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第25話

Auteur: ひまわり
箱の中に入っていたのは、またしても一通の書類だった。

開けてみると、なんとそこにはケンノア芸術大学の入学許可通知書が入っていた。

志保の瞳がふと揺れ、思わず星也を見つめた。

どうして彼が、ずっと夢に見てきたあの芸術大学を知っているの?

このところ、志保はケンノア芸術大学の入試に向けて準備を続けていた。画力を磨くだけでなく、理論を学び、美術史を体系的に理解したい。

ケンノア芸術大学の入試は極めて厳しく、学長もまた一癖も二癖もある人物だ。権力や金だけでは決して門をくぐれない。実力のない者には縁のない場所。

なのに星也は、いったいどうやって?

志保の驚きと喜びが入り混じった表情を見て、星也は彼女のために選んだこのプレゼントは、やはり正解だと分かった。

星也はふわりと彼女の頭を撫でながら微笑む。

「安心して。これはちゃんと正当な手続きを経た合格通知だよ。僕はただ君の作品を学長に届けただけ。

彼はすぐにその絵の中に宿る才能を見抜いた。その場で『ぜひ入学させたい』って言ってくれたんだ」

それほどまでに評価されたことが、志保の胸を熱くする。思わず、心からの笑顔がこぼれた。

「このプレゼント、すごく嬉しい。ありがとう、星也さん」

今年の誕生日。

栄蔵は彼女に「自由」を、星也は「夢を追いかける翼」を与えてくれた。

こんなに幸せだと感じた誕生日は、初めてだった。

「旦那様、大変です!」

そのとき、執事の野中が息を切らして駆け込んできた。

「旦那様、石川さんがまた来ました!

今度はどういうわけか激しく取り乱していて、『絶対に離婚しない』と門の前で大声を上げています!」

栄藏は袖を払って立ち上がり、鼻で笑う。

「ほう、まだそんな夢を見ているのか。……行くぞ、様子を見に」

一方その頃――

門の前では、啓介が複数の警備員に押さえつけられながらも、必死に叫び続けていた。

「志保!俺は離婚なんて絶対に認めない!お前を失いたくないんだ!」

その時、完璧に着飾った志保が、冷たい表情で彼の前に現れた。

「離婚はもう決定事項よ。あなた、いつまで騒ぎ続けるつもり?」

啓介は警備員を振り払って、よろよろと志保の前に歩み寄り、夢にまで見た顔を飢えるように見つめながら、掠れた声で言った。

「どんな罰でも受ける。でも、離婚だけは認めない…頼む!」

その時、星
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