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第6話

작가: ネコ助
湊の表情は和らいでいた。まるで、これまでのすべてがもう水に流されたかのように。

けれど私は、もう二度と元には戻れないのだと知っていた。

「湊、結婚しなくていい。私たち、別れましょう」

湊は呆気にとられたように私を見たあと、言い聞かせるように言った。

「また怒りに任せてそんなことを言う。俺と心春は何もない。彼女は自分からブライズメイドを務めたいと言ってくれたんだよ。それでもまだ安心できないのか?」

私は皮肉っぽく口元を上げたが、言い返す気にもならなかった。

どうせ、あと三日しかないのだから。

ところが翌朝、秘書の小谷が大勢のボディーガードを連れてきて、私を無理やり採血室へ連れていった。

彼女の話では、心春が湊の結婚式のリハーサルに付き添っているとき、ステージから転げ落ち、輸血が必要になったらしい。

採血室の中で、湊は焦った様子で行ったり来たりしていた。

心春は車椅子に座り、彼の気遣いを満喫しながら、挑発するように私を見ていた。

いわゆる傷口とは、彼女の足首にできた五センチほどの切り傷だった。出血量は10ミリリットルにも満たなかった。

湊は看護師を待ちきれず、低い声で命じた。

「早く採血しろ」

看護師は逆らえず、私の腕に採血用の針を刺した。

「ごめん、千夏。心春は君のために式場を確認していて転んだんだ。だから君にも、彼女を助ける責任がある。君は恵まれた暮らしをしてきたし、体だって丈夫だろう。少し血を抜くくらい平気だ。心春が落ち着いたら、すぐに式を挙げよう」

けれど血管から抜かれた血は、淡いピンク色をしていた。

湊は息をのんだ。

それが白血病の末期症状だとは知らなくても、明らかに異常だということだけはわかった。

心春は目を泳がせると、わざと車椅子から降りようともがいてみせた。

「湊さん、千夏さんはそんなに私に血を分けたくないんだね……わざと血の色がおかしく見えるようにするなんて。もういい、無理にお願いしないで。少し出血しただけだし、私は平気だから」

笑えてきた。

湊の目の前で私の血管に針を刺したのに、私にいったいどんな細工ができるというのだろう。

それなのに湊は立ち上がり、冷たい声で命じた。

「千夏、危うく君の芝居に騙されるところだった。小谷、千夏から目を離すな。ちゃんと赤い血が抜けるまで、採血を続けろ」

そう言うと、湊は心春の車椅子を押し、診察室のほうへ向かった。

壁一枚隔てた向こうから、医師の声が聞こえてくる。

「少し貧血気味ではありますが、輸血が必要な状態ではありません」

湊はきっぱりと言った。

「だめです。心春に万が一のことがあったらどうするんですか!」

私のそばでは、何人ものボディーガードが目を光らせていた。手足を押さえつけられ、私は身動き一つできない。

時間だけが、一秒、また一秒と過ぎていった。

八百ミリリットルも抜かれたころには、血管はしぼみ、ほとんど血が出なくなっていた。それでも私の血はピンク色のままで、むしろ少しずつ色が薄くなっていった。

秘書の表情がこわばった。息も絶え絶えの私を見て、怯えた声で湊に報告した。

「社長、もう八百ミリリットル抜きました。ですが——」

湊は冷たく叱りつけた。

「足りない!千夏に伝えろ。俺が一番いい薬と栄養のあるもので、彼女の体を回復させてやる。もう少しだけ耐えろと!」

私の目からは、もう何の感情も消えていた。

私はスマホを取り出し、葬儀社にメッセージを送った。

今日、私の遺体を引き取ってほしい、と。

血が抜かれていくにつれて、体温も少しずつ冷えていった。

朦朧とする意識の中で、私の頭はかくんと傾き、闇に沈んだ。

三十分後、秘書が震える手で、ピンク色の血が入った大きな採血バッグを三つ差し出した。

それを見た湊は、怒りで顔を歪めた。

「何だ、これは。お前まで千夏と一緒になって、俺を騙すつもりか?」

彼は怒りに任せて隣の部屋へ向かった。

私を問い詰めるつもりだったのだろう。

秘書は一瞬呆然としたあと、泣きそうな顔で言った。

「一条社長……ご存じなかったんですか。東雲さんの血は、社長が抜かせ続けたせいで、もう……東雲さんは、亡くなりました」

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