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第2話

作者: 花散る樹
家に戻ると、美咲はもう隠すつもりもないのか、あからさまに本性をむき出しにした。

彼女は私の部屋にずかずかと入り込んで、私の車椅子を蹴り倒す。

「あんた、また何か企んでるの?」

私は床に膝をついたまま、押し寄せる激痛に耐えながら、壁に手をついてどうにか体を起こした。

「今の私が、何をしたってもう無駄でしょ」

美咲は私の体を上から下まで値踏みするように眺め、冷たく鼻で笑いながら、一歩ずつ近づいてきた。

「じゃあ、ようやく負けを認める気になったってこと?」

私は苦く笑った。

「うん、私の負け。完全に負けたよ」

空気まで凍りついたような沈黙が落ちた。美咲は眉をひそめ、まるで初対面の人でも見るかのように私を見つめている。

「信じないわ」

彼女はそう言った。

「あんたの絵を全部私に渡すまではね」

子どもの頃から、美咲は私が絵で注目を集めるのが羨ましかったのか、いつも私の真似ばかりしていた。

けれど、彼女には才能がなかった。どれだけ真似をしても、表面をなぞることしかできなかった。それでも諦めきれなかった彼女は、とうとう私の絵を盗み、自分の名前で発表するようになった。

あまりにしつこく付きまとわれたせいで、私はもう何年も絵を描いていない。家族でさえ、一時は私が芸術を諦めたのだと思っていた。

「どうしたの?惜しくなった?やっぱりそうだと思っ……」

「いいよ、渡す」

美咲は信じられないという顔で私を見る。

けれど、絵が一枚、また一枚と本当に彼女の前に並べられていくと、ようやく信じたのか、顔を歪めるほど笑い出した。

彼女は私の髪を乱暴につかみ、言葉を一つ一つ噛みしめるように吐き捨てる。

「本当にバカね。絵まで失ったら、たとえ体が治ったとしても、もう終わりよ!

全部元どおりに戻すって?」

彼女は鼻で笑う。

「私がようやく手に入れた篠原家の嫁の座を、あんたなんかに簡単に譲るわけないでしょ?

