂乃香!何をしている!」

寧々はこらえきれないというように泣き出した。

涙に濡れた顔で、彼に訴える。

「私は、ただ骨壺を運ぶのを手伝おうとしただけなんです……

うっかりこぼしてしまっただけなのに……奥様が私を……

みなさんがそんなに私を受け入れられないなら、私はもう出ていきます」

寧々が一歩踏み出した瞬間、悠真は彼女を腕の中に引き寄せた。

「行くな。君のために、俺がきちんとけじめをつける」

そう言ってから、彼は冷たい目で穂乃香を見た。

「謝れ」

雨が穂乃香の頬を伝い落ちる。

涙と混ざり、どこまでが雨で、どこからが涙なのかもわからなかった。

悠真は寧々の涙を痛ましげに拭いながら、その一方で穂乃香に怒鳴り、謝罪を迫っている。

その光景に、穂乃香の心は生きたままえぐり取られるようだった。

彼女は、唇の震えを抑えきれないまま、彼をにらみつけた。

「悠真……今、聞いていなかったの?彼女は、私の母の遺灰をぶちまけたのよ」

「だからといって、手を上げていい理由にはならない」

悠真の声は、降りつける冷たい雨よりも冷えきっていた。

彼は寧々の手首をつかみ、低く告げた。

「怖がらなくていい。彼女が謝らないうえに君を叩いたのなら、君も叩き返せばいい」

穂乃香は目を大きく見開いた。

何が起きるのか理解するより早く、悠真の節の立った大きな手が寧々の手を包み込んだ。

そしてその手を凄まじい勢いで、穂乃香を容赦なく張り飛ばした。

乾いた音が、雨の中に響く。

その一発は、穂乃香が寧々を打ったときの十倍は重かった。

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