結婚して五年。久瀬悠真(くぜ はるま)は、ひとりの女子大生に心を奪われた。貧しい家庭に育ちながらも、彼女はどこまでも凛としていた。彼女は悠真が差し出したブラックカードにも目もくれず、「誰かに飼われるような生き方はしません」と言い放った。その瞬間、悠真は彼女に囚われた。彼は世間の目も顧みず、その女子大生に猛アタックを始めた。だが、家で待つ妻のことは忘れていた。かつて九十九通ものラブレターを捧げ、ようやく振り向かせた最愛の妻――青柳穂乃香(あおやぎ ほのか)のことを。穂乃香は泣き叫ぶことも、責め立てることもしなかった。ただ、悠真が彼女を傷つけるたびに、かつて彼から贈られたラブレターを一通ずつ燃やした。九十九通すべてが灰になったとき、穂乃香は二度と悠真のもとへは戻らない。一通目を燃やしたのは、結婚記念日の夜だった。悠真は穂乃香との約束を破り、女子大生が働くカフェへ向かった。閉店までただ席に座り、女子大生の仕事が終わるのを待つためだけに。三十六通目を燃やしたのは、穂乃香が四十度の熱を出した夜だった。土砂降りの高速道路で彼女を置き去りにした悠真は、雷を怖がる女子大生のもとへ急いだ。七十二通目を燃やしたのは、リビングから二人の結婚写真が消えた日だった。悠真は女子大生を喜ばせるため、思い出の写真を外し、代わりに彼女が何気なく描いた落書きを飾った。九十五通目のラブレターを燃やしたのは、船上オークションの日だった。悠真は、穂乃香の母の形見を落札するため、彼女に付き添って会場に来ていた。その形見とは、母が生前、何より大切にしていたブルーサファイアのネックレスだ。けれどオークションが始まった直後、悠真は会場でアルバイトをしている例の女子大生を見つけてしまった。彼女がそのネックレスにちらりと目を留めただけで、悠真は迷わず競り上げた。誰も手が出せないような高値で落札すると、その場で彼女に差し出した。「気に入ったみたいだったから、買った」低く甘い声で、彼は尋ねた。「嬉しい?」女子大生は給仕係の制服を着たまま、毅然とした態度で悠真の手を押し返した。「申し訳ありませんが、私は以前にも申し上げました。上流階級の暮らしにも、誰かに囲われることにも興味はありません。何を贈られても気持ちは変
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