安心して。結婚式の日、私はあんたの男と先に寝て、子どもまで産んであげる。あんたが二度と希望なんて持てないように、徹底的に叩き潰してあげるわ」

ちょうどそのとき、階下から母が夕食の時間だと私たちを呼んでいる。

美咲はさっと手を離すと、何事もなかったかのように、また穏やかな令嬢の顔に戻った。

食卓につくと、彼女はさっき私が渡した絵を一枚取り出す。両親は驚きのあまり、手にしていたナイフとフォークまで落としてしまった。

「美咲、いつの間にこんなにすごい腕を身につけたのよ!」

兄も興奮を隠せない様子だ。

「俺が保証する。この絵は絶対に高値で売れる」

その夜、兄はすぐにその絵をオークションサイトに出品した。すると間もなく、有名なコレクターに高額で買い取られた。

そして翌朝、美咲の名前はSNSやネットで大きく取り上げられるようになった。

彼らが浮かれて喜ぶ姿を見ても、私の心は少しも揺れなかった。

私の心臓は、あと数日で完全に止まってしまう。

そのとき、彼らの笑顔も一緒に消えるのだろうか……

この一件の反響は大きかった。その後の数日間、家の前には常に記者たちが押し寄せ、誰もが突然現れたこの「天才画家」に取材したがっている。

カメラの前で、母は嬉しさのあまり涙を流す。

「あの時、事故に遭ったのが美咲じゃなくて本当によかったわ。そうでなければ、うちは天才を一人失うところだったもの!」

母は大勢の前で、祖母が遺した大切なネックレスを美咲に贈った。そのネックレスは、祖母が私に遺してくれたものだった。

私の目がすっと翳った。そのとき、記者たちが絵の着想をどこから得たのかと尋ね始める。

美咲は少し考えてから、頬を赤らめながら言った。

「婚約者から着想を得ました」

記者たちはたちまち色めき立った。

「婚約者の方はどなたですか?その方も芸術関係のお仕事をされているのですか?」

美咲が一瞬ためらうと、父がマイクを奪うように受け取り、誇らしげに言った。

「篠原グループの後継者、篠原蓮です!」

このインタビューは大きな話題となり、「財閥の妻」、「天才画家」という肩書きは、瞬く間に世間の注目を集める。

そして蓮の父、篠原辰彦(しのはら たつひこ)まで自ら姿を現し、美咲を篠原家の嫁として公式的に認めた。

美咲の目標は、ついに達成した。

彼女は勝ち誇ったように私を見る。

「お姉ちゃん、やりすぎたんじゃない?これで本当に後戻りできなくなったね」

私はかすかに笑った。

「私は最初から後戻りするつもりなんてなかったけどね。本気で美咲の幸せを願ってる」

「あんた……!」

美咲は今にも私を叩こうと手を振り上げた。だがその瞬間、入口に蓮の姿が目に入る。

「蓮さん、どうして来たの?」

彼女は駆け寄って蓮の腕に絡みついたが、彼はそっと身をかわした。彼女の頭を軽く撫で、蓮は優しい声で言った。

「ちょっと席を外してくれ。お姉さんと少し話がしたい」

美咲は不満げに部屋を出ていったが、去り際にこっそり私をにらんだ。

私はそれに微笑みで返した。

「美月」

蓮は私の手を強く握る。

「誤解しないでくれ。君が思っているようなことじゃない。

本当は、ことが落ち着くまで黙っているつもりだった。でも父がそれを許さなかったんだ。美咲を表に立てれば、会社にとって大きな宣伝になるって……だから……」

「説明はいらない」

私は手を引き抜き、一歩後ろへ下がった。

「あの子があなたに嫁ぐのは事実だもの。あなたは悪いことなんてしてないよ。

それに、私だって気づいてたから」

「何に?」

彼は眉をひそめた。

「あなたの服にいつも残っていたジャスミンの香水の匂い。車の中に時々落ちていたリップ。それから、私に会うたび、無意識にあの子のほうを気にしていた視線……全部、気づいてたよ」

「もういい!」

蓮は少し顔を赤らめて怒った。私もそれ以上話を続ける気にはなれなかった。彼は険しい顔のまま立ち去り、私は表情ひとつ変えずに背を向けて、再び絵を描き始める。

美咲は絵で名が売れてから、三日に一枚は絵を仕上げろと私を脅すようになった。

描かなければ薬を取り上げ、一生治らない体にしてやると言うのだ。

けれど彼女は知らない。私には、そもそも薬なんて必要ないということを。

それでも私は受け入れた。

どうせ死ぬまでに描ける絵は、たった二枚だけだから。

でも、その二枚だけで彼女が一生名声を保てるはずもない。私が死んだあと、彼女がどんな目に遭うのか、今から楽しみだ。

ある日、兄はドアを開けた拍子に、絵を描いている私を目にした。

すると彼は鼻で笑って言った。

「かつては十年以上も絵を描いていたくせに、あっさり諦めたと思ったら、今さら美咲が絵で売れ始めたからって、また筆を取るの?笑わせないでくれ。

諦めたほうがいい。お前は一生かかっても、美咲には追いつけないだろ」

絵筆を握っていた私の手がぴたりと止まり、目の光が少しずつ失われていった。美咲が家に引き取られてきたばかりの頃のことを思い出す。あのとき兄は私の前に立ち、彼女にこう釘を刺した。

「もし俺の妹をいじめたら、すぐにでも施設へ送り返すからな」

けれど、彼女が成長するにつれて、すべては変わってしまった。

私は何をやっても彼女より優れていた。けれど、それも美咲が心臓の持病を抱えているという事実の前では、何の意味も持てなかった。

たとえ大会で最下位になっても、彼女は胸を押さえながら両親の前で涙をこぼし、大事な場面で発作が起きたせいで失敗したのだと訴えた。何度も倒れては、目を覚ましたあと、赤く腫れた目で皆を見つめながらこう言うのだ。

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん、死にたくない。みんなと離れたくないよ」

家族はそのたびに胸を痛め、次第に私のことを顧みなくなり、すべては彼女を守ることへ向けるようになっていった。

美咲はその隙につけ込み、私に罪をなすりつけて、家族との距離を少しずつ広げていった。

兄が出ていったあと、私はアトリエの中で長いあいだ呆然と座り込んでいた。それから、ようやく電話をかける。

「交通事故の調査結果は出ましたか?」

相手は一瞬沈黙し、重い口調で答えた。

「白石さん、あの事故は偶然ではありません。調査の結果、後部座席のドアには細工がされており、完全に開かない状態になっていました。

さらに防犯カメラの映像を確認したところ、衝突してきた車は意図的に角度を調整し、衝撃がちょうどあなたの座っていた後部座席側のドアに集中するよう仕向けていました。

車が横転した場合、運転席からは比較的容易に脱出できます。助手席は車体に押しつぶされる形にはなりますが、後部座席ほど圧迫されることはなく、救助もしやすい位置でした。

これはあらかじめ仕組まれた殺人です。何かお心当たりはございますか?」

私は指先に力を込めすぎて、関節が白くなるのを感じた。そして誕生日パーティーが終わったあと、美咲が車酔いすると言って助手席に座りたがったことを思い出した。

そういうことだったのか。

私は探偵の問いには答えず、資料を整理してメールで送るよう、それだけを告げた。

